前回は、ゆるキャラが結局五年くらいで賞味期限切れになることを指摘しておいた。しかし、ゆるキャラは地域活性化の起爆剤としては重要な「無形文化財?」。これを何とか永続させて地域興しに使い続けることはできないのだろうか。最後にこれを考えてみたい。

ゆるキャラの生き残り戦略、実はゆるキャラでなくても、いい!

地域興しのために重要なのは、こういったゆるキャラのような象徴を介して地域の人たちが地域アイデンティティーを持つことができるようになることにある。だが、そのためには、これを持ち続けられるような仕組み=システムが必要となる。そして、そのようなシステムが構築できるのであるのならば、実は象徴となる存在は何もゆるキャラでなくても全く構うことはない。

ということで、そういった「象徴を維持するためのシステムが構築され継続されているもの」を一つあげてみたい。 それは、群馬県の「上毛かるた」だ。

上毛かるたという「究極のゆるキャラ」

上毛かるたは1947年に発売されたかるた、いわゆる「郷土かるた」というカテゴリーに属する草分け的存在。群馬の歴史、文化、偉人、自然、名産品、精神性などが読み札・絵札になっており、現在群馬県内での総発行部数は200万部を超える。群馬の人口は200万人なので、このかるたが県内でいかに普及しているかがよくわかる。群馬県民でこのかるたの文言すべてを暗記していない人間はいないと言うくらいの普及率なのだ。もし、あなたが群馬出身の人に遭遇したら、唐突に「ネギとこんにゃく」と切り出してみたらいい。すると相手は悲しいかな(笑)反射的に「下仁田名産」という下の句を吐いてしまうというくらいスゴイのだ。以前、福田康夫(群馬三区)が首相就任時、官邸でインタビューを受けたときにはこんな会話がなされた。

インタビューワー:首相、群馬と言えば?
福田:群馬と言えば「鶴舞う形の群馬県」

福田は瞬発的にこう答えたのだが、これは上毛かるたの「つ」の読み札だ。

ちなみに、群馬県人には申し訳ないが、群馬にはさして誇るべきものはない(群馬のみなさんすいません。自分も群馬で暮らしてましたのでご勘弁を)。県民が自慢する群馬の食べ物と言ったらあんの入っていないまんじゅうに醤油と味噌と砂糖を混ぜたタレを塗って火であぶる「やきまんじゅう」くらい。これとて、さしてウマいと自信満々に言えるようなものではないのだ(個人的には、好きです)。かるたで登場する偉人も新島襄、田山花袋、関孝和、内村鑑三、国定忠治、新田義貞ってなところで、まあ二線級。ところが、群馬県民は、この大したこともないものを(たびたび失礼)これみよがしに自慢してはばからないのだ。こうなってしまうのは、このかるたを何度もやって暗記してしまっているから。つまり、かるたが地域アイデンティティを構築する象徴として機能しているのだ。

ただし、じゃあどこでもゆるキャラの代わりに郷土かるたを作ればいいということになるのだが、そんなに話は甘くない。郷土かるたとて、やはりゆるキャラと同様、ただの象徴。そのままではいずれ忘れ去られる。実際、郷土かるたは2000種類ほどが制作されているが、そのほとんどは作った後、忘れ去られている。だから地域活性化にはほとんど貢献していない。「上毛かるた」がこういった地域アイデンティティー、地域活性化を可能ならしめているのは、やはりここにシステムが構築されているからだ。

それは、毎年2月に「上毛かるた大会」が開催されていること。1948年より開始され、現在65回を数える。大会は盛大で、地区大会、郡市大会の予選の後、県大会が開催される。これには子供会が絡んでおり、県内すべての子供会がこの大会に参加する。つまり、子供会育成連絡協議会が自らの活動を活性化するツールとして上毛かるたを利用しているがゆえに、上毛かるたは普及し、いまだに群馬県民のアイデンティティを支える象徴的存在として機能し続けているのだ。これがシステムだ。

ゆるキャラが生き残るためには、ゆるキャラから脱却しなければならない

さて、現在のゆるキャラの「ゆるさ」のポイントが「活動のためのコンセプトの緩さ」に求められていることは既に確認した。だが、それは前述したように「システムが存在しない」ということでもある。だから、いずれ忘れ去られると指摘したのだけれど、逆に言えばゆるキャラがシステムを持ったとき、つまり上毛かるたのように自らの象徴的存在をメインテナンスするような仕組みを備えるようになったときには、これは永続するキャラクターとして、そして県民のアイデンティティとして、そして真の地域興し、地域活性化のキャラクターとしての機能を発揮することになる。

ということは、ゆるキャラが永続するためには、そして機能するためには、結局、ゆるキャラであることをやめること、ゆるキャラから脱却することしかその方法がないのだ。

そして、こうやってシステムを配備し、永続するようになった時、ゆるキャラは一過性のものであることをやめ、県民たちが誇る「おらがゆるキャラ」ということになるに違いない。そして、そういった象徴的存在はもはやゆるキャラではなく、上毛かるた同様、一般的にはベタに「文化財」ということばで括られるようになるのである。