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爆発的に売れているセブンカフェ。日本人にの嗜好に合わせたあまり深くない焙煎、価格が百円というのがポイントだ。



現在、アメリカでは「サードウェイブコーヒー(第3の波コーヒー)」と呼ばれる新しいトレンドが出現している。第1の波は60年代、アメリカに一気にコーヒーが定着した時代を指している。この時、アメリカに普及したのが一般的にアメリカンコーヒーと呼ばれる、焙煎の浅いコーヒーだった(日本ではアメリカンと言えばお湯を足して薄めたコーヒーのことを指すが、実は本家のアメリカンは薄めてなどいない。ちなみにお茶代わりなので、スタバのトールサイズ350ccに該当するマグカップに入れてガブガブ飲むのが普通。結構旨いのだが、日本では滅多にお目にかかれない)。第2の波は80年代にやってきた。スターバックスを代表とした、いわゆるシアトルコーヒーがそれで、これは焙煎の深いエスプレッソを薄めてアメリカンコーヒー並みの容量にしたもの(前述のトールサイズ)。これが、もはやアメリカどころか、日本を含む世界中に爆発的に普及したのは、どなたもご存知だろう。

そして今回の第3の波の出現。これはコーヒー豆を厳選し、鮮度も徹底管理し、なおかつバリスタが手差し(ドリップ)で一杯一杯淹れるという、本格的グルメコーヒー(ちなみにシアトルコーヒーは出現当初「グルメコーヒー」と呼ばれていた)。で、第2の波と同様、これも現在、日本にも入り込んできている。

じゃ、この第3の波は第2の波と同様、日本にブームを呼び起こすんだろうか……う~ん、ちょっと難しいような気がするのだが?

レギュラーコーヒーのカジュアル化

僕が知っている限り、わが国におけるここ数十年のコーヒー事情はかなり複雑だ。70年代はまさに喫茶店の時代。ここではコーヒーを飲みながらおしゃべりするというのが定番だった。喫茶店で提供されていたコーヒーの淹れ方はドリップかサイフォン(洒落たところではダッチコーヒー)、つまり嗜好品だった(ちなみに家庭ではほとんどインスタントコーヒーだった)。80年代からは家庭でレギュラーコーヒーが定着し始め、コーヒーは純粋に飲むもの、つまりカジュアルなものになり、その影響を受けてか喫茶店で会話しながらコーヒーを楽しむスタイルが衰退。代わってドトールなどの一杯180円(当時)立ち飲みで、飲んだらとっとと出るというカフェが普及する(僕のように粘る客もいたけれど)。

1人で空間を楽しむスタバ

で、喫茶店文化がすっかり影を潜めた90年代半ば過ぎ、スタバが登場する。これは喫茶店文化の復活、いや今日的な進化だった。スタバはプライベート「第1の空間」でもパブリック「第2の空間」でもない。パブリックな空間でプライベートに浸れる「第3の空間」。1人で部屋にいたら寂しい、でも人と一緒にいたら相手がうざったくて自由がきかない。こういったディレンマを相殺する空間、つまり1人でいても寂しくない場所として、スタバのようなシアトルコーヒーは見事にフィットする。お客は1人で本を読んだり、勉強したり、パソコンを打ったり気ままな行動を店内でとるようになったのだ(おしゃべりは意外なほど少ない)。

サードウェイブコーヒーはかつての喫茶店文化と重複する

で、肝腎のコーヒーの味はどうかと言えば……。確かにグルメコーヒーではあるが、アメリカのようにドラスティックに味が変化したと言うことには日本ではなっていない。アメリカは水やお茶のように日常的に飲むアメリカンと、嗜好品としてのシアトルコーヒーは、その立ち位置が異なる。つまり、当初「グルメコーヒー」と名乗ったように、既存のコーヒーとは一線を画した上級レベルのコーヒーという位置づけだった。

ところが日本ではどうだろう。以前からあるコーヒーはいまだに楽しまれている。そして、ドリップ使って結構まともに淹れている御仁も多い。つまり、はじまりから「グルメコーヒー」。そうするとシアトルコーヒーは「グルメコーヒー」と言うよりも「オルタネティブコーヒー」という位置づけになる。だから、アメリカのような味への驚きはないだろう。言い換えれば、シアトルコーヒーへの日本人の志向は、味と言うよりも、やはりあの空間に比重があったと言っていいだろう。
そしてサードウェイブコーヒーだ。これはアメリカ人にとっては本当の意味でのグルメコーヒーだろう。一杯一杯丁寧に淹れるなんて立ち位置からすれば、シアトルコーヒーなど「なーんちゃってグルメコーヒー」の域を出ない。

ところが、だ。これが日本だったらどうなるか?サードウェイブコーヒーって、要するに昔、喫茶店のオヤジが丁寧に入れていたコーヒーのことでしょ?まあオヤジの腕にはピンからキリまであったけど、コーヒー通ならピンを探すくらいのことはそんなに苦労せず出来た(街に数件は凝り性の喫茶店オヤジがいたはずだ)。そして、そういった旨いホントのグルメコーヒーを提供する「喫茶店」「カフェ」はいまだにしっかりと残っている。ということはサードウェイブコーヒーが乗り込んできたところで、まあ、どうということもないのではなかろうか。

で、実を言うとこのサードウェイブコーヒー。もともとは日本の喫茶店文化に感動したアメリカ人がそのスタイルをアメリカで展開したものだという。ということは、アメリカでウケるこのカテゴリー、日本では限りなく差異化が難しいことになる。そして現在、日本はコーヒー戦争の真っ最中。ドトールのような廉価コーヒー店、シアトルコーヒー、普通のカフェ・喫茶店、そしてコンビニ・コーヒー(セブンカフェはバカ売れ状態)、さらにはコンビニに溢れる缶コーヒー・カップコーヒー。こういった玉石混淆状態の中に食い込むのは容易ではない。だから、これがスタバみたいに爆発的人気を博することは、まあ、おそらくないだろう。

ただし、まったく人気が出ないということもないはずだ。というのも、これまで丁寧に入れていたコーヒーに「サードウェイブコーヒー」という名称をつければ、その付加価値で珍しがる連中はいるはずだから。とりわけ、喫茶店文化を知らない40代未満の人間達にとっては、これまで知ることのなかった「新しいコーヒー」として認知されるんじゃないんだろうか(実は、その辺の古びた喫茶店で提供されているコーヒーとさしたる違いがないにもかかわらず、だ。まあトレンド=モードとは、いつでもそういったものなんだけれど)。