伝統文化の取り込み

前回はゲストを四つのセグメント(一見客、一般のリピーター、ディズニーオタク(=ディズヲタ)、ウォルト=ディズニー原理主義者)に分類し、その内ディズヲタたちがパークを「オタクと子どものためのアキバ・ドンキホーテ化」していくがために、他のゲストたちの興を殺ぐ存在になっていることを指摘しておいた。現在2600万というゲストが毎年訪れているが、こういった状況が続けば、やがてディズヲタ以外のセグメントにあたるゲストの多くがTDRから離れていくということも考えられないこともない。そこで、今回はTDL=TDRは今後どうあるべきかについて考えてみたい。

「大人のディズニー」をホンモノにするために

TDRは、近年「大人のディズニー」というキャンペーンを展開しているが、前回確認したように、現在、実質的に推進しているのは「子どものディズー化」、つまり若年齢層の「本当の子ども」とオタクという「精神的な子ども」向けのパーク化ということになる。だが、もし一般の大人、成熟した鑑賞眼を持った大人、そしてディズニー世界を熟知した人間にTDRを楽しませようとするならば、つまりTDRが標榜するような「大人のディズニー」を実現しようとするならば、オタクはもちろんだが、当然、それ以外のセグメントに属する顧客層も取りこむような戦略を組むべきだろう。つまり、一見客とオタクと子どもと、そして大人の共存。これはどうやるべきか。

その適切なやり方は、やはり伝統文化=永続する文化の組み入れということになる(言い換えれば、ここまで展開してきたようにTDLのアキバ・ドンキ化はこの対極の消費文化=消費し尽くされてしまえば消滅する文化の徹底だったというわけだけれど)。具体的なやり方をハード面とソフト面で考えてみよう。今回はハード面を考えてみたい。

パーク内施設の関連づけを見直す

ハード面については、これはアナハイムのディズニーランドのように物語の重層性を考慮に入れることだろう。つまり新たなアトラクションやレストランなどの施設を建設する際には、以前のようにテーマランド内との整合性や、スクラップされる施設との関連性を考慮する。そうすることによって、そこにこの施設が新設されることの「いわれ=歴史のシワ」を付与するのだ。こういった設計をすれば、オールドファンたちも新しい施設を好意的に、そしてノスタルジーを抱きつつ受け入れるようになる(このアメリカの具体例については本ブログ「ウォルトが生きるロス・ディズニーランド~日米ディズニーランド比較1~3」http://blogs.yahoo.co.jp/mediakatsuya/64170723.htmlを参照されたい)。

歴史的・知識的な奥行きをレストランに盛り込む
これは飲食施設についても同様だ。オタクたちとって飲食物は「エサ」か「記号」として消費されるものだ。前者の場合、とにかく胃袋を満たせれば味はどうでもいい。だからハンバーガーとかでいい。後者の場合は飲食物に付与された情報を消費するもの。たとえば二月からトゥモウロウランド・テラスで発売されたミッキーの顔を形取ったどった「ミッキーブレッドサンド」をいち早く試しに行くというのがこれにあたる。つまり前者は純粋な機能的消費であり、後者は情報消費にあたる(そして両方を備えているのがパーク内のワゴンで販売されるさまざまな種類のポップコーンだ)。ちなみに、こういったニーズがあるため、TDRのメニューはどんどん増えると同時に、どんどん減るという現象が同時に発生している。「どんどん増える」とは、新しいレストランやワゴンが用意され、そこで新しい料理が提供されること(前述のポップコーンは現在TDLで8種類、TDSで7種類ある)。だからバリエーションが増えたように見える。「どんどん減る」というのは一つのレストランでのメニューは逆に削減されるということ。たとえばメディテレーニアン・ハーバーにあるレストラン、リストランテ・ディ・カナレット。ここはかつてはカルツォーネなどもメニューとしておかれ、ワインもある程度のバリエーションが用意されていた。しかし、現在提供されるのはピザとパスタが中心でラインナップは減らされた。ワインの種類も同様に減らされた。要するにこういった「てまひま」をかけると経費がかかるので削除されたのだ。そして、そのような運営方針はオタク層を考慮すれば当然ながら「何ら問題ない」ということになる。しかしセグメント2や4の層からすれば、それは「大人のディズニー」の要素が切り落とされたことを意味する。

この方針を改めるわけだ。つまり、昔のように料理のバリエーションも復活させ、費用対効果的に「合理的でない」料理を用意する。もちろん、これはなにもあらゆるレストラン、ワゴンにそうしろと言っているわけではない。一部のみ差異化を働かせて棲み分けを行えばいいだけの話だ。TDSなら前述のリストランテ・ディ・カナレットのようなテーブルサービスとプライオリティーシーティングを実施しているレストランをこのようなスタイルにする。そして、これらについては「老舗化」、つまり奥行きの深いレストランにするのだ。その一方でディズオタたちの機能的消費(=エサ代わり)、記号消費(=新しい商品の情報チェック)としての食べ物もちゃんと用意する(つまり、ポップコーンだったら種類をさらに増やしたり、ラインナップを変更していく)。

そしてこういった伝統の埋め込みについてはソフト=ホスピタリティについても実施すべきだろう。では、それはいったいどのようなものになるか?(続く)