スマホそしてSNS(Facebook、Twitter、mixi)普及によるネットモラルの混乱について考えている。前回は「パブリック-プライベート」の軸について展開した。つまり、ネット上では双方の線引きが明瞭でなく、パブリックな領域にプライベートが侵入してしまったり、あるいはその逆のことが起きたりして混乱を来していることを指摘しておいた。そして、これに拍車をかけるのが、残りの様々な軸、つまり「匿名ー有名」「インストゥルメンタルーコンサマトリー」「コミュニケーション志向ー情報入手志向」だ。

「匿名-有名」の軸のブレ

先ず「匿名-有名」の軸についてとりあげよう。SNSの場合、どこまでが匿名で、どこまでが有名なのかがわかりづらいことは確かだ(実名主義のFacebookを除く)。たとえばTwitterで個人的なことをツイートしたとしても、その名前が匿名であれば大丈夫と思えないこともない。ところが、このTwitterでの個人のツイート履歴を辿っていくことで、実はかなりの場合、つぶやいている側の素性が判明してしまう。つまり履歴が、あたかもスマホ・アプリのAkinatorのようにプロファイリングされてしまう可能性があるのだ。たとえばJリーグ・川崎フロンターレの選手がホテルに女性タレントとチェックインしたことをホテルの女性従業員がツイートしてしまったことがあった。これ自体はホテルの従業員が守秘義務を破ってしまったこと、つまり前回指摘しておいたパブリックとプライベートの混同をやってしまったことになる。しかし、このツイートをした女性従業員はTwitterで匿名でつぶやいたため、何ら問題ないと思っていたフシがある。ところが、そうではなかった。これを不謹慎な行いだとして彼女はネットユーザーたちにプロファイリングされ、名前、写真、生まれ、出身校、所属大学、加入している部活動などなど、そのプライベートをネット上で徹底的にバラされてしまったのだ(彼女のツイートから彼女の写真がネット上に公開されるまで五時間もかからなかったという)。これによって彼女がホテルを辞めることになったのはもちろんだが、それ以上に精神的な大きなダメージを追ったであろうことは想像に難くない。

要するに、この「事件」の場合、前回の「パブリック-プライベート」軸のブレに、さらに「匿名-有名」のブレが重なり、事が大きくなってしまったというわけだ。もちろん、こうやって彼女のプライバシーを暴露し、ケチョンケチョンにしてネタとして楽しむという輩も、やはり、この二つの軸を完全に混乱させてしまっている。もし、このツイートを入手したユーザーがこれらの軸を遵守していれば、これを暴露することで相手がどのような状況に陥れられるかということは容易に想像が付くはずだ。ところが、自らが匿名であることを逆手にとって、当事者をやりたい放題に誹謗中傷し続けた(こういった事態に対する、処方箋=マナーやルールはまだ形成されていない)。それは言い換えればツイートした側もこれをバッシングした側も「匿名-有名」についての認識がSNS上ではリアルワールドとは異なり、完全に歪んでいることを意味している。

しかし、混乱はこれだけにとどまらないさらに第三、そして第四の軸がいっそうの混乱をもたらすことになるのだけれど。(続く)