6月22日、久しぶりに東京ディズニーランド(TDL)に出かけた。能登路雅子さん(東京大学名誉教授)にお誘いを受けたのだ。能登路先生は80年代はじめアナハイムのディズニーランドに勤め、82~83年にオリエンタルランドで嘱託としてディズニーユニバーシティ(キャスト研修センター)や営業の仕事をつうじてTDLの立ち上げに加わり、ディズニー公認のウォルトの伝記『ウォルト・ディズニー~夢と冒険の生涯』(ボブ・トマス、講談社、1983)の翻訳を手がけ、『ディズニーランドという聖地』(岩波新書、1990)を著したという、わが国におけるディズニー研究の第一人者かつTDLの生みの親の1人。先生とパークでご一緒させていただくなんて、本当に光栄なことだった。
 
お昼過ぎからの入場で、回ったアトラクションは先生のご希望でキャプテンEO(六月いっぱいで終了)、イッツ・ア・スモールワールド、ホーンテッド・マンション、白雪姫、カリブの海賊だった。キャプテンEOを除けばオープン時から存在するアトラクションなのだが、これらを回ったのにはちょっと「わけ」がある。しかもディープなディズニーファンだったら、ちょっとしびれるようなわけが……
 

ナイン・オールドメンの1人、マーク・デービスの作品を確認する

マーク・デービスという人物をご存知だろうか?知っていればかなりのディズニー通だ。ウォルトの時代、ウォルト・ディズニー・スタジオに在籍していたアニメーターのうち、中心となった9人のアニメーター、つまりウォルトの懐刀がおり、彼らは通称「ナイン・オールドメン」と呼ばれているのだけれど、デービスもその1人。とりわけ女性キャラクターを描いた人物として有名で、手かげたものにはシンデレラ、アリス、ティンカー・ベル、オーロラ姫、マレフィセントなど錚々たるキャラクターが並ぶ(ちなみにバンビも担当している)。
 
だがデービスはその他にも大きな仕事を二つ手がけている。一つはアトラクションを手がけたこと。ジャングルクルーズ、魅惑のチキルーム、カリブの海賊、ホーンテッド・マンション、イッツ・ア・スモールワールド、カントリー・ベア・ジャンボリー、ウエスタンリーバ鉄道がそれで、なんのことはない、古くからあるディズニーランドのアトラクションの主要どころ(かつてのチケット「ビッグ10」ならほとんどがEチケット、つまりいちばんグレードの高いアトラクションに該当する)、言い換えればディズニーランドのアトラクションのアイデンティティとなる部分の主要部を手がけているのだ。
 
そして、もう一つはTDLの建設にあたって長きにわたり日本に滞在し、そのデザイン監修を手がけたこと。TDL、実はデービス・ランドでもあるのだ。しかし、そのマーク・デービスも2000年に亡くなっている。
 

ウォルトとデービスの精神が残っているTDLにアリス・デービスさんをお迎えしたい

能登路先生はデービスが手がけたアトラクションをチェックしておられたのだ。その理由はデービスの奥さんで、存命のアリス・デービスさん(現在85歳)を日本にお迎えし、パークをご案内する構想を練っているから。
 
「ある意味、東京ディズニーランドは、世界でいちばんディズニーランドらしい」
 
先生はこう語る。その理由は、要するに「ウォルトのアトラクションに対するコンセプトを忠実に反映して具現化したデービスのアトラクションが、まだ、ここには原形を失わずにあるから」という意味だ。先生によれば、アリスさんは近年のアナハイムのディズニーランドの変わりようには驚いているという。たとえば、2009年に大規模な改修をしたイッツ・ア・スモールワールド。実はアリスさんは1950年代からディズニー・スタジオでコスチューム・デザイナーとして活躍し、スモールワールド制作にあたっては、夫がウォルトの下でライドの基本デザインを担当、メアリー・ブレアが人形のスタイリングとデザインコンセプトを、アリスさん自身は人形の衣装デザインを受け持った。言わば、夫マークとの思い出の詰まった共同作品だ。ところが現在、アナハイムのスモールワールドは世界の衣装を纏った子どもの人形の中にディズニーのキャラクター(ウッディ、ジェシー、ピーターパン、ドナルド、リロ、アリエルなど)が人形と同じ文法で作成され配置されている。しかし、これは夫デービスの構想したスモールワールドの世界とは相容れない。アリスさんからすれば夫の世界を踏みにじられたことに他ならないだろう。だが、夫の世界を踏みにじったと言うことは、言い換えればウォルトの世界を踏みにじったということにもなる。
 
ところが、TDLにあるデービスの手がけたスモールワールドは手つかずだ。ホーンテッド・マンションしかり(ハロウィーン、クリスマスの時期は除く)、カントリー・ベア・ジャンボリーしかり(カリブの海賊はジャック・スパロウなどパイレーツ・オブ・カリビアンのキャラクターが配置されたので)。だから、アリスさんを日本にお迎えすれば、オリジナルの健在ぶりをさぞかし喜ぶに違いないと先生は考えておられるのだ。
 
80年代からデービスと親交があった能登路先生ならではの夢のある思いつき。先生はウォルトの伝記翻訳にあたって、わからないところを何度もデービスに直接問い合わせに行き、懇意になった。死ぬ間際のウォルトとの会話について説明をお願いしたとき、デービスが涙ながらに語り続けたのが忘れられないと、先生は当時のことを述懐した。こんなにもウォルトと直結し、しかもそれが現在、まだ進行中の話を先生から聞かされ僕は、歴史と思っていたウォルトとディズニー話が突然目の前に現れたという感じで、ほとんど鳥肌状態だった。
 
ゲスト=受け手の方はすっかり変わってしまい、また多くのアトラクションや催しも、こういったデズヲタ向けに変更させられ、ここにウォルトをすっかり感じられなくなっていた僕だったけれど、先生の指摘されたこの「デービス視点」、ディズニー=ウォルト原理主義的な立場から見るとTDLこそディズニーランドといえないこともない。
 
TDLにあるオールドアトラクションからウォルト、そしてマーク・デービスを感じてみては、いかがだろう。



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アメリカ・アナハイムのディズニーランド内の”It’s a SmallWorld”の中にあるウッディ、ブルズ・アイ、そしてジェシー。ディズニー(PIXAR)のキャラクターではあるが、アトラクションのテーマからは逸脱している。