Appleがクローズド・プラットフォームを頑なに維持し続けることで20世紀末に消滅の危機にいたり、また21世紀にはわれわれのメディア・ライフを根底から変容するような大復活を遂げたことについて考えている。

さて、21世紀におけるAppleのクローズド・プラットフォームを軸とした戦略をおさらいしておこう。それは1.クローズド・プラットフォームによってハードとソフトの最適な環境を構築したこと、2.これを情報化社会の情報システムに化よって高く評価される環境が整ったこと、3.対抗機種が出現する前に市場にその存在を広く認知・浸透させることでアドバンテージを稼いだこと、4.セミ・クローズド・プラットフォーム戦略でWindowsのユーザーを取りこんだこと、そして5.低価格戦略でユーザーの購入意欲を促進したこと、の五つだった。

結局、Appleが売っているモノは?

こういった一連の戦略は、巡り巡って本家本元のパソコン=Macの売り上げを伸ばすことにも成功している。iPod、iPhone、iPadからなるエコシステムの一環として再定義され、しかもこれらディバイスを最もイージーかつ効果的に操作する道具としてMacが再認知されたからだ。

その最たるものがMacBook Airだ。極薄、高速、スタイリッシュで低価格なこの製品は、iPadとの二重攻撃?で、2008年頃から広がりはじめたNetbookという商品領域を駆逐してしまった。そして、これにかわってウルトラブックというカテゴリーを作り上げたのだ。

さて、こうやって見てみるとAppleがクローズド戦略でやっていることの本質がみえてくる。要するにAppleが売っているのは製品ではなくエコシステムという環境なのだ。そしてiPod、iPhone、iPad、Macという製品は、その環境を実現する端末と位置づけられることになる。これはPOS(Point of Sale)=販売時点情報管理システムをイメージしてもらえればいいだろう。といってもPOSのことを知らなければ何のことやらわからないのでちょっと説明を加えておこう。

POSという環境

コンビニに行って商品を購入する際、レジでバーコードに当てる掃除機の先のような装置がある。「ピッ」と鳴るアレだ。アレは商品価格を読み取るだけではない。読み取ったデータが瞬時にコンビニのデータ管理センターに送られ、リアルタイムにその店の売り上げやら、商品の売れ行きやらがわかるシステムなのだ。セブンイレブンは全国に1万店ほどあるが、ここで今、この時間までに、たとえばサッポロ黒ラベルがどれだけ売れたのかなんてことがわかってしまう。だから、このリアルタイム・データフィードバック・システムによって商品管理と販売戦略が可能になる。

で、このとき、あの掃除機の先はこういったシステムのための端末でしかない。まあ、言い換えれば水道の蛇口と同じで、それだけがあったところで、それだけではどーにもならない。これを端末とするシステム=環境(この場合上水道システム)があって初めて成立するものだ。つまり、これらに対し消費者=ユーザーは結局のところ環境を購入しているというわけだ。

そして、この環境は閉じていなければならない。システムの中心から端末まで一括管理されていなければ、この環境は適切に機能しないからだ。

Appleはこういったエコシステムをクローズド・プラットフォーム戦略によって構築し、ユーザーを抱え込んでいった。その結果、それまでどんどんとシェアを落としていたMacもまた、このエコシステムの端末としてユーザーたちが捉えるようになり、それが結果としてMacの売り上げを押し上げたのだ。つまり、繰り返すようだがMacを売っているのではなく、Macによってアクセスできる環境=エコシステムを売っている。その快適さに気付いたユーザーがMacを求めるようになったというわけだ。

これからの時代、売るのは商品ではなく環境

そう、要するにこうやって情報化が進むと、人々は快適な環境を求めるようになる。その環境を用意するために、環境を一括管理できるクローズド・プラットフォームという戦略は極めて効果的なのだ。

そういえば、こういった環境を古くから用意し、世界を席巻し、未だに世界を支配している企業があったっけなあ。そうDisneyだ。A.ブライマンが指摘しているように、ポストモダンの時代、人々は物語と環境を求めるようになっている。だからこのAppleの戦略は、今後とも強力な効果を発揮していくだろう。もちろん、オープン・プラットフォームがクローズド・プラットフォームと同等レベルの快適な環境を構築可能になるようなやり方とテクノロジーを見つけられるまでは。