勝手にメディア社会論

メディア論、記号論を武器に、現代社会を社会学者の端くれが、政治経済から風俗まで分析します。テレビ・ラジオ番組、新聞記事の転載あり。(Yahoo!ブログから引っ越しました)

カテゴリ: ディズニーいろいろ

東京ディズニーリゾートでアトラクションにほとんど待たずに(長くても10分程度)乗ることができる便利なサービスにファストパスがある。ファストパスの発券所のマシンにチケットを差し込むと入場可能な時間が明示されたカード・ファストパスがもらえ、指定された時間内(1時間)にアトラクションへ向かえば良いというシステムは広く知られているところだ。ただし、一挙に複数枚を抜くことは出来ない。次の発券まではある程度の時間待たされる仕組みになっている(最長2時間程度)。また、人気のアトラクションではファストパスを抜くのに長時間待たされたり、オープン早々発券終了だったり(TDSのトイ・ストーリー・マニア!)。これもパークのリピーターならよく知っていることだ。

WDW=ファストパスをスマホからゲット

このファストパスのシステム、アメリカではもっと進んでいる。典型的なのがフロリダのウォルトディズニーワールドだ。ここにはファストパスというシステムは存在するが、発券所が存在しない。ワールド内のテーマパークでファストパスを抜きたければ、まずWDWの公式アプリ”My Disney Experience”をダウンロードする必要がある。これはパーク内のあらゆる施設をキャッシュ、クレジットカード、ルームキーなしで利用できるマジックバンド(ゲストが腕に付けるバンド。ICチップが組み込まれている)やチケットと紐付けされている。ここに明記されたIDでアプリにアサインメントしファストパスのページに入ると、数日先の分まで1日につき1つのパークに限定されるが、4つまでファストパスを登録することが出来る。とても便利なシステムだが、これはスマホ+公式アプリがなければファストパスをゲットできないということでもある(PCサイトもあり)。


イメージ 1

WDWのマジックバンド。これがあればファストパスの抜く必要はない。
チケットもルームキーもクレジットカードもいらない!


Disneyland CA=ファストパスはチケットに紐付けされた

WDWのファストパスのシステムはとても便利だが、これをカリフォルニアのディズニーランド(Disneyland Park,以下”DL”)にそのまま適用するのはちょっと難しい。2つのテーマパークのゲストの性質が異なるからだ。WDWのゲストはそのほとんどがWDW内のホテル(3万室ある)及び周辺のホテルに3日以上滞在し、5つのテーマパーク、二つのウォーターパーク、その他の施設を利用する。だからMy Disney Experienceとマジックバンドの組み合わせは極めて整合性が高い(つまり、ゲストはわざわざアプリをダウンロードしてまで使いたいという気になる)。

一方DLの場合、顧客は日帰り客や、年パスを所有しているパーク周辺の南カリフォルニアンが多く含まれる。たった1日の滞在でいちいちアプリをダウンロードして手続きするなんてのは、どう見ても煩雑だ。そこでDLはファストパスをより効率的かつ合理的に発券する方法を考えた。

まず、ファストパスの発券所。これは以前と同様、設置してある。ところが発券されるのはファストパスそれ自体ではなく、ファストパスのリマインダーだ。だから、ファストパスは一部のもの(ファンタズミックのファストパスなど)を除き発券後回収されない。ディズニーランド好きならファストパスのコレクションができるといった状況になる。

じゃあどうするか?これはチケットに秘密がある。チケットは入場時に配られるのだが、その際ゲストは写真の撮影が義務づけられる。写真のデータがチケットに記録されるのだ(写真はセンサーを通してしか見えない)。そしてファストパス発券所に行ってチケットを機械に挿入するのも同じ。この時、ファストパスの権利がチケットに記録される。ゲストはファストパスならぬリマインダーで入場時間を確認し、指定時刻に向かうと入り口にセンサーがあり、そこにチケットをかざすことでファストパスの権利保持者であることが確認される(だからファストパス・リマインダーの回収は必要ない)。ちなみにDLではWDWのMy Disney Experienceと同じようなファストパスサービスも用意されている。2017年7月から開始された”Disney Max Pass”がそれで、専用アプリをダウンロードすると発券所に行かなくてもファストパスをゲットできる(デザインがMy Disney Experience”にそっくり)。ただし、これは1日の利用料が10ドル。これをトクと見るかどうかは人による。

DLのファストパス、なかなかよく考えられたシステムだ。日帰りのゲスト、そしてスマホを持っていないゲスト(そんな人間はもはや皆無に等しいが)にも適用可能だからだ。

ただし、これは残念なこともある。東京ディズニーリゾートのゲストの間ではよく「ファストパスのプレゼント」といった光景が見られる。ファストパスを抜いたのはよいが、時間の都合で使えなくなってしまった場合、このファストパスの権利を放棄することになるのだが、その際、他の見知らぬゲストにプレゼントするのだ。この恩恵を受けたゲストは少なくないだろう(僕はもらったこともプレゼントしたこともある)。当然のことながら、これができなくなる。権利があくまでチケットに紐付けされているためだ(権利をプレゼントしようとするならチケットそのものをあげなければならない)。ただし、これはDL側からすればその分ファストパスの利用者が減るわけで、実際に入ろうとすゲストの待ち時間を短縮するというメリットがある。



イメージ 2

二つのパークを渡り歩くことが出来るチケット:パークホッパー。
ここに個人のデータが紐付けされるのでファストパスは不要になる。



東京ディズニーリゾートはカリフォルニア・ディズニーランド(DL)型のファストパスに?

東京ディズニーリゾートが新しいファストパスのシステムを導入しようとするならば、おそらくこのDL型を採用するだろう。日帰りが多いのだから。これが導入される日はそう遠いことではないだろう。また、これはディズニーランドに対する認識の違いを象徴してもいる。アメリカの場合、ディズニーランド入場者の90%以上が家族、一方、日本の場合は70%前後。そしてリピーター率は90%以上に及ぶ。リピーターのほとんどは日帰りだ。ということは、DL型のファストパスは本家DL以上にTDRには親和性が高いことになる。

DL型ファストパスの落とし穴

さて、最後にこの合理性を突き詰めたDLのファストパスだが、実は意外なところに落とし穴がある。次の写真を見てもらいたい。


これはDLのカリフォルニア・アドベンチャーで同じ日の午前中3時間あまりで抜いた、同じアトラクション(インクレディコースター=旧カリフォルニア・スクリーミング)のファストパス・リマインダーだ。計8枚だが、これは二人で抜いたものだ。なぜいっぺんにこんなにたくさん抜くことが可能だったなのか?

さらに次の写真をご覧いただこう。


イメージ 3



これはインクレディブルコースターが途中で停止しているところ(なんとゲストがこの高いところから下ろされている。もちろん緊急退避場所でコースターは停車するので、階段で降りることが出来るようになっているのだが。とはいっても、こりゃとっても「怖いアトラクション」だ。ちなみにこんな事態はテレビのネタにすらならない)。この後、このアトラクションはずっと停止し、結局、復旧することはなかった。

ところが、である。なるべく早く復旧することをパーク側は前提としているのでファストパスの発券は続いたのだ。

そして、ここに抜け穴がある。ファストパスのシステムでは搭乗しようとしたアトラクションが中止(キャスト用語では“101”と呼ぶ。映画”101匹わんちゃん”から採ったもので、原義は「大騒ぎ」)になった場合でも、ファストパスの権利はなくならない。このファストパスはそれ以外のアトラクションのファストパスに化けるのだ。つまりオールマイティのスーパー・ファストパスになる。実際にアトラクションに行って動かないことを発券した場合は別のこのオールマイティ・ファストパスをもらえるし、もらわなくてもアトラクションが停止していることは他のアトラクションに知らされているので、そのチケットを持っていけば、当該時間にファストパスが適用されているどのアトラクションにもファストパス待遇で乗ることができる最強のファストパスになるのだ。ここには「ご迷惑をかけたお詫び」という意味合いがある。

このサービスは世界中のディズニーランドで適用されているが、これがこのDLの新しいファストパスにも適用されている。で、僕はこの新しいシステムとファストパスのサービスの間の抜け穴を見つけた。

インクレディコースターは動かない。一般のゲストは「こりゃ動かないな?」とここのファストパスを抜くのを諦める。ただしコースターは機械的にファストパスを発券し続ける。と、いうことは……ものすごく短いスパンで次々とコースターがファストパスを発券し続けることになる。そしてインクレディコースターは相変わらず動かない。一方、こちらとしてはこのパスを次々と抜いて、他のファストパスに利用する。実際、前述したように、この日、このアトラクションは結局全く動かなかったので、僕が抜き取ったインクレディコースターは全て他のアトラクション、つまり,ザ・ガーディアン・オブ・ザ・ギャラクシー、ミッドウエイ・マニア、ラジエター・スプリングス・レーサー、ソアリン・オーバー・ザ・ワールドのファストパスとして利用している。当のインクレディブル・コースターには一度も搭乗していない。いちいちピクサー・ピアのインクレディコースターファストパス発券所まで足を運ばなければならないのは面倒だったけれど(もしDisney Max Passを所有していれば、この手間さえ省くことができる)。



イメージ 4

午前中の間に同じアトラクションのファストパスが二人で8枚も抜けた!


ということで、TDRにこのシステムが導入された際には裏技になるかも?もっとも、この抜け穴も、いずれ塞がれるんだろうが。



イメージ 5

二週間後に訪れたら、やっぱりこのアトラクションは稼働せず。、
だが、しっかりファストパスが抜けなくなっていた。抜け穴が塞がれた?


35th Happiest Celebration開催

東京ディズニーランド(TDL)は昨日(415)から一年弱の期間で「Happiest Celebration!」と称して開園三十五周年記念イベントを開始した。すでに一般報道でもなされているように、現在TDL2020年に向けて大リニューアル中だが(トゥモローランドの一部がファンタジーランドへと変更され、美女と野獣及びベイマックスのアトラクション等が増設される)、今回のイベントはその繋ぎ、近年の入場者数頭打ちへの喝入れといった側面もあるだろう。現在、入場者数は東京ディズニーシーと併せ年間3000万人程度前後。これは人気が低迷したと言うよりもキャパシティを超えてしまったためといわれている。またディズニー=混雑というイメージが定着し、その結果、顧客満足度が大幅に低下している。だが、こうした停滞、そして顧客満足度の原因を「混雑」の一言で表現するのは少々無理があるような気もする。むしろ、それはパークの混沌にも求められるのではないか。TDLはこの二十年間でテーマパークというコンセプトがどんどん崩壊し、一般には統一したイメージを掴みづらくなっている。その状況は、いわばUSJ化。なんとももはやごった煮的で、ひたすらにディズニー印の情報がばらまかれているという状態になっているのだ。

さて、今回の目玉は新パレードのドリーミングアップとイッツ・ア・スモールワールドのリニューアル。僕は一昨日(14日)、先行のお披露目に招待され、この二つを見る機会を得たのだが、やはりこれらも混沌という言葉の文脈にあるものだった。

ごった煮のパレード・ドリーミングアップ

まず昼のパレード・ドリーミングアップ(ただし当日は夜からの招待だったので昼間のパレードが午後8時から開始された)。フロートの数は10とちょっと少ない。しかも一つおきにビッグ5などのメインキャラクターのみが乗った小さなフロートが続く。各フロートのテーマはファンタジア(ミッキー)、ふしぎの国のアリス、ピノキオ、プリンセス、美女と野獣、くまのプーさん、メリーポピンズ&ピーターパン。フロート間の関連は不明、そしてこれらフロートの間に前述したキャラクターの小さなフロートが挟まる形になっている。全体の基調を整えているのはこの小さなフロートで、すべて映画「ファンタジア」の魔法使いの弟子に登場する箒の形をしている。

キャラクターの数(着ぐるみのもの)は567程度だろうか。カリフォルニアのパレード(サウンドセイショナル)の倍以上だ。そしてフロートそれぞれについてもテーマは少々逸脱している。最も甚だしいのが最後のフロート(スポンサーのフロートの手前)で、ここではメリーポピンズとピーターパンが同居している。メリーポピンズ、バート、ペンギンといったキャラクターの後ろにピーターパンとウエンディがいるという状況。この二つをかろうじてつなぐのは設定がともにロンドンであることだけ(ビッグベンつながりと言ったところか)。
そして最後にアラジン、ジャスミン(アラジンのプリンスとプリンセス)、シンデレラのネズミ(ジャック、ガス、パーラ)、マックス(グーフィーの息子)、クラリス(チップとデールの恋人?)、クララベル・カウ、ホーレスホースカラー(1930年代に登場した牛のキャラクター)が何の脈絡もなく練り歩く。まさに混沌といった状況だ。制作側は「パレードを見る人の想像力をかき立てる」ことをねらいとしているしているらしいのだが、僕にはバックグラウンドストーリーの詰めが甘いだけにしか思えなかった。

キャラお披露目アトラクション化したイッツ・ア・スモールワールド

イッツ・ア・スモールワールドのリニューアルは、これまであった世界の子どもたちの人形の中にディズニーキャラクターを子ども化(TSUM TSUM化的なそれ)させて、あちこちに配置したことだ。アリス、ラプンツェル、メリダ、シンデレラ、リロ&スティッチ、モアナ、ピーターパンとウエンディ、三人の騎士のキャラクター(スリーアミーゴズ=ドナルド、ホセ・カリオカ、パンチータ)、ライオンキングキャラクター(シンバ、プンバァ、エド)などが登場する。このやり方はすでにカリフォルニアでも採用されていて、たとえばリロ&スティッチはほぼ同じものだが、全般的にTDLの方がディズニーキャラクターを強く押し出しいる。そのため子どもたちが世界の言葉で「小さな世界」を歌い平和や幸せを奏でるというテーマが後退し、ディズニーキャラクター萌え的なイメージが前面に現れた。事実、ゲストたちはキャラクター捜しに夢中で、もはやアトラクションの世界観にあまり関心はないようだ。ストーリーも、もうここにはない。1960年代にこのアトラクションを企画・監修したディズニーレジェンドのメアリー・ブレアやマーク・デイビス、アリス・デイビス、そしてウォルト・ディズニーがこれを見たらさぞや嘆いたことだろう。

再び求められる世界観?

そもそもディズニーランドはテーマパークであり、その世界観を見せること、その世界観を個別の物語の中で具体的に示すこと、さらにはこれらを彩る存在としてアトラクションの演出やキャラクターの存在があった。しかしTDLが推し進めているのは物語=ストーリーなき演出、キャラクターを突出させるスタイルだ。その典型が東京ディズニーシーのメインキャラクターのダッフィーだが、いわば既存のキャラクターがどんどんダッフィー化、言い換えれば「萌え要素化」しつつある。

このごった煮でカオス的な状況を推し進めるパークにかなりの人々が嫌気がさしているのではないか。ディズニーをテーマパークと捉える人々にとっては膨大な情報が脈絡無くちりばめられているパークは処理不可能なものであり、不安に陥る可能性が高いからだ。ただし、はじめからごった煮と捉えている人々(とりわDヲタと呼ばれているディズニーオタクの人々)にとっては都合のよい存在だが。そして、はじめからごった煮と捉えているのなら、実はジョーズとスパイダーマンとスヌーピーと進撃の巨人とハリーポッターが同居する究極のカオス=USJの方が、その先を行っているわけで、却ってそちらの方が魅力的なのではなかろうか。事実、USJは右肩上がりの成長を続けている。

ひょっとすると東京ディズニーランド、いやディズニーシーを含めた東京ディズニーリゾートはリニューアルしても顧客満足度を高めることが出来ず、次第に入場者数を減らす……こんなことが起こるかも知れない。もちろん、結論はリニューアルがコンプリートする2020年以降にわかるのだろうけれども。

映画の世界では数年前から4D映画というカテゴリーが登場している。ご存じ3Dはメガネをかけて立体映像を楽しむものだ。4Dは”four dimension”なわけで、名前からすればリアルワールドを超えてしまうのだが(笑)、4Dは3D技術に各種の体感が付け加えられたものを指している。4DXは風、水しぶき、香り、煙、風圧、雷、雨、泡、それにシート可動などの効果が。最近では地響き、霧、カラダへの感触、シートの突き上げが加わったMX4Dというシステムもあるらしい。

先日アメリカ・フロリダにあるウォルトディズニーワールド(以下WDW)のバックステージ(バックステージ=キャスト=スタッフのみが入り込むことのできるエリア)を覗く機会があったが、そこで4Dにまつわるちょっと面白いエピソートをキャスト=スタッフから聞くことができたので紹介したい。

最新技術の導入を志向し続けたウォルト

ウォルトがアニメ映画、そしてテーマパークを中心としたエンターテイメントビジネスの第一人者となった背景には、これらをより魅力的に見せるために、様々なテクノロジー、しかもこれまで使われてはいなかったものに次々と手をつけていったという事実がある。最もよく知られているのはミッキーマウスのアニメで、ミッキーの出世作『蒸気船ウイリー』(1928)は、アニメとしては実質的に初のトーキー(音入り映画)だった。これ以前にも、すでにトーキーは存在したが(アニメ映画初のトーキーは『なつかしのケンタッキーの家(Old Kentucky Home)』(1924年)実写映画初のトーキーは”Jazz Singer”(1927))、本作は音の映像が完全に一致し、しかもその組み合わせによって新しい表現方法を開拓していた。それが結局、後の技術のデファクト・スタンダートとなっていったことで「実質的に初のトーキーアニメ」と呼ばれるようになった。ウォルトは技術を志向し、そしてそれを世に放つときには作品に新風を吹き込む完璧なものにすることに余念が無かったのだ。

ウォルトは終生、こういった技術に対する執着が止むことがなかったが、その志向の一側面は、いわば「4D技術に向けて」と表現するのがふさわしい。歴史を辿りながら、このことを確認してみよう。

70年以上も前にアニメに4Dを取り入れようとしていた

一つ目は3D的な技術の追求について。これについては1933年に開発され、37年の二作品『風車小屋のシンフォニー』(原題”The Old Mill”)、『白雪姫』で初めて使われたマルチプレーン・カメラがある。原画と複数のセルを直接重ね合わせるのではなく距離をおいて浮かせ、真上からカメラ撮影するというもので、それぞれのセル画を上下することで微妙な立体感を作り出すことに成功している。その技術がよくわかるのは『ピノキオ』『バンビ』の冒頭シーンだ。とりわけバンビは秀逸で、森のシーンなのだが、思わず実物、あるいは3Dメガネなど不要と思いたくなるくらい見事な立体感が作り出されている。

4Dの技術に乗り出したのは1940年に上映された、セリフゼロ、クラッシック音楽に合わせて映像が流れ続ける実験的作品『ファンタジア』だ。映画館内に多数のスピーカーを配置し、それぞれ別の音を出させることで、立体音響、つまりサラウンドを可能にしようとする試みだった。この技術には「ファンタサウンド」という名称が与えられた。ただし、技術的には可能でもこの設備を映画館内に設置するには膨大な費用がかかるため、結局、ごく一部の映画館だけで、しかも3chでの立体音響になったという話は有名だ。ただし、録音は9トラックで行われていたため、戦後のリバイバル上映に当たっては立体音響が実現し、好評を博したという。また、現在販売されているDVD/Blu-rayでは、このサウンドが英語は7.1ch、日本語は5.2chで楽しむことができる。

さて、ここまでの情報は結構よく知られた話だ。しかしWDWのキャストの説明によれば『ファンタジア』制作に際しては、もう少し話が込み入ってくる。ウォルトの欲望はサウンドだけには留まらなかった。構想にはサウンドの他に、前述した4Dの技術も織り込まれていたのだ。具体的に思いついたのは風と煙。ただしこれは却下された。当時は映画館内でこれらを実現することは経費的にも技術的にも不可能だったのである。会議の席では他のスタッフから「映画館を火事にするつもりですか?」とたしなめられたという。

ただし、これくらいのことではめげないのがウォルトで、こういった4Dへの志向は映画制作を飛び越し、結局テーマパークの建設によって実現することとなる。1955年オープンのディズニーランドはこの時点ですでに蒸気で走る本物の機関車がパークを一周していた。また機械仕掛けの人形=オーディオ・アニマトロニクスという技術は音(オーディオ)、動き(アニメーション)、技術(テクノロジー)を一体化させたもので、これによって1963年、音に合わせて鳥が歌い踊るアトラクション『魅惑のチキルーム』が誕生した。現在、その最先端のひとつはWDW・マジックキングダム内のニューアトラクション”Seven Darfs Mine Train”で見ることができる。これは鉱山列車型のジェットコースターに乗って『白雪姫』の物語の一部を覗くものだが、ここに登場するこびとたちは完璧にセリフを喋る。台詞に合わせて口が「パクパク」するのでなはく、英語を「喋って」いるのだ。これはキャラクターの内側から映像をあてて動いているように見せているとの説明を受けたが、キャラクターには外側から光が燦々と浴びせられているにもかかわらず、口元はクッキリと見える。なので、説明されても実際のところ技術的にどうやっているのかサッパリ解らない。

ディズニーランドは4Dランド

4Dに向けた技術の革新はウォルトの死後も続けられ、その多くが現在ディズニーが運営するテーマパーク内で稼働している。「動き」についてはアトラクションなので言うまでもないが、それぞれのアトラクションでは熱や風、冷気、水しぶき、振動、地響き、煙、雷、まあとにかくいろんな仕掛けが登場する。パークはウォルトの4D志向の結晶したものといってよいだろう。

最後に、パーク内にある、ちょっと面白い4Dを紹介したい。それは「におい」についてものだ。ディズニーのテーマパークのアトラクションには「におい」のでてくるものがいくつかある。ハングライダーに乗ってカリフォルニアや世界の旅行体験ができる『ソアリン・アラウンド・ザ・ワールド』(旧『ソアリン・オーバー・カリフォルニア』、上海ディズニーランドオープンに伴ってワールドに変更された)では森の上空で森のにおいが、旧『カリフォルニア』ではオレンジ畑でオレンジのにおいが出てくるという具合だった(もちろん、同時に風も吹いている)。またフロリダのアニマル・キングダムやアナハイムのカリフォルニア・アドベンチャーにある、昆虫の地下世界に潜り込む『イッツ・タフ・トゥー・ビー・ア・バグ』やフロリダ、エプコットにある『ジャーニー・イントゥ・イマジネーション』で放たれる「におい」は、なんと「おなら」だ。

ディズニー流、究極の4Dとは

だが、さらに究極の「におい」がある。それは、フロリダ、マジックキングダム内のメイン・ストリートUSA(TDLのワールドバザールに相当するテーマランド)にあるスターバックスがテナントとして入っているお店「メイン・ストリート・ベーカリー」にある。ここはいつも客で賑わっている。一般のスタバ同様、コーヒーの他にサンドイッチにもありつけるのだけれど、店内、そして店の前はつねに焼きたてパンの香ばしい香り=「におい」が漂っている。まあベーカリー=パン屋だからあたりまえと思ってしまうのだが、ここにはパンを焼く設備はない。あらかじめ作り終えたものを運んできて提供しているだけなのだ。パンは地下にあるユトリドールという通路を使って搬入されている。ということは、この「におい」はいったい?実はこれもまた人工的に作られた「におい」なのだ。ユトリドールの天井に「におい」を出すボンベが取り付けられ、そこから店内と店の前ににおいをばらまくという仕掛け。言い換えれば、誰もこれが偽物だとは気づいていない。で、こうなると店の前のにおいがいちいち妖しい気もしてくるわけなのだけれど(笑)、これはさすがに驚いた。究極の4Dとは、もはやそれが4Dであることがわからない世界ということになる。

4月28日、オリエンタルランドが今後十年にわたる東京ディズニーリゾートのリニューアル案を提示してからと言うもの、その方向性についての議論がかまびすしい。

ストームライダークローズに見るポートディスカバリーの混乱

ディズニーランドのマニアックなファンについては、二つの傾向がある。
一つは「ディズニー情報消費享受者」。ディズニー側の新しい情報に徹底的にアクセスし続け、それを消費する。とにかくガンガン購入し、二つのパークを頻繁に訪れてくれる。こんな連中ばっかりだったら、ディズニー側も、そりゃラクだろう。

ところが、もう一つ辛口のマニアがいる。それはディズニー、いや厳密に言えばウォルト・ディズニーの思想(テーマパークとファミリーエンターテイメントという考え方)に心酔し、これに忠実な「ディズニー原理主義者」たちだ(これは、パークオープン時からディズニー世界に親しんできた、そこそこ年配(三十代から上)の人間が多いのではと、僕は踏んでいる)。

今回、OLCの方針に「ちょっと待った!」をかけているのが後者の原理主義者たちだ。
彼らがやり玉に挙げたのが東京ディズニーシー(TDS)のテーマポート、ポートディズカバリーにあるアトラクション「ストームライダー」のクローズだ。このアトラクション。2016年にリニューアルされることが発表された。ストームライダーは気象観測施設「気象コントロールセンター」から飛行型気象観測ラボ「ストームライダー」に搭乗するという想定だが、これが映画『ファインディング・ニモ』とその後編にあたり16年公開予定『ファインディング・ドリー(原題)』の世界を再現したアトラクションに置き換わる。だが、この変更が彼らには問題なのだ。

ストームライダーがあるテーマポート、ポートディスカバリーの物語=バックグラウンドストーリーは「ストームライダー計画の研究成果を発表するために、お祝いをしている」というもの。それゆえ、ストームライダーの存在はポートディスカバリーの根幹をなしている。だから、ファインディング・ニモへの変更はテーマポートの存在それ自体の否定になってしまうのだ。そこで、テーマ性を重視するファンからは反対の声が上がっている。Twitter上では「#ストームライダークローズ反対」のハッシュタグが登場。クローズ中止を求める署名ページも立ち上がった。彼らの反対の趣旨は「エリアの世界観が崩壊する」のいうものだった(ただし、オリエンタルランド側としては、このテーマポートには「自然と科学の調和」という世界観があり、それについて変更はないとコメントしている)。


世界観の崩壊とジャパンオリジナル化

原理主義者たちが眉をひそめる要因、つまり東京ディズニーリゾートのリニューアルによる世界観の崩壊はこれだけではない。

TDSに新たに加わることになったテーマポートは『アナと雪の女王』が舞台になった北欧をテーマとしたもの。これが、前述のポートディスカバリーとロストリバーデルタの間に建設される。前者は「20世紀初頭の人々が描いた架空の未来」、いわゆる「レトロフューチャー」、後者は「1930年代の古代文明の遺跡の発掘現場をモチーフにした、中央アメリカ熱帯雨林地域。レトロフューチャーと北欧の間には運河?が流れており、これがテーマを隔てているからまだよいが、密林の隣に北欧というは、かなり支離滅裂。熱帯が突然、寒くなってしまうわけで。

こういったテーマ性の崩壊。実は、今回の件に始まったことではない。パーク内は当初のディズニーランド的なもの、いいかえればウォルト・ディズニーが構想したものからはどんどんかけ離れていく傾向がある。パーク内にラーメン屋やドリンクの自販機が置かれるようになったのはその典型だ。また、最近はキャラクター重視の傾向が強く、ストーリーや設定がおろそかにされがちなのも事実だ。

しかし、これがジャパン・オリジナルとしてのTDR(東京ディズニーリゾート)の変化のあり方なんだろう。リピーターたちのニーズに応じることをモットーとし、そして膨大な数のファンの多様なニーズに応えた結果、TDRはテーマパークとしての体裁、つまり世界観を崩壊させ、どんどんと変わっていった(それが、たとえばキャラクター重視という方向に向かった)。それは現在もさらに進行している。おそらく、気がつけば、本家本元(アナハイムのディズニーランド・パーク)とは全く異なったパークが出来上がっている……そんなところではないのだろうか。そして後続世代のリピーターの多くが非原理主義者となり、これを楽しむ。

でも、このゴチャゴチャの世界、とっても日本のサブカル的な世界に近いという感じもする。AKB48、ジャニーズ、宝塚、アキバ、ドンキホーテにも共通するところがある。かつて香港にあった九龍城のように、どんどんと新しい要素が脈絡なく加えられ、原形を留めなくなっていくという傾向だ。

そして、このゴチャゴチャ感、きわめて日本的、そしてアジア的とも言える。日本人は日本人としてローカライズされたディズニー世界を楽しむ。そして、それが日本発信の「ディズニー文化」ということになる。そんなふうになるのではないかと僕は予想している。

もはや日本人には文化の一部としてすっかり定着した感のあるディズニー。そのディズニーを担っているのが東京ディズニーランド(TDL)や東京ディズニーシー(TDS)を運営するオリエンタルランド(OLC)とグッズ販売→イベントを手がけるウォルト・ディズニー・ジャパン(WDJ)だ。日本にディズニーがやって来たのは60年近く前に遡るが、その後、人気はいったん低落したので、本格的なディズニーカルチャーの普及は80年代、つまり東京ディズニーランドのオープン以降となる

そして、この十年ほど、これら、いわば「ジャパン・ディズニー」は本国アメリカとはちょっと異なった展開をするようになっており、最近ではそれにますます拍車がかかり、日本においてディズニーはジャパン・オリジナル化しつつある。今回は、キャラクター戦略を例に、これを考えてみたい。

マリーって、誰?

日本以外のパークやディズニー世界ではあまり知られていないが、日本でのみ知られているという「ほぼメイド・イン・ジャパン」みたいなキャラクターがジャパン・ディズニーには存在する。

その嚆矢は、おそらくマリーという猫のキャラクターだ。これは1970年に公開された『おしゃれキャット』という映画のキャラクター。ただし、この映画の主役はダッチェス(雌)とオマリー(雄)という二匹の猫。マリーはダッチェスの子どもの猫。つまり主役ではない。これを2001年、TDSがオープンする際にフィーチャーしたのだ。まあ、元はといえばディズニーキャラクターだが、なぜかこのあまり目立たないキャラクターを取り上げたのには、一説にはロイヤリティが関係していると言われている。つまり有名なキャラクターほど使用料が高い。そこで、差異化とロイヤリティ軽減のために、このキャラクターがチョイスされたというのだ。

実際にはキャラクターごとにロイヤリティが設定されているのかは公表されていないので明らかではない。だが、「設定されている」と考えると、この後のジャパン・ディズニーの戦略は実にしっくりと説明がつくのも確かなのだ。なので、今回は「キャラクターごとにロイヤリティが異なる」という前提で議論を進めてみたい。

このマリーというキャラクター、そこそこの人気を獲得することに成功する。ファッション・ブランドのスワロフスキーとコラボしたりしたこともあった。ただし、やはり、このキャラクターがミッキーばりに出ずっぱりというのは、海外のディズニーファンからすれば、恐らく違和感があるだろう。メインどころはビッグ5(ミッキー、ミニー、ドナルド、グーフィー、プルート)、そしてプリンセスなど映画で主役を張ったキャラの方がしっくりいく。

ダッフィーの登場

しかしながら、こういった「ディズニーの端役」「ディズニーから少し遠い」「ディズニーと首の皮一枚で繋がっている」といったキャラクターでの戦略が、この後、次々と続くのだ。つまり、経費節減ではないのか?

例えば2004年に出現したダッフィー。これはもともとはアメリカのディズニーランドにあったディズニーベアというキャラクターを輸入したもの。そして、現地では泡沫のキャラクター。これを2005年から名称をダッフィーと変更しTDS内で大々的に売り始めると、見事に定着。今では女子高生のバッグにはダッフィーのアクセサリーがぶら下げられているというのが日常的な風景となるほど普及した。

そしてこのダッフィー、泡沫キャラであるどころか、デザインにディズニー的な文法を持たない「フツーのテディベアー」。ところが、これに「航海に出るミッキー(TDSのコロンビア号の船長ということになっている)に、ミニーがプレゼントした」という、ミッキーとミニーを取り持つキャラクターという物語と、身体の一部に「隠れミッキー」が付けられることでディズニー世界の住民として認定され、さらにパーク内で頻繁にミッキー、ミニーとともに登場することで人気を博したのだ。

で、こうなるとダッフィーも独り立ち。すると、その勢いを駆って2010年、女の子のお友達シェリーメイをデビューさせ、セットで売り出した。すると、これまた大ヒット。女子高生のバックにぶら下がるアクセサリーは二つに増えた。さらに「三匹目のドジョウ?」を狙って2014年、今度は猫のお友達ジェラトーニをデビューさせ、これまた人気を獲得している。ちなみに、この3つのキャラクター、TDSでしか購入できないという差異化によって、パークに客を寄せる役割も果たしている。ただし、前述したように、これらのキャラクター。デザイン的にはディズニー世界からはきわめて遠い存在。ジェラトーニは「ミニーの分身の友達の友達」みたいな「風が吹けば桶屋が儲かる」的存在なのだから。

四匹目のドジョウもいた?:ユニベア

ここでジャパンディズニーはロイヤリティを低く抑えたまま粗利を稼ぐ方法論を掴んだのだろうか。さらに四匹目、五匹目のドジョウをさがすというマーケティングに出た。

五匹目のドジョウは2011年に展開を開始したユニバーシティーベア、略したユニベアというキャラクター群だ。ミッキーなどのディズニーキャラクターが通うディズニー・ユニバーシティという大学の講義でルードヴィッヒ・フォン・ドレイク教授からクマの物語を作る課題が出され、これにミッキーやミニーたちが自分に似せたぬいぐるみを制作したところ、動き出して一緒に授業を受けるようになったというユニベアシティー物語に基づいてキャラクターは展開される。

これらもダッフィー同様、ディズニー文法を持たない。それぞれのキャラクターは、それを作ったとされるディズニーキャラクターの一部が反映されている程度。たとえばミッキーが作ったモカは赤のネクタイを着け、ネクタイの下部には白のミッキーのボタンを模したドットが二つある。ミニーのプリンも頭に赤に白玉といった具合。もう、こうなると「ミッキーの友達の友達の友達」という無理矢理な設定になる。そして、これも販売が差別化されていて、購入できるのはパーク内ではなくディズニーストアのみとなっている(通販もあり)。で、これも結構な売れ行きなのである。

え、五匹目もいるの?:こひつじのダニー

そして、なんとドジョウは五匹目もまた存在した!2015年よりデビューした「こひつじのダニー」というキャラクターだ。これは1949年に公開された映画『わが心かくも愛しき』のキャラクター。本作は日本では公開されておらず、それゆえ映画もキャラクターもきわめて認知度が低い。これを今年が”未年”と言うことでTDLTDS二つのパークでプロモーションを開始した。現在、ウエスタンランドのショップ、トレーディング・ポストにそのコーナーが設けられているのだけれど、ここまでくると、もうほとんど「ナンデモアリ」という感じがしないでもない。これがロイヤリティに関連したビジネスであったとしたら、ほとんど「やらずぶったくり」みたいな商法だ。
ただし、現在、ディズニーを訪れるマニアックなリピーター、ディズニーオタクのディズヲタはパークの敬虔な使徒。いや、もっと厳密に表現すれば東京ディズニーリゾートの運営主体であるオリエンタルランドの方針に従順な存在。とにかく「ディズニー印」の何か新しいものを提供してくれれば、もうそれで十分満足。たとえ、それが「友達の友達の友達の友達」であったとしても。

いずれ、本家とは全く異なるディズニー世界が完成する?

こうやって見てみると「アメリカ文化の輸入というのは、要するにこういうふうにどんどんとオリジナルをアレンジする形で進んでいくのだなぁ」ということがよくわかる。

10年後、日本のディズニー文化はどうなっているんだろう?ひとつだけ確かなこと。それは、東京ディズニーランド&シーがテーマパークではなくなっているということだ。完璧なごった煮ランドになっている。で、これは日々進行しているのだけれど。

4月28日、オリエンタルランドは今後10年間(2024年まで)に5000億円レベルの投資を行うと発表した。TDLの投資の目玉はファンタジーランドの再開発。『美女と野獣』『不思議の国のアリス』がテーマの目玉。TDSの方は『アナと雪の女王』の舞台である北欧をテーマとしたポートを設けるという。

ごった煮的な状況はTDSの方に顕著で、なんでロストリバーデルタとポートディスカバリーの間に北欧が登場するのかは、不明だ。もっと極端なのは、ポートディスカバリーに現在あるアトラクション「ストームライダー」をファインディング・ニモのアトラクションに置き換えるというプラン。このポートテーマは20世紀初頭の人間が空想した「架空の未来」。つまりレトロフューチャーがテーマなのだけれど、そのキモになっているストームライダーをニモに置き換えればテーマはグチャグチャになるのは間違いない。

ま、それでも使徒のみなさんは足繁く訪れるわけで……そう、こうやってジャパンオリジナルのディズニーは日々更新されていくのである。

↑このページのトップヘ