Appleがクローズド・プラットフォームを頑なに維持し続けることで20世紀末に消滅の危機にいたり、また21世紀にはわれわれのメディア・ライフを根底から変容するような大復活を遂げたことについて考えている。前回はその復活の社会的背景について考察した。つまり、情報化が進展することで、商品やシステムについての情報が洗練され、その結果誰もが最適値を得られるという超管理社会が出現したことでApple製品の卓越性が青天白日の下に晒され、それが21世紀のAppleの再生を結果したと。

今回は、社会的背景ではなくAppleそのもののやり方に注目して考えてみよう。ポイントは三つある。一つは、今回のテーマとしてあげてきたクローズド・プラットフォームだ。これがなぜ卓越性を生むのか。

クローズド・プラットフォームはハードとソフトの関係を最適化する

クローズド・プラットホームは他のメーカーやソフトウェア・ハウスを除外するがゆえに企業の運営方針としては自閉的になり、それが結果として自らをマイノリティに貶め、その技術の卓越性を覆い隠すことになるというデメリットがあることについてはすでに説明しておいた。そして、その典型が Appleだった。利益を独占的に確保しようとするがあまり、かえって自らの立場を危うくしてしまったのだ。

だがその一方でクローズド・プラットフォームにはメリットも存在する。それはOSを他にライセンスせず、自らが開発したハードだけに適応させるというやり方がソフト=OSとハードの接続を最適化可能にする点だ。外部企業の場合、当然ながら外部企業の都合がある。だがらOSを提供するソフトウェア・ハウスとハードメーカーの間ではある程度の妥協を行わねばならない。だが、そういった妥協は必然的に機能面での制約やトラブルを発生させることになる。そして、その制約は結果としてユーザーに跳ね返ってくる。つまり、ソフトとハードが別々に開発されることでユーザーは繁雑な作業や故障という現実に遭遇させられることになるのだ。

だがOSとハードを一体にして開発すれば、これをクリアすることが可能になる。二つとも同一企業の監視下にあるから、これは、まあ当然だ。そして、この恩恵は必然的にユーザーに還元されることになる。さらに、自らが開発するさまざまなパソコン以外機種とのリレーションについても当然一企業が担うことになるので、双方のインターフェイスやリレーションは最適化される。つまりMacというMacOSを搭載するパソコンは、iPod、iPhone、iPadと最適な関係を構築することが可能になるのだ。その最たるシステムがiCloudで、これは住所録、写真、書類、音楽、書類などが一括管理できる。例えばiPhoneで撮影した写真は自動的に同じアカウントを登録しているiPadやMacにネットを介して自動的に転送される。こうなるとそれはMacを所有していることでも、iPhoneを所有していることでもiPadを所有していることでもなく、iCloudという環境を利用しているということになる。

クローズド・プラットフォームはエコシステムを最適化する

これは一般的にはエコシステム=生態系と呼ばれるものだ。現在、コンピューター業界ではこういったクラウド環境の整備があちこちで行われているが、これもまたオープン・プラットフォームで展開した場合には、それぞれ接続する企業が異なっているとことでクラウド利用が煩雑になる。だからクラウド利用はなかなか進まない。ところがAppleの場合にはクローズド・プラットフォームのおかげでほとんどシームレスにこれが済まされてしまうのだ。S.ジョブズは生涯最後のキーノートで、このiCloudを取り上げ、これを”It just work.”と表現した。つまり「動いているんだ!」という意味。前にもう少し修飾語句を付け加えれば「こっちがなんにもしなくても、iCloudの方で勝手に」ということになる。つまり、従来なら人間がマニュアル的に事細かに設定したり、操作したりしていたものをiCloudはほんのちょっとの設定で全て自動的にやってくれるわけなんだけど、これがAppleの環境で可能なのは要するにクローズド・プラットフォームのおかげでMacOSとiOSのリレーションをユーザーが意識することなく利用することができるようになっているからだ。そう、これこそがクローズド・プラットフォームの圧倒的なアドバンテージと言えるのだ。

ただし、Appleのやり方。これだけで現在の同社の活況を説明し尽くすことは難しい。というのもMacOS単体の時代も、それなりのエコシステムを構築していたからだ。当然二つ目、三つ目のやり方、つまりMacOS時代のそれにはなかったものが説明要因として提示される必要がある。では、それは何か?(続く