ブッチギリではなかったあまちゃんの視聴率
大人気で番組を終えた「あまちゃん」。だが、最終的な視聴率を見ると、意外や意外、昨年の「梅ちゃん先生」に僅差ではあるが敗北(20.7%VS20.6%)。21世紀以降の朝ドラとしては第二位という結果だった。
「大山鳴動してネズミ一匹」とはこのことか?「国民的番組」とまで称されたこの番組の視聴率がこの程度とは、いったいどういうことなんだ?一部、あまちゃんオタクの空騒ぎ、あるいはメディア、とりわけNHKがゴリ押ししただけのことなのか?今回は、この意外な視聴率の結果についてメディア論的に考えてみたい。
スタジオパークはあまちゃんファンでいっぱい
9月16日、僕は渋谷にあるNHKスタジオパークに出かけた。あまちゃんの特設コーナーがあるということで、これを見に行ったのだ。しかも、これは第三弾。二回もリニューアしているという事実は、いかにこの番組が盛り上がっているかを物語る。混雑を予想して、僕が出かけたのは午前中。ところが施設内にはすでにかなりの人混みだった(出る正午頃にはスゴいことになっていたが)。で、ここはNHKの番組を紹介する施設。だから「あまちゃん」以外にも大河ドラマの「八重の桜」や、各種の子供番組などに関する展示もあるのだけれど、入場者たちの関心はもっぱら「あまちゃん」。他には目もくれないといった様子だった。それを物語るのは出演者の色紙が並べられているコーナーの様子だ。ここは撮影禁止なので、入場者はひとつひとつを目に焼き付けるように色紙を覗き込んでいた。当然、コーナーは人でごった返す。で、これと同様の展示があった。「八重の桜」出演者の色紙コーナーだ。……なんと、これがほとんど完全にスルーされていたのだ。やはり、あまちゃんの人気はスゴイ。
高齢者にはウケなかった?
ただし、ひとつ気になることもあった。あまちゃん目当てにやって来たこれら入場者たちが、いずれも若いのだ。五十代から下がほとんどで、お年寄りはほとんどいない。
で、僕はもうひとつ、気になることを思い出した。それは僕の二人の母(実母、義母)のこと。実母は80代、義母は70代。朝ドラはずっと日課だったのだが……だがこの二人、「あまちゃん」は面白くないといって、あまり見なかったのだ。
まあ、これだけのデータしかないので、ここからは僕の印象としての分析になってしまうことをお断りしておくが、ひょっとして、あまちゃんは高齢者層にはまったくウケなかったのではないか?で、そう考えると、この視聴率は納得のいくものになる。
「あまちゃん」は朝ドラのルール破り
そこで「あまちゃん」が高齢者層にウケないと仮定して、その原因について思いをめぐらせてみよう。ひとつは「あまちゃん」がこれまでの朝ドラのスタイルとはあまりに異なっていたこと。朝ドラの鉄板はいわゆるビルデゥングス・ロマン。つまり、一人の人物が成長していく物語。しかも必ず女性が主人公(例外はあるが)。「あまちゃん」の場合は、後者は確かにヒロインゆえ違和感がないが、このビルデゥングス・ロマンが主人公に振られていない。つまり天野アキは成長しないヒロインだったのだ(その代わり、周りを明るく変えていく。言い換えれば周囲を成長させていく)。お年寄りゆえ、新しいパターンは苦手、だからクドカンの手法が受け入れられなかったのでは?
もう一つは、高齢者たちが「時代を共有できない」という側面だ。現在放映中の朝ドラ「ごちそうさん」にも典型的に見られるのだけれど、朝ドラはビルデゥングス・ロマンということもあって「歴史」が前提される。その多くは戦前が舞台になり、だんだんと現在に近づいていく。こういうものであるのならば、高齢者たちは時代を追体験することが出来る。ところが「あまちゃん」は現代劇。時代の進行は2008年からだ。そして、フィードバックされるのは80年代のアイドルシーン。つまり30年前。こういったスタイルを追体験できるのはやはり、一般的には五十代から下ということになる。
こうなると高齢者はストーリーパターンも、時代設定も、共有できない。加えて言えば情報をジャンジャン詰め込むようなやり方にも慣れていない(むしろ、情報量が多すぎてオーバーフローを起こす)。だから関心を寄せないのではないか。
朝ドラ視聴者層の新陳代謝
この僕の憶測が正しいとしたら、やはり「あまちゃん」はスゴイ朝ドラということになる。これら要素をきちんと踏襲して高齢者向けの朝ドラを鉄板を展開した「梅ちゃん先生」にたったの0.1%しか視聴率的には負けなかったのだから。つまり大票田=高齢者を失ったのに、この視聴率。ということは無党派層というか、未開拓層を獲得したことになる。つまり、新しい視聴者層の掘り起こしをおこなった。そして、それが50代以下と想定されるわけだから、これは「朝ドラの世代交代」を果たしたということになる。しかも、この層は消費活力が高い。だから、ビジネスチャンスとしても期待が出来る。で、実際、メディアで大騒ぎしているし、サントラは売れるし、スタジオパークには大挙して押し寄せているわけで。
こういった新陳代謝が起こるとすれば、これはテレビ界には大きな事件と言えるだろう。ただでさえ長期低落傾向を見せるテレビ。その象徴ともいえる朝ドラ顧客層の新陳代謝をおこなえたとなれば、今後長期にわたって続く顧客を獲得し、テレビは再び安定を取り戻すことが可能になるのだから。つまり、むしろこちらの方にテレビの未来はある(これに味を占めたら、大河ドラマで脚本・クドカン、主演・能年玲奈なんて作品が登場するかも?)。
今年の紅白の最高視聴率は?
今年の紅白歌合戦。その企画の目玉は「あまちゃんメドレー」ではないかと呼ばれている。あまちゃん効果で紅白の視聴率が上昇するとともに、このコーナーで最高視聴率がカウントされるのではというのだ。ただし、これまでの僕の憶測が正しければ、意外にこのコーナーが最高視聴率を獲得することはないかもしれない。「紅白の視聴者-高齢者層+あまちゃん支持層」という足し算と引き算が結果としてこのコーナーの紅白の視聴率を上げるかどうかがわからないからだ。当然の図式だが視聴率を上げるためにはwその際の視聴者の構成が高齢者層<あまちゃん支持層となっている必要がある。そして、もしこれが「梅ちゃん先生」のような状況であれば、「あまちゃん」ファンは首ったけになっても高齢者は見なくなるので、最高視聴率に匹敵するも、最終的に最高視聴率を上げるのは他のコーナー、他の歌手ということになる。僅差で(くりかえすが、もちろん紅白としては高齢者層とそうでない50代以下の若年層?の二つのターゲットを得るので全体の視聴率は上がるだろうけれど)。
まあ、これは統計的な根拠はなく、あくまで「憶測」であることを、繰り返しておくけれど。さて、紅白、どうなるか?
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