進境著しいニューハーフ・タレント

最近、ニューハーフ系タレントの進出が著しい。はるな愛を筆頭として、マツコ・デラックス、ミッツ・マングローブ、Ikko、楽しんごなどなど、次から次へとメディアに登場しており、ちょっとしたニューハーフ・ブームの状態だ。

ニューハーフという名称は、かつては「おかま」と呼ばれた。ただし、これが自主規制用語、通称「放送禁止用語」に民放連に指定されたことから、これに代わって用いられるようになった(一説によれば、この名付け親は桑田佳祐と言うことらしい。興味深いのは、時折マツコ・デラックスが自らを「おかま」と表現することがあることだが、これはあまりメディアでは指摘されることはない。当事者なら問題ないと言うこと?)。

ニューハーフが市民権を獲得する長い道のり

ニューハーフがメディアで市民権を獲得するのは、結構長い道のりだった。古くは50年代、丸山明宏(現在の美輪明宏)辺りに端を発する。当時から芸能界にゲイと呼ばれる存在は多かったらしいが、それを表に出すと言うことはタブーだった。これが、比較的市民権を得るのが80年代。「笑っていいとも!」にKINYAが登場した辺りだろうか。だが、KINYAはその饒舌さと露出の多さが最終的に嫌われる原因となってメディアからは消えていった。もっとも、それはKINYAがそのようなキャラクターであったと言うことよりも、まだこの年代ではゲイがメディアに登場することが不自然で、KINYAのパフォーマンスが、当時の視聴者の許容の限界を超えてしまったからだろう(ゲイバーのホステスだったら、あれくらいしゃべるのは普通だったし、現在のニューハーフ系タレントもKINYAと同様、場合によってはそれ以上に饒舌だ)。

市民権獲得の立役者・はるな愛

だが21世紀に入り、ニューハーフは、たとえば「性同一性障害」などといった名称を与えられ、差別されるべきではないという認識が一般化する(ちなみに、ニューハーフ・タレント誰もが性同一性障害であるというわけではない。ニューハーフは、後述するが、あくまでも記号的存在であり、その実態は問わないのが原則になっている)。

この認識を前面に押し出し、ニューハーフの市民権獲得に大きく貢献したのは、言うまでもなくはるな愛だ。

はるなは、当初、容貌が松浦亜弥似?ということもあって、そのモノマネ、通称「エアあやや」でブレイク。その後バラエティ・タレントとして活躍するが、その一方で自らが性同一性障害であること、性転換手術を行ったことを告白し、自身が大西賢治からはるな愛に至るプロセスが一般に広く知れ渡った。そして、その高いタレント性は、これまであったようなニューハーフへの偏見を凌駕するものがあり、これがそれ以降のニューハーフ・ブレイクのきっかけとなったと言えるだろう。

ただし、その一般化に伴って、単にニューハーフであるだけでは人気を獲得できないという状況も出現している。言い換えると、現在ブレイクしているニューハーフ系タレントはそれぞれが、かなり高度な芸風を備えている。

彼女たちの言動はメディア論・記号論的視点から見ると、かなり興味深い。今回は、マツコ・デラックスとミッツ・マングローブの発言を取り上げ、彼らのメディアの魔術師としての巧みさについて分析してみよう。(続く)