勝手にメディア社会論

メディア論、記号論を武器に、現代社会を社会学者の端くれが、政治経済から風俗まで分析します。テレビ・ラジオ番組、新聞記事の転載あり。(Yahoo!ブログから引っ越しました)

カテゴリ: ロス・ディズニーランド


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パーク内で販売されているTシャツ。ストームルーパーも西海岸=ディズニーの一員になりました。



スターウォーズで埋め尽くされたトゥモローランド

前回のブログでカリフォルニア・ディズニーランドパークのアトラクションがスターウォーズランド建設のためにあちこちでクローズになっていることをお知らせした。このことが示唆するように、ディズニーのスターウォーズへの入れ込みようはハンパではない。2012年にルーカスフィルムを買収してからというもの。とにかくスターウォーズをミッキーマウスとプリンセスに匹敵するキャラクターとしてクローズアップすることに余念がないのだ。その余波がすでにディズニーランドパーク内にも押し寄せている。

典型的なのはトゥモローランドだ。ランド内に入るともうほとんどスターウォーズ一色。12あるアトラクションのうち、スターウォーズがらみのものはStarwars Launch Bay、Star Tours, Star Wars:Path of the Jedi、Hyperspace Mountain)の四つ。ただし二つのアトラクションが休止(Disneyland Railroad,Autopia)しているので、4割がスターウォーズ絡みとなる。ちなみにStarwars Launch Bayは、いわば「スターウォーズ博物館」。チューバッカやカイロレンに遭遇できる。Star Toursは「エピソード7・フォースの覚醒」 のシーン入り。Star Wars:Path of the Jediはスターウォーズ・サガのダイジェスト映画。Hyperspace Mountainはスペースマウンテンをスターウォーズの戦闘シーンに書き換えた物。またレストラン、ギャラクティック・グリル前のステージではJedi Trainingと称して子供がジェダイになるための訓練に参加できる。お約束はダースベイダーとの一騎打ちだ。ショップもスターウォーズグッズでいっぱい。ライトセーバーは売れに売れている。通路にはストームルーパーが闊歩し、ひたすらスターウォーズの音楽がランド内に流れ続ける。要するにここはもはや「スターウォーズランド」なのだ。

で、よく見るとガイドマップも拍子がなんとチューバッカ。う~ん。

ファンの世代交代・継承を効率的に行う場所

ご存じのようにエピソード7はスターウォーズ・ファンの世代交代、次世代への継承を意図して作られている。過去の遺産を引き継ぎ、これに新しい要素を加え(ストーリーはエピソード4の焼き直しの感が強く、当然これに続く二作が制作されことになっている)、さらにお歳を召したキャラクターを隠居させた。このファンの世代交代を効率的に行う空間としてディズニーランドほど最適な場所はないということになる。ディズニーランドのコンセプトはファミリー・エンターテイメント。家族で出かけるところ。ということはスターウォーズ・サガに熱狂した親(場合によっては祖父母)が子供(孫?)をパークへ連れてきて、ミッキーではなくスターウォーズに触れさせ、帰り際にライトセーバーを買ってあげれば世代交代完了というわけだ。ルーカスは会社を売り払う際に「今後100年は『スターウォーズ』を制作し続けられるだろう」と語っているが、まさにそういうことなのだろう(ただし、ルーカス自身は制作そのものからは外されてしまったが)。

ディズニーカンパニーという巨大メディア帝国

ルーカスフィルムはディズニーに買い取られることで、よりシステマティックで膨大な費用をかけたマーケティングを開始し、確実な未来を物にしたと言えるだろう。

でも、これって、スターウォーズ氾濫同盟軍が帝国軍に降ったみたいな感じでもある。スターウォーズはディズニーのフォースの闇(超巨大なビッグビジネス?ディズニーという名のデススター?)に落ちた?(笑)。また、ファンもディズニーのビジネスの魔の手に落ち続ける?


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トゥモローランド内を闊歩(パトロール?)するストームルーパー




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ガイドマップの表紙。なんとチューバッカ!

スゴい数のアトラクションが休止中!

3月26日(米時間)カリフォルニアにあるディズニーランド・リゾートを訪れた。
ディズニーランドパークに入ってみると、ものすごく混雑している。まるでハッピーニューイヤーの時のような混み具合で、マトモに歩けない。ところが向かい側のもう一つのテーマパークであるカリフォルニア・アドベンチャーアドベンチャーに行ってみると比較的余裕を持ってパーク内を回ることが出来た。

で、実を言うと後者のパークの混み具合の方が正解。パークの方が異常なのだ。

その理由は多くのアトラクション(そしてショーやレストラン)が運営されていなかったから。
列挙してみよう。

1.ディズニーランド鉄道
2.デイビークロケットのカヌー探検
3.ファンタズミック
4.マークトウェイン・リバーボート
5.セイリングシップ・コロンビア
6.トムソーヤ島

7.ビッグサンダー・ランチBBQ(恐らく終了)
8.ビッグサンダーランチ・ジャンボリー
9.ペッティング・ファーム

10.スプラッシュマウンテン
11.キャプテンEO(終了)
12.ジャングルクルーズ
13.インディアナ・ジョーンズ・アドベンチャー
14.イッツ・ア・スモールワールド
15.オートピア(TDRのグランドサーキット・レースウェイにあたる)

なんと15!!(数え忘れを考慮すれば、もう少しあるかも?)

スターウォーズランド建設が理由なのだけれど……

最初の9つはフロンティアランドの北側にスターウォーズランドを建設(14エーカー。東京ドームの1.2倍強の広さに相当)するために1月11日を最後に運営を中止しているもの(アメリカ側の奥はすでに水を抜かれている?)。このエリアは完全に閉鎖されており空間が多少狭くなっている。そこにきてたくさんのアトラクションが中止なのでパーク外にゲストがあふれ出た状態になったわけだ(マーク・トウェイン号は乗船すること自体は可能。ジャズバンドが演奏していた)。

まあ、すでにリリースされていた内容なので、それはそれでよいとしても、ちょっと気になるのが10~15。こちらも一斉に中止となると「おいおい!」という感じではある(ちなみに、翌日スプラッシュマウンテンとインディアナジョーンズは運営)。
パークにやって来たゲストたちは、あんまり気にしていないようだけれど、これはお国柄といったところなのだろうか。もし日本でこんなにいっぺんにアトラクションを休止したらクレームだらけになるんだろうなあ。

ちなみに前述した6つは一年以上再開されないとリリースされている(7~9は完全終了)。なので、アトラクションを期待してきたわざわざ日本からやって来たゲストはがっかりするはず。

60周年記念で派手にイベントをやっているように思えるけれど、それは夜からのショーなので、出かけられる方は、そのつもりで。

まあ、それだけ大胆にディズニーランドはリニューアルされると言うことなんだけれど。

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フロンティアランド、ビッグサンダーマウンテンの先の閉鎖されたエリア。塀の向こうに造営前の土の山が見える。これ、TDRだったら、おそらく見られないだろう。




まだまだ、ある

ロス・ディズニーランドに今も残るウォルトの精神=ディズニーの文化について検証している。前回までは鉄道と潜水艦二つのアトラクションの歴史の継承性について紹介してきた。

こういった「ウォルトの遺産」は他にも細かいところに見つけることが可能だ。たとえばフロンティアランドにあるBig Thunder Ranchでは、本物の山羊と牛が飼われている。 またメインストリートUSA(日本のワールドバザールに該当する。ただしキャノピー=屋根はない)のHorse Drawn Streetcarsも馬が引っ張っている。 ディズニーランドの基本的なコンセプトは「全てを制御可能にすること」。原則、コントロールが難しい動物は置かない(だから、パレードに本物の動物は出てこない)。ところが、ここには動物がいて、子どもたちがこれに触れたり、前述の馬車に乗ることができる。なぜか?実はこれもまたウォルトが開園時にこういった自然と触れられるアトラクションを用意しようとしたからだ(もっとも、今や動物たちが動き回れるエリアはごく僅かになってしまってはいるのだけれど。このコンセプトを大々的に展開したのがフロリダ・ウォルトディズニーワールドのアニマル・キングダム内にあるConservation Stationだ)。つまり、設けているのは、これもウォルトの世界を守ろうとする配慮からだろう。自然で制御不能VS人工的で制御可能、ウォルトの考えの矛盾するものを共存させているわけだ。まあ、なんとも徹底している。


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Big Thunder Ranchでは、ゲストは本物の牛や山羊に触れることができる。


今回、この矛盾が露呈する場面に遭遇することができた。Horse Drawn StreetcarsがメインストリートUSAからプラザの降車場にやって来て、ゲストの入れ替えをやっているときのこと。突然、馬が暴れはじめたのだ。すると、馬担当のキャストが登場し、一生懸命馬をあやすとともに、乗車したゲストに謝罪して、全員を下車させ、馬だけを車から話して連れ去ったのだ。


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Horse Drawn Streetcars。MainStreet USAを本物の馬車が走る!


ウォルトが住むところ

さて、最後にウォルトの精神が息づいている、とても小さな、それでいて最も重要なもの、ディズニーランドの中でウォルトの存在を象徴するものを紹介したい。それは下の写真。Fire Station、つまり消防署だ。エントランスをくぐり抜けると向かってすぐ左側にある。

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ゲート入ってすぐ左にあるFire Station。ウォルトはゲストに知られることなく、この二階で寝泊まりしていた。


これは実際の消防署でもないしアトラクションでもない、ただのアトモスフィア。しかし、この建物が何にも使われることなくここにずっと置かれていることに、実は大きな意義がある。

問題はこの二階だ。ここにはリビングルームがある。だが、一般のゲストがここに入ることは残念ながらできない。じゃ、なんでこれがあるのか?

実は、これはウォルトがディズニーランドにやって来たときに宿泊する施設だったのだ。ウォルトは家族や孫を連れて、ここを頻繁に訪れた。そして窓越しにゲストの様子を見ていたのである。また、ここに寝泊まりし、朝はキャストが来るよりも早くパーク内を回って新しいアイデアを構想していた。もちろん、当時は、ここにウォルトが頻繁に訪れていたなんてことをゲストは知るよしもなかったのだけれど。



Fire Station二階内部のビデオ


こうやってロス・ディズニーランドはウォルトの精神を受け継いでいる。ただし、それはただ単にウォルトの考えどおりにではなく、その精神性を継承しながら今日的意義を加えることによって。つまり、古くなったからといって、ただ別のものに置き換えるのではなく、さながらペンキの再塗装のように、その上に新しいものを塗り重ねていくというやり方で。ここにあるのはまさにウォルトという文化の「重層性」なのだ。

そしてこのディズニーランドは年々そこにしわを刻んでいき、あるいは黒光りしていき、ますます文化としてのいぶし銀の光を放ちはじめるのである。


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ファンタジーランドの西奥に残っているSkywayの乗り場。かつてこのロープウエイはトゥモウロウランドまで伸びていた。

ロス・ディズニーランドに今も残るウォルトの精神について検証している。前回はフロンティアランドにある廃線と、そのトンネルの"いわれ"について紹介した。今回はトゥモウロウランドにある潜水艦のアトラクションをあげてみたい。

Finding Nemo Submarine Voyageはなぜファンタジーランドとトゥモウロウランドの間にあるのか

Finding Nemo Submarine Voyageは2007年にオープンしたアトラクション。ゲストは原子力潜水艦ノーチラス号に乗って水の中の世界を旅する「お客が回遊する水族館」なのだけれど、もちろんここでゲストが見るのは実際の生物ではなくオーディオ・アニマトロニクスト(機械仕掛けの生き物)と、映像で展開されるNemoの世界。これが、ファンタジーランドとトゥモウロウランドの間に設置されている。しかも、括りとしてはトゥモウロウランドに属している。ピクサーキャラクターのNemoなのだからファンタジーランドかカリフォルニア・アドベンチャーに置かれるのが正しいという感じがするが、ここにこのアトラクションが設置されているのは、ウォルトの精神という"いわれ"からすればある意味絶妙な塩梅といえる。


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"Finding Nemo Submarine Voyage"はトゥモウロウランドとファンタジーランドの間にある
(所属はトゥモウロウランド)




実は、かつてここには、1998年までこれとほとんど同じアトラクションがあった。その名も”Submarine Voyage”と、Nemoの部分を取っただけ。そして、これはウォルトが生前に構想したものだった。やはり潜水艦に乗って海の中の世界を見せるものだったのだけれど、この潜水艦が周遊する横の岩礁には人魚がいてゲストに愛想を振っていた。この人魚、なんと人間が演じていたのだ。

Submarine Voyageについては、ウォルトにまつわる有名なエピソードがある。1959年、ソビエトのフルシチョフ共産党書記長がアメリカを訪問した。時は冷戦のまっただ中。それゆえフルシチョフの来日はアメリカにとっては大きな事件だった。そして、この来日スケジュールの中にフルシチョフたっての希望でディズニーランドの訪問が組み込まれていた(フルシチョフはディズニーランドに行きたがっていた)。これは共和党支持という典型的な保守で、レッドパージにも協力し、労働組合を踏みにじることに精力を注いだウォルトにとって、フルシチョフの訪問は敵国・ソビエトのトップにアメリカの威厳を示してやろうという野望を叶えるにはうってつけの機会。そこでウォルトはアメリカ的な優位性を示しながら友好を深めるために、このアトラクションを利用することを思いついたのだった。その計画とは、フルシチョフ来園時、潜水艦を勢揃いさせたこのアトラクションの前に一行を招き寄せて艦隊式を催し、次のようにコメントすることだった。

「フルシチョフ閣下!我がディズニーが誇る世界第3位規模の潜水艦隊であります。わがアメリカは、これだけの潜水艦を揃えています」

ちょっと皮肉が入ってはいるが、無邪気なウォルトらしい茶目っ気溢れた演出だ。ウォルトはこれを得意満面でやりたかったに違いない。

しかし、この思惑は見事に外れてしまう。というのも、アメリカ政府が治安上の保証ができないということで、フルシチョフのパーク訪問を直前でキャンセルしてしまったからだ。ウォルトはさぞかしがっかりしたことだろう(ちなみにフルシチョフの悔しがりは尋常ではなかったという。この二人、もし遭遇することがあったなら、きっと意気投合したんじゃなかろうか。どっちも"子供っぽい"という性格が同じなのだから)。

このアトラクションは1998年に運営を終えるが、その後、ピクサーアニメ”Finding Nemo”の大ヒットにあやかって復活する。ただし今度は原子力潜水艦ではなく黄色い一般の潜水艦として(ちなみに、以前のアトラクションの時にも、リニューアルの際には黄色に塗り替えられている)。しかも、そこで展開されるのはNemoの世界。だから、これも前回説明したビッグサンダーマウンテン同様、ウォルトの精神を現代風にアレンジし直したものなのだ。

こういった「いわれ」「文化的継承」については、さらに徹底が図られている。2007年、本アトラクションのグランドオープンニング・セレモニーが開催された。そしてこの時招待されたのは……なんと、かつてここで働いていたキャストとその子どもと孫、そして人魚を演じていたキャストだった。そう、オープニングでは、しっかりとウォルト精神の継承儀式が繰り広げられていたのだ。

以前よりも、よりウォルトらしいアトラクション?

こうやって考えてみると、このアトラクションがファンタジーランドとトゥモウロウランドの間に設置されていることの必然性が見えてくる。潜水艦という「未来」的なものにNemoという「ファンタジー」が加わってちょうど二つのテーマをつなぐ存在になっているからだ。ディズニーランドの基本コンセプトは「テーマパーク」。ただし、パークの中にはいくつものテーマランドがあり、常にランドとランドのあいだをどうつなぐかが問題になる。隣のランドが見えたらテーマは破壊され、興ざめしてしまうからだ。だからランド間は目隠しがされたり、プロムナードが設けられたりする。しかしこのアトラクションはどちらの要素含んでいるため、そういった仕切りを置かなくてもテーマはなだらかに変化し、全く違和感がない。ある意味、ウォルトが当初設置したSubmarine Voyageよりも、さらにウォルト的なのだ。(続く)

ウォルトを引きずるロス・ディズニーランド

東京ディズニーランド=「過去を振り返らないオタクランド」、ロス・ディズニーランド「過去を引きずるウォルトのランド」、つまり「ウォルトの精神を徹底的に踏襲したテーマパーク」という前提でロス・ディズニーランド(DL)の魅力についてお伝えしている。

さて、DLの「過去の引きずり方」だが、これは「文化の重層性」と言い換えることができる。とにかくウォルトが生前、このパークに注入した精神を厳密に守ろうとする。それゆえ施設を新設・更新する際にも、過去のアトラクションや施設と新設するそれとの関連=いわれを綿密に計算するのだ。

いくつか例を挙げよう。今回はその一つ目、鉄道について。

フロンティアランドにある廃線とトンネル

フロンティアランド(TDLのウエスタンランドに該当する)でアメリカ側を周遊するマークトウェイン号(あるいはコロンビア号)に乗船すると、その終点近く左側に妙なものを見つけることができる。ボロボロになった線路(数年前まではボロボロの脱線した列車もあった)、そして使われていないトンネルだ。

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アメリカ川に突然出現する廃線


これは下船してその反対方向に向かってみると、やはりトンネル(つまり、反対側の入り口)二つを見つけることができる。ひとつはトンネルの向こうに光がはっきり見える、もう一つは板でトンネルが塞がれている(しかし、かろうじてトンネルの向こう側の光が見える)。これはいったいなんなんだろう?

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川の反対側にあるトンネルの跡




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こちらもトンネルの跡。目隠しがない。



要するにアトモスフィアなのだけれど、実はもともとこれはアトラクション。それを廃止した後、わざわざこういったかたちでアトモスフィアとしてそのまま残してあるのだ。

鉄道はウォルトのアイデンティティ

残す理由ははっきりしている。ウォルトにとってディズニーランドとは「鉄道」であったからだ。子ども時代、ウォルトには子ども的な生活がほとんどなかった。父・イライアスは敬虔なクリスチャンだったが、それゆえ厳密な労働を子どもにも強いていた。なおつ仕事を頻繁に変える性格があるゆえ、子どもたちは常に貧困の中で重労働を強いられることになる。これはウォルトも例外では無かった。とにかく子どもの頃から新聞配達みたいなことを一日中やらされていたのだ。こんな父親ゆえ、兄たちはそのつらさに耐えられず次々と家を出て行った。だが、それは、彼/彼女たちの担っていた労働がそのままウォルトの仕事に追加されることに他ならなかった(ウォルトは仕事に終えて家に帰ると、疲労のあまりそのまま気絶するということが何度かあったらしい)。

そんなときウォルトが垣間見た子どもの世界は新聞配達先の家庭だった。そこには子どもが遊ぶおもちゃがあり、いかにも子どもの生活環境らしい風景が広がっていた。そして、これはもちろんウォルトが決して得られない環境でもあった。

そんな劣悪な環境の中で、ウォルトが唯一楽しみにしていた仕事があった。それは鉄道内での売り子だ。列車に乗ることが大好きだったのだ。これだけは嬉々としてやっていたのだ。

こういった「子ども時代の無さ」へのルサンチマン、「子どもの頃の鉄道への思い入れ」がディズニーランドにはベタに反映されている。つまり、ディズニーランドはウォルトが子ども時代に親しみたかった環境の再現であり、鉄道はそういった子ども時代を象徴するものだった。ウォルトにとって鉄道とはアイデンティティを確認するものにほかならなかったのである。

だから、ディズニーランドはその建設に先立ってスタジオがあったバーバンクスの敷地にそのプロトタイプを作る計画を立てたときには、やはりパークの中心は鉄道だった。

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ウォルトが当初、バーバンクスのスタジオのそばに建設しようと構想したディズニーランドのプロトタイプ。完全に「鉄道ランド」といった趣だ。


そしてディズニーランド建設にあたっては、なんとこのパーク内にいくつもの鉄道を敷いたのだ。一つはパーク外周を周遊する「ディズニーランド・レイルロード」、二つ目はファンタジーランドにある「ケイシーズ・サーカス・トレイン」(映画「ダンボ」のサーカス列車がモデルで、当初はジェットコースターとして建設する予定だった)だった。この二つは現存するが、実は三つ目が存在した。the Mine Train Through Nature’s Wonderland という、フロンティアランドにあったアメリカの荒野や自然をを見て回るというアトラクションがそれだ。これは1977年まで運営された。そして、この名残こそが現在アトモスフィアとなっている廃線、そしてトンネルなのだ。


フロンティアランドにあったthe Mine Train Through Nature’s Wonderland


しかもこれは、ただ残しているのではない。あえて廃線を見せる、そしてトンネルがあったことをこれ見よがしに見せているのにはちゃんとした理由がある。その理由とは、もちろん「ウォルトの鉄道への思い入れ」そして「ウォルトの思想の継承」といったい見合いがあるのだ。

トンネルの反対にあったのは

次のビデオを見てほしい。


Big Thunder Mountainはthe Mine Train Through Nature’s Wonderlandの継承であることが、この映像から見て取れる。



これは川の反対側から見えるトンネルから、その反対に流したビデオだ。もしトンネルがそのまま続いていたら、当然、線路はカメラでいえば180度反対側に続いているはずだ。そしてその180度先に見えるのは、なんとBig Thunder Mountain Railroad、そう日本でもお馴染みのビッグサンダーマウンテンなのだ。これは1979年に新設されたのだけれど、ようするにthe Mine Train Through Nature’s Wonderland はビッグサンダーに取って代わられたのだ。そしてそれは言い換えれば、ウォルトの精神を今日ふうにアレンジしなおしたことに他ならない。僕が言いたかった文化の重層性とは、つまりこういうこと。こういった継承性は「過去を振り返らない」TDLでは決して見ることはできない。

いや、これだけでははい。DLではウォルトの精神の継承がこれ以外にもあちこち見つけることができるのだ。(続く)

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