2013年のゆるキャラグランプリ、一位に輝いたのは栃木県佐野市のキャラクター”さのまる”だった。さのまるは犬の侍、佐野の名物である佐野ラーメーンのどんぶりを頭にかぶり(これはどんぶりの形をした笠ということになっている)、前髪は中太ちじれめん、刀はやはり名物のいもフライ。で、侍だから袴をはいている。

「う~ん、フツーにかわいい……どこがゆるキャラなんだ?なんで、こんなキャラがグランプリになるんだ。」

僕は少々首を傾げてしまった。と同時に、そこにゆるキャラブームの飽和状態を見たような気がした。今回の総投票数は1700万票。なんと昨年の三倍近く。まさにその勢いは止まらないかのように見えるが、さのまるの優勝は、なんとなく「終わりの始まり」に思えたのだ。

そもそもゆるキャラとは

ゆるキャラとは、その名の通り「ゆるいキャラ」。名付け親のみうらじゅんはその要素を五つほどにまとめているが、これらをさらにまとめれば三つに集約できるだろう。1.キャラクターデザインの文法的な詰めが「ゆるい」、2.プロモーションのコンセプトがゆるい、そして3.予算的にゆるい、つまりあまり予算がない。要するにローカルの素人がキャラクターを開発して広報活動(多くは行政が主体)を行うので、プロのそれとは異なり、詰めの甘さが目立つ。いいかえると「ツッコミどころ満載」になる。だから「ゆるい」。みうらは、こういった規格化され得ない、素人がつくるものの「辛気くささ」「もののあわれ」「ミスマッチ」を諧謔的、ギャグ的に楽しんでしまうところにゆるキャラの本質を見たのだった(詳細については本ブログ「ふなっしーグランプリ!~変容するゆるキャラへの認識」http://blogos.com/article/67979/を参照)

さて、さのまるである。これはどうみても、みうらのいうところのゆるキャラとはほど遠いところにあるキャラだ。つまり「ゆるい」という要素が見つからない。まあ、ラーメンどんぶり、そしてこれを斜めにかぶっているところが愛くるしい姿とかろうじてミスマッチなのだが、どうもとってつけたような感じにしか見えない。つまり、ゆるさまでがビルトインされ、規格化されてしまった、計算し尽くされた、「ゆるキャラ」という名前の「ゆるくない、かわいいキャラ」なのだ。

さのまるばかり攻撃して申し訳ないが、実は上位のうちの三分の二がこういった類いの「ゆるキャラ」といっていいだろう。ぐんまちゃん(群馬県)などは、まさにその典型。これら「ゆるくないキャラ」「な~んちゃってゆるキャラ」がゆるキャラの名前の下に闊歩する状況。これこそがブームの聴きを感じさせるものにみえるのだ。

ジャンル栄枯盛衰のパターン

ジャンルというものが出現するときには、先ず始めは玉石混淆といった状況が生まれる。当該ジャンルの規則=コードがまだ存在しないために、それぞれがそれぞれのアイデアでこのジャンル(この時点でまだジャンルとしては成立していないが)に進出していくのだ。だが、その中でブレイクスルーが登場するときがやってくる(これが登場しない場合、多くはジャンルとして成立せず終息する)。そして、それが基準となる規則=コードを規定してしまうのだ。たとえばロックンロールがロックとして成立するためには、いうまでもなくビートルズというブレイクスルーが登場し、その後のロックシーンの方向性を形成した。

つまり、規則=コードが一般化することでジャンルは成立する。するとこのコードをデフォルトとしたさまざまな潮流が現れる。ただし、それらの差異はこのコードに拘束されて成立するので小さいものになる。そして、このコードにそぐわない者は次第に排除されていく。この状態がさらに進むと差異はどんどん微小化し、区別がつきにくいものになっていくのだ。その結果、ジャンルは構造化し身動きがとれなくなって、平板なものになり、飽きられ、瓦解していく。これを乗り切るためには新しいコードを規定する次のブレークスルーをもってこなければならない。さらに、こういった循環をシステム化していかなければならない(実際、ロックはそうだった)。

もちろん、こういったジャンルの栄枯盛衰はそれなりに時間を必要とはする。だが、現代はインターネットで情報がめまぐるしく入れ替わる時代。だから、このジャンルの栄枯盛衰がものすごく速いスピードで展開する。ジャンルはあっと言う間に消費されてしまうのだ。

ゆるキャラのゆくえ

さのまるを中心とする今回の上位キャラを眺めてみると、ゆるキャラというジャンルの消費がきわめて早いスピードで進んでいるように見える。つまり「かわいい+ちょっとゆるい」という「ゆるきゃら」というジャンルが成立し(こうなるともはやみうらじゅんの定義とはまったく関係ない”パックもの”になってしまっているのだけれど)、その規則=コードを競って踏襲したために、差異が微小になってしまった。しかも乱立状態で差異は限りなく微小化している。しかも、それらがランキングの上位を占めている(その原因については、あらためて特集を組む予定)。ということは、ゆるキャラというジャンル、後は衰退していくだけということになってしまうのだが……

ゆるキャラが今後も人気を維持するためには、このジャンルを打ち破るキャラクターを生み続け、ジャンルを活性化し続けるようなシステム化を働かせる必要がある(まあ、こうなるとますますみうらとは関係のない世界が出来上がっていくことになるけれど)。おそらく、「ゆるキャラグランプリ」というイベント主催者(=ゆるキャラグランプリ実行委員会)は、こういったシステム化を進めてビジネスチャンスを見いだしていこうとしているのだろうけれど(実行委員会のメインどころは幻冬舎、エイベックス、扶桑社、小山薫堂といった「ゆるくない」ギョーカイの強者たちだ)。

ただし、やっぱりゆるキャラはゆるい。キャラクターデザインこそゆるくなくなったとしても、プロモーションは地方公共団体を中心とした素人の手による。で、こういった組織がゆるキャラを展開していく中心であるとするならば、必然的にシステム化は難しい。ということは結局、最終的にやり方が解らなくなり、マンネリ化し消滅していく可能性はかなり大と考えなければならない。

さて、来年のゆるキャラグランプリ、どうなっていることやら。