スマホとガラケーの所有率、テレビとインターネットのアクセス時間が逆転

僕は毎年、三つの大学の講義で学生たちにスマホの利用状況について質問している。ずっとたずねてきた質問項目は1.スマホとガラケーの所有率、2.テレビとインターネットアクセス時間比率の二つだ。トータルで300名程度の講義で実施しているのだけれど、2012年はちょっとびっくり、というか「ついに来たか」という反応があった。六月にこの二つの質問をしたところ、スマホとガラケーの所有率、テレビとインターネットへのアクセス時間比率、ともに逆転現象が起きたのだ。スマホの所有率が六割、そしてインターネットへのアクセス時間がテレビのそれを上回った。おそらく、というか、これは間違いなく二つが連動していることを示していると考えていいだろう。つまり、スマホの所有がインターネットアクセス時間の増加を促したと。

2007年、スティーブ・ジョブズがiPhoneを発表した際、ジョブズはiPhoneの機能を順に三つ紹介していた。携帯電話、音楽プレーヤー、そしてインターネットだ。ジョブズがこれを紹介するときの会場のリアクションは興味深い。最初の二つで大歓声が上がったが、三つ目のインターネット・ディバイスを指摘したときは、あんまり盛り上がらなかったのだ。つまりこれは、当初、人々はiPhone=スマホをケータイとiPodを一台で持ち歩けるツールとして魅力を感じていて、インターネット・マシンとしては大して期待を寄せてはいなかったことを示唆している。ただし、ジョブズはこういう発表をやるときには、イチオシを最後に出すという演出をおこなうのが常だった(例の有名な”One more thing”という決めゼリフがそれだ)。ということは、ジョブズのこのプレゼンは肩すかしを食ったわけなのだけれどのだけれど(それでも、この時のプレゼンは「ジョブズ生涯における最高のプレゼン」と絶賛されている)。

だが、今回のこの結果はジョブズの見通しが正しかったとことを証明している。ジョブズは未来を正確に見通していた。現在、スマホがケータイと音楽プレーヤーを合体したものではなく、インターネット・ディバイス、いいかえれば常に持ち運べるコンピューターであること、パソコンの進化形であること(さらに言い換えれば、実はケータイと音楽プレーヤーはオマケでしかないこと)を疑う人間はもはやいないだろう(パソコン=スマホという認識ができない人間は、認識を改め直した方がいい)。

それじゃあ、ということで、スマホの利用状況についてもっと本格的に調べてみよう!

昨年10月、アンケートを実施してみた。対象は文系大学(関東学院大学、宮崎公立大学、立正大学)の学生340名(平均年齢20.1歳、男女比=45.2:54.8)。質問項目はスマホの利用状況、そしてスマホを用いたSNSの利用状況についてだ(SNSの利用状況については次回掲載予定)。ちなみに「大学生のスマホ利用状況」とタイトルには書いたけれど、調査対象はあくまでもこの三つの大学で僕の授業を受けている大学生たちであることをお断りしておく(偏差値40台後半~50台前半なので、これより偏差値が上になったり、下になったりすると、おそらく利用状況がかなり異なってくるだろう)。

基本データが示す「学生たちにとって、もはや電話はスマホの時代」

先ず基本的なデータから。その所有率は、それぞれスマホ78.5%、ガラケー30.1%という結果だった(スマホとガラケーを合計すると100%を超えてしまうのは二台持ちがいるから)。この時点での(12年10月時)全国の普及率が30%程度ということを鑑みれば、この数値は非常に高いということになる。OSについてはiOS(iPhone):Android=47.2:52.8(それ以外のOSはなし)。この比率も、まあ、一般とあまり変わらない。使用期間の平均はスマホが12.8ヶ月(ガラケーは55.1ヶ月)。基本データの中で興味深いののはWi-Fiの利用率で、なんと59.2%が利用していないという結果が出た。いずれの大学においてもすでに学内Wi-Fi環境は整備されているにもかかわらず、意外とこの機能は使われていないのだ。ここから考えられるのはスマホのスタンド・アローンな使用だろう(「Wi-Fiって何ですか?」って質問すらあった)。つまり、パソコンと接続してデータのやりとりをすることがほとんどなく、もっぱらスマホ単体で全ての作業を行っているということ。データのバックアップ率が52.8%であることはこのことを傍証する。つまり、これは学生たちが電話をガラケーからスマホに持ち替えても、いまのところは相変わらずガラケー的なスタイルで利用していることを意味する(とはいっても、残念ながら今回はこれについての質問項目を設けていなかったので、これはあくまで推測の域を出ることはないのだけれど)。

それぞれの機能の利用比率についてはメール98.2%、電話96.8%、インターネットブラウザ94.7%、カメラ89.3%、音楽プレーヤー44.5%(デフォルトでインストールされているアプリ。その他のアプリについては後述)。要するに、それぞれの機能については結構、満遍なく利用されているというのがわかる。

メールの送信パターンが多様化

これら基本機能の状況について細かくみてみよう。
まずメールについて。1日のキャリア・メール送信回数はガラケー8.7回、スマホ=7.8回で、スマホになると若干の減少が見られる。ただし、これは、その他のメッセージ機能にメール機能が奪われたとも考えるべき。それぞれのメッセージ機能の利用率を見るとキャリア・メール90.0%、PCメール32.3%、Facebookのメッセージ25.1%、LINEのトーク79.1%といった具合。いわば、かつてキャリア・メールが一括して担ったメールの送受信機能が分散したとみていいだろう。にもかかわらずキャリア・メールの利用頻度があまり落ちていないと言うことは、メール=メッセージ機能全般の利用頻度が高まったということになる。

無料電話アプリで通話料心配いらず

こういった、ガラケーが備えていた機能をスマホに持ち替えることによって、その利用が活性化するという現象は他の機能でも一様に見ることができる。例えば通話。一週間の通話回数はガラケー5.4回→スマホ5.9回、総通話時間についてはガラケー38.3分→スマホ49.8分と増加。LINEやSkypeなどの無料通話アプリの利用率は77.3%、そして利用者の一般通話と無料通話の使用比率は5.5:4.6だった。つまり、アプリを使ってタダで電話ができるということで電話の利用頻度が高まったというわけだ。ちなみに最も使われている無料通話アプリはLINEだった。ま、これもあたりまえと言えば、あたりまえか。

カメラ撮影アップ、その一方で音楽プレーヤーは意外にも……

だが、スマホの基本機能の利用頻度の中で特筆すべきはカメラと音楽プレーヤーだ。前者が意外と高く、後者が意外と低い。カメラについてはガラケー所有者と一週間の撮影枚数を比較したところスガラケー4.7枚、スマホ8.0枚という結果。これは、おそらくSNSの利用と関わっていると見ていいだろう。スマホだったら撮影した写真を即座にFacebookやTwitter、LINEにアップできるので、手軽に撮影してしまうのだ(この詳細については次回)。

音楽プレーヤーの利用頻度が低いのは、結局、いまだに音楽プレーヤーを持ち歩いているという事情による。つまりガラケー時代と同じで二台持ちを続けている。その理由をいくつか聞いてみたところ、大別して二つの理由があった。ひとつは「データを移動するのが面倒くさい」。要するに、もう音楽データをiPodなどに入れているので、そのまんま使い続けるというわけ。もう一つは「バッテリーの消耗を押さえるため」というもの。スマホ、とりわけAndroid系は、音楽プレーヤーを使用した場合でもかなりのバッテリー食いになる。聴いているとどんどん残りの電池量が減ってしまうのだ。ちなみに、音楽プレーヤー機能を利用してもバッテリー消費量が少ないiPhoneではこういった理由は見られなかった。

とはいうものの、これらは過渡期的な現象でしかないとみなせるデータもある。そのことは、スマホ所有者が以前ガラケーを使っていたときに、ガラケーで音楽を聴いていたと回答した者が40.8%と少なかったことだ。つまりスマホは40.8%の人間に、音楽プレイヤーとしての利用を、iPodなどからスマホへとシフトさせたのだ。ということはデータ移行が容易になり(メモリー容量の増大も必要条件になるが)、バッテリーの持ちがよくなれば、音楽プレーヤーの利用頻度が高まることが予想される(言い換えればiPodのような音楽プレイヤーの利用が激減する)。

ガラケーに備わっていた機能がさらに活性化する

こういった各機能の利用状況をざっくりと知るために、ガラケーからスマホに持ち替えることで各機能の使用頻度が変化したかどうかを、「増えた」「変わらない」「減った」という項目でたずねてみた。まず電話の場合、それぞれ22.7%、56.8%、18.8%で微増、インターネットは増えたが88.0%と激増、アプリも92.5%で激増、音楽プレイヤーは増えたが35.5%、減ったが11.6%で増加、カメラは62.4%が増えたで、これまた激増。

パソコンではなくスマホこそ大衆的なコンピュータ

結局、アンケート結果はガラケーからスマホに持ち替えることで、ガラケーに備わっていた既存機能の利用頻度が高まるというということを示している。かつてパソコンは汎用機器と呼ばれ、アプリケーションをインストールすることで様々な機能を使い分けることができる夢のマシンのように語られていた。実際、パソコンはいろいろなことができた(そしてもちろん今でもできる)が、一定のレベル以上での普及はなかなか進まなかった。操作が複雑で、一般人には少々敷居が高かったのだ。そしてそれは大学生にも該当した。だが、スマホは今やパソコンを使いこなせない人間でさえもタッチパネルをタッチしながらアプリを手軽に使いこなせるようになっている。つまり、スマホこそパソコンで実現しようとした理念を具現化したメディア=ツールなのだ。今回の結果は、少なくとも僕が教えている学生については、このことをある程度証明している。