もはや日本人には文化の一部としてすっかり定着した感のあるディズニー。そのディズニーを担っているのが東京ディズニーランド(TDL)や東京ディズニーシー(TDS)を運営するオリエンタルランド(OLC)とグッズ販売→イベントを手がけるウォルト・ディズニー・ジャパン(WDJ)だ。日本にディズニーがやって来たのは60年近く前に遡るが、その後、人気はいったん低落したので、本格的なディズニーカルチャーの普及は80年代、つまり東京ディズニーランドのオープン以降となる

そして、この十年ほど、これら、いわば「ジャパン・ディズニー」は本国アメリカとはちょっと異なった展開をするようになっており、最近ではそれにますます拍車がかかり、日本においてディズニーはジャパン・オリジナル化しつつある。今回は、キャラクター戦略を例に、これを考えてみたい。

マリーって、誰?

日本以外のパークやディズニー世界ではあまり知られていないが、日本でのみ知られているという「ほぼメイド・イン・ジャパン」みたいなキャラクターがジャパン・ディズニーには存在する。

その嚆矢は、おそらくマリーという猫のキャラクターだ。これは1970年に公開された『おしゃれキャット』という映画のキャラクター。ただし、この映画の主役はダッチェス(雌)とオマリー(雄)という二匹の猫。マリーはダッチェスの子どもの猫。つまり主役ではない。これを2001年、TDSがオープンする際にフィーチャーしたのだ。まあ、元はといえばディズニーキャラクターだが、なぜかこのあまり目立たないキャラクターを取り上げたのには、一説にはロイヤリティが関係していると言われている。つまり有名なキャラクターほど使用料が高い。そこで、差異化とロイヤリティ軽減のために、このキャラクターがチョイスされたというのだ。

実際にはキャラクターごとにロイヤリティが設定されているのかは公表されていないので明らかではない。だが、「設定されている」と考えると、この後のジャパン・ディズニーの戦略は実にしっくりと説明がつくのも確かなのだ。なので、今回は「キャラクターごとにロイヤリティが異なる」という前提で議論を進めてみたい。

このマリーというキャラクター、そこそこの人気を獲得することに成功する。ファッション・ブランドのスワロフスキーとコラボしたりしたこともあった。ただし、やはり、このキャラクターがミッキーばりに出ずっぱりというのは、海外のディズニーファンからすれば、恐らく違和感があるだろう。メインどころはビッグ5(ミッキー、ミニー、ドナルド、グーフィー、プルート)、そしてプリンセスなど映画で主役を張ったキャラの方がしっくりいく。

ダッフィーの登場

しかしながら、こういった「ディズニーの端役」「ディズニーから少し遠い」「ディズニーと首の皮一枚で繋がっている」といったキャラクターでの戦略が、この後、次々と続くのだ。つまり、経費節減ではないのか?

例えば2004年に出現したダッフィー。これはもともとはアメリカのディズニーランドにあったディズニーベアというキャラクターを輸入したもの。そして、現地では泡沫のキャラクター。これを2005年から名称をダッフィーと変更しTDS内で大々的に売り始めると、見事に定着。今では女子高生のバッグにはダッフィーのアクセサリーがぶら下げられているというのが日常的な風景となるほど普及した。

そしてこのダッフィー、泡沫キャラであるどころか、デザインにディズニー的な文法を持たない「フツーのテディベアー」。ところが、これに「航海に出るミッキー(TDSのコロンビア号の船長ということになっている)に、ミニーがプレゼントした」という、ミッキーとミニーを取り持つキャラクターという物語と、身体の一部に「隠れミッキー」が付けられることでディズニー世界の住民として認定され、さらにパーク内で頻繁にミッキー、ミニーとともに登場することで人気を博したのだ。

で、こうなるとダッフィーも独り立ち。すると、その勢いを駆って2010年、女の子のお友達シェリーメイをデビューさせ、セットで売り出した。すると、これまた大ヒット。女子高生のバックにぶら下がるアクセサリーは二つに増えた。さらに「三匹目のドジョウ?」を狙って2014年、今度は猫のお友達ジェラトーニをデビューさせ、これまた人気を獲得している。ちなみに、この3つのキャラクター、TDSでしか購入できないという差異化によって、パークに客を寄せる役割も果たしている。ただし、前述したように、これらのキャラクター。デザイン的にはディズニー世界からはきわめて遠い存在。ジェラトーニは「ミニーの分身の友達の友達」みたいな「風が吹けば桶屋が儲かる」的存在なのだから。

四匹目のドジョウもいた?:ユニベア

ここでジャパンディズニーはロイヤリティを低く抑えたまま粗利を稼ぐ方法論を掴んだのだろうか。さらに四匹目、五匹目のドジョウをさがすというマーケティングに出た。

五匹目のドジョウは2011年に展開を開始したユニバーシティーベア、略したユニベアというキャラクター群だ。ミッキーなどのディズニーキャラクターが通うディズニー・ユニバーシティという大学の講義でルードヴィッヒ・フォン・ドレイク教授からクマの物語を作る課題が出され、これにミッキーやミニーたちが自分に似せたぬいぐるみを制作したところ、動き出して一緒に授業を受けるようになったというユニベアシティー物語に基づいてキャラクターは展開される。

これらもダッフィー同様、ディズニー文法を持たない。それぞれのキャラクターは、それを作ったとされるディズニーキャラクターの一部が反映されている程度。たとえばミッキーが作ったモカは赤のネクタイを着け、ネクタイの下部には白のミッキーのボタンを模したドットが二つある。ミニーのプリンも頭に赤に白玉といった具合。もう、こうなると「ミッキーの友達の友達の友達」という無理矢理な設定になる。そして、これも販売が差別化されていて、購入できるのはパーク内ではなくディズニーストアのみとなっている(通販もあり)。で、これも結構な売れ行きなのである。

え、五匹目もいるの?:こひつじのダニー

そして、なんとドジョウは五匹目もまた存在した!2015年よりデビューした「こひつじのダニー」というキャラクターだ。これは1949年に公開された映画『わが心かくも愛しき』のキャラクター。本作は日本では公開されておらず、それゆえ映画もキャラクターもきわめて認知度が低い。これを今年が”未年”と言うことでTDLTDS二つのパークでプロモーションを開始した。現在、ウエスタンランドのショップ、トレーディング・ポストにそのコーナーが設けられているのだけれど、ここまでくると、もうほとんど「ナンデモアリ」という感じがしないでもない。これがロイヤリティに関連したビジネスであったとしたら、ほとんど「やらずぶったくり」みたいな商法だ。
ただし、現在、ディズニーを訪れるマニアックなリピーター、ディズニーオタクのディズヲタはパークの敬虔な使徒。いや、もっと厳密に表現すれば東京ディズニーリゾートの運営主体であるオリエンタルランドの方針に従順な存在。とにかく「ディズニー印」の何か新しいものを提供してくれれば、もうそれで十分満足。たとえ、それが「友達の友達の友達の友達」であったとしても。

いずれ、本家とは全く異なるディズニー世界が完成する?

こうやって見てみると「アメリカ文化の輸入というのは、要するにこういうふうにどんどんとオリジナルをアレンジする形で進んでいくのだなぁ」ということがよくわかる。

10年後、日本のディズニー文化はどうなっているんだろう?ひとつだけ確かなこと。それは、東京ディズニーランド&シーがテーマパークではなくなっているということだ。完璧なごった煮ランドになっている。で、これは日々進行しているのだけれど。

4月28日、オリエンタルランドは今後10年間(2024年まで)に5000億円レベルの投資を行うと発表した。TDLの投資の目玉はファンタジーランドの再開発。『美女と野獣』『不思議の国のアリス』がテーマの目玉。TDSの方は『アナと雪の女王』の舞台である北欧をテーマとしたポートを設けるという。

ごった煮的な状況はTDSの方に顕著で、なんでロストリバーデルタとポートディスカバリーの間に北欧が登場するのかは、不明だ。もっと極端なのは、ポートディスカバリーに現在あるアトラクション「ストームライダー」をファインディング・ニモのアトラクションに置き換えるというプラン。このポートテーマは20世紀初頭の人間が空想した「架空の未来」。つまりレトロフューチャーがテーマなのだけれど、そのキモになっているストームライダーをニモに置き換えればテーマはグチャグチャになるのは間違いない。

ま、それでも使徒のみなさんは足繁く訪れるわけで……そう、こうやってジャパンオリジナルのディズニーは日々更新されていくのである。