大活躍するプロ野球選手はすべからく大リーグへ!

ご存知のように楽天ゴールデンイーグルスの「マー君」こと田中将大投手が歴史的な記録を打ち立て続けている。CSも含めて昨年からすでに29連勝。向かうところ敵なしのマー君だが、当然ながらメジャーリーグから大きな注目を浴びている。ポスティングシステムを利用すればその入札額は60億円にも及ぶとか?ダルビッシュの50億円を踏まえれば、この数字は結構リアリティがある。

前述のダルビッシュではないが、日本のプロ野球選手は球界で頂点を極めるまでに活躍をすると、すべからく大リーグへと言う図式が出来上がっている。野茂を嚆矢として(記録上は村上雅則がいるが)、イチロー、佐々木、松井、松坂、上原、岩隈といったように実力人気ともに併せ持った選手が次々と大リーグに挑戦していくのは、年棒の高さもさることながら、やはり「大リーグで勝負してみたい」という選手の憬れによるところが多い。
だが、その一方で、これは国内のスター選手の流出でもあり、これがプロ野球人気の陰りに影響を与えていると考えることも出来る(もっとも、人気低下はこれよりもプロ野球機構のシステムが時代にマッチしなくなっているところの方が影響としては大きいだろうが)。

で、今球界ぶっちぎりのマー君が大リーグに行ってしまえば、日本のプロ野球はますます人気を低下させるのではないか?そして楽天もまた下の弱小チームに逆戻りするのではないか?だから、プロ野球界のためにはマー君の海外流出はなんとしても阻止するべきではないか?と考えたくなる。行くな!マー君!

しかし、メディア論的に考えれば、これは逆だ。マー君を放出することで、むしろ楽天、そしてプロ野球界、さらに東北地方は活性化する可能性がある。「えっ?なんで?」と思われるかもしれないが、やり方さえちゃんとすれば、必ずそうなると僕は考える。

ということで、今回は「マー君放出によるプロ野球の、そして東北地方の活性化」という議論を展開してみよう。

マー君の経済的効果

マー君を大リーグに放出するのなら、最もふさわしい球団はヤンキースだ。現在、ヤンキースは投手の台所が苦しい状況。だから主軸となる投手がなんとしても欲しい。ここにマー君が入団すればいきなりエースとなることは間違いない。

で、ヤンキースならば、当然、60億くらいは出すだろう。ポスティングシステムだから、そのカネは楽天イーグルスに転がってくる。楽天とすれば、この金を使って国内の有力選手をトレードしたり、育成制度にカネを注いだり、施設の充実を図ったり、広報に使うことが出来る。つまり、マー君を放出したカネで球団全体を強化することが出来る。

「楽天=東北のマー君」が大リーグで活躍する、という図式

ただし、これだけだと、ただ「カネ欲しさにマー君を手放した」ということになってしまう。つまり、朝三暮四的な発想の域を出ない。

そこで、楽天としては田中投手を手放しても「マー君」は手放さないというやり方を採る。つまり、ヤンキースに行っても楽天としてはずっと、記号としての「マー君」を保持するのだ。まず、マー君には日本球界に復帰する際には楽天で何らかの活躍をしてもらうこと(選手でも指導者でもいい)を確約させる。そして、東北の地元メディアはニューヨークに特派員を派遣し、マー君の活躍を逐次テレビや新聞で流す。当然、楽天の広報でもマー君をずっと取り扱うのだ。こうなると田中将大投手は「アメリカ大リーグ、ニューヨークヤンキースで大活躍する”楽天のマー君”(厳密には「東北のマー君」だが)」ということになる。

一方、田中将大投手にも引き続き「楽天のマー君」としての活躍をしてもらう。シーズン中には、試合ごとに東北向けのコメントをしてもらう、あるいは東北からヤンキースに観戦に来たファン用のボックスシートをマー君のポケットマネーで用意する。シーズンオフには当然、仙台に凱旋帰国し、地元のイベントに参加する。ちなみにポスティングシステムで充実させた施設にはマー君の痕跡を残す。たとえばトレーニングセンターを建設するなら「田中トレーニングセンター」なんて冠付きの名前をつけてしまう。マー君はシーズン中はアメリカで、シーズンオフは東北で大忙しということになるのだ。そして地元東北も年がら年中マー君で盛り上がる。

マー君が地球の裏側から東北を活性化

こうなると、マー君と東北=楽天の間に相互活性化の循環が発生する。つまりマー君が活躍すればするほど、マー君は「東北の星」「東北の誇り」となり、東北のファン、楽天ファンはマー君を応援したくなる。しかも、それは世界のヤンキースでアメリカをきりきり舞いさせるマー君。そこに自らをアイデンティファイさせれば、東北に、そして自分に自信を持つことが出来る。「アメリカでがんばるマー君、東北のわれわれもがんばらねば!」となるわけだ。

一方、マー君の方も常に東北がバックアップする体制ゆえ、安心して大リーグに打ち込むことが出来る。当然、マー君の東北へのアイデンティファイ率も高まっていく。こういう循環を作り出せれば、だれもがトクをしてしまうのだ。東北は地域活性化、マー君は野球へのモチベーションがそれぞれ付与されるのだから(ちなみ、これを部分的にすでに実行しているのが中日と巨人だ。中日は大リーグに渡った選手を中日スポーツで追い続けているし、巨人はヤンキースで活躍した松井秀喜を徹底的に抱え続けるという方策を講じている)。

ところで マー君をめぐる、こういったアイデア。実は、長期低落傾向にあるプロ野球の改革のためには有効ではないだろうか?後半はプロ野球のこれからのあり方について考えていく。(続く)