4月4日、日刊ゲンダイで歌番組が80年代のような活況を呈している、復活の兆しを見せているという記事が掲載された。NHK「歌謡ポップス☆一番星」、BSジャパン「名曲にっぽん」、テレビ東京「木曜八時のコンサート~名曲!にっぽんの歌」などが人気だという。また、この勢いに乗じてフジが森高千里を司会に起用し「水曜歌謡祭」を、CSの歌謡ポップスチャンネルが「クロスカヴァー・ソングショー」を開始させる。調子のいい時は視聴率10%超えもあるらしい。

こりゃ「景気のいい」話と思えないこともないが……いや、事態、実はむしろ深刻と考えた方がいい。そのことは現在、テレビ局で一部の「景気のいい」番組のジャンルの共通点を考えてみるとよくわかる。ここで取り上げたい番組ジャンルは刑事・探偵物、サスペンス。個別の物だと朝ドラ、そして「笑点」(報道、アニメ、スポーツ中継等は除く)といった類いだ。

高視聴率に見えるのは消去法の結果

実は、これらは本当のところを言うと「景気がいい」というよりは消去法の結果、残ったものと考えた方がいい。いずれにしても、視聴率はかつてのような景気のよさとは異なっている。つまりテレビ番組は全体的にはジリ貧だが、これらはかろうじて持ちこたえている方といった認識の方が正しい。で、これらに共通するのは、ようするに視聴者層が偏っていると言うこと。いずれも五十代以上が対象。この層はインターネットへの親和性が低く、なおかつ、もはや保守反動的な心性を持ち主が大半なので、新奇なものについてはあまり関心が向かわない。そんなオーディエンスが向かうメディアは、もはやオールド・メディアになりつつあるテレビのコンテンツだ。中でも刑事・探偵物、サスペンスはその最たるもので、ほとんどお決まりのパターンが展開されているだけ。朝ドラ、「笑点」に至っては超マンネリだ(「13年前半に放送された「あまちゃん」を除く)。しかもこの層の多くは子育て終了、仕事もリタイアしているわけで、暇をもてあましている。それゆえ、必然的にテレビに向かう時間は増える。なので、この層を掴んでさえいれば、テレビ局としてはとりあえず、その場を凌ぐことが出来る。

うっかり忘れていた「歌謡番組」

そして、このパターンの一つとして忘れ去られていたのが歌謡番組だったのだ。これは、番組の中身を見てみるとよくわかる。これらは、たとえば長らく続けられている「ミュージックステーション」とは出演者のラインナップが大幅に異なっている。「ミュージックステーション」はオリコン上位のミュージシャンが登場するが、歌謡番組に登場するのはいわゆる「歌謡曲」の「歌手」だ。そして往年のヒット曲を歌うのだ。五木ひろし、森進一、小柳ルミ子、北島三郎、石川さゆり、香西かおり、布施明などなど。とうの昔に薹が立った声、歌い過ぎで妙に小節が入った歌い方で得意満面、ドヤ顔で歌い上げるのだ。若手を登場させる場合にも、持ち歌ではなく往年のヒット曲を歌わせる。なんのことはない、かつてなら「思い出のメロディー」だった番組パターンなのだ。こういった番組構成が高齢者層を対象としていることは言うまでもないだろう。ちなみに司会に森高を起用したり、若手に古い歌を歌わせたりするのは、それなりの若年層(といっても四十代から上)の取り込み戦略だろう。とはいうものの、この層はネット世代なので、あまりなびかないのではなかろうか。

要するにこういうことだ。若年層をターゲット音楽番組がジリ貧だった。ネット世代は音楽番組なんか見ない。勝手に音楽ソースにアクセスするか、お気に入りのミュージシャンのライブに出かける。で、音楽の志向も多様化しているので、それぞれお気に入りはバラバラ。つまりミュージシャンたちの支持層は狭い。ということはテレビ出演はちょっと考えられない。だからますます見ない。「ミュージックステーション」を見るのは、それ以外のとりあえずメジャーな連中を、仲間内でのコミュニケーショネタにするために押さえておくという位置づけ(つまり、お気に入りのミュージシャンは出演していない)。だから、テレビ局側としては番組をやろうにもやりようが無い。で、歌番組をヤメていたところに、「おや、よく考えてみればサスペンス、笑点、朝ドラ視聴者層は音楽番組見るよね」ってなことになったんでは(というか、たまたま、そこそこ視聴率をとっていたので気づいたというのが正解か?)。

いずれにしても先は暗い

だが、これは結局のところ枯渇しようとしている池の水の残った部分にすがっているという状況でしかない。つまり、いずれこの層も失われていくわけで、そうなった時、テレビはより深刻な事態を迎えることになる。

歌番組、一時しのぎにはよいかも知れないが、10年後にはもはや頼れるものにはなっていないだろう。少なくとも、現状をスタイルを何らかのかたちで変更しない限りは。