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(左から:犬のダグ、巨大鳥のケヴィン、ラッセル、カール。映画『カールじいさんの空飛ぶ家』より)

言葉を話す犬、ダグとの出会いがもたらした意外なもの

映画『カールじいさんの空飛ぶ家』を徹底分析している。

78歳の老人カール、8歳のボーイスカウト・ラッセル、そして巨大鳥のケヴィンによる珍道中。この道中にさらに一匹が加わる。犬のダグだ。ダグは犬語翻訳機(これはタカラ(現タカラトミー)の製品・バウリンガルをヒントにしている)を付けているので人間と会話を交わすことができる。そして、ダグにこの犬語翻訳機を装着したのは……なんとカールとエリーが少年時代に憧れていたヒーロー、冒険家のチャールズ・マンツだった(しかし、この設定だとマンツは90代半ばより上という年齢になるという、恐ろしい設定)。マンツは南米に向かい、犬に犬翻訳機を装着させて部下にし、いまだに巨大鳥を追いかけていたのだった。そして、ダグはマンツの部下だったのだ。ただし、落ちこぼれの。

だがダグ以外のマンツの犬たちはカールたちを見つけると、なぜか襲いかかってきた。カールたちはダグに手ほどきを受け、這々の体で洞窟の中に入ると……なんと、そこにあったのはマンツの飛行船(二人が初めて空き家で出会ったとき(もちろんこの家は、その後の二人の住み家になるのだが)、エリーが家を飛行船に見立てていたのだが、その現物)。そして、そこにマンツがいたのだ。

カールはマンツに対し、家を風船にぶら下げてパラダイス・フォールを目指していることを告げると、部下たちはカールへの攻撃を止め、またカールがマンツに「自分のあこがれの人だ」と手を差し出すのべることで、態度は豹変。今度はカールたちは歓迎すべき客としてもてなされる。

マンツの豹変

料理でもてなし、巨大鳥を生け捕りにするという野望を語るマンツ。だが、それは言うまでもなくケヴィンのこと。するとここでラッセルが「ああ、ケヴィンのことだよね」とあっさりと語り始める。ラッセルはマンツの話の意味を理解できていない。つまりケヴィンを生け捕りにしようとしていることを。だが、年老いたカールにはこのことがすぐに察知された。しかも、洞窟の横に停泊しているカールの家の上にはケヴィンが……。

ラッセルとケヴィンの間に築かれた友情。だが、マンツの知るところとなれば、この関係は遮断される。そこでカールは知らぬ存ぜぬを決め込むのだが、これが、かえってマンツに怪しまれる原因になる。いや、それどころかマンツはカールが巨大鳥を生け捕りに来たのだと勘違いする。

それはつまり、自分の成功を持ち去られること。もし、そうなれば自分に着せられた汚名を一生晴らすことはできない。巨大鳥、つまりケヴィンを生け捕りにすることはマンツの社会的名誉の回復という、アイデンティティをかけた一生の戦いなのだから。これを妨害する可能性のある存在は駆逐しなければならないのだ。実際、これまで同じ目的を持ってここにやってきたと少しでも思われた人物を、マンツはことごとく殺害していたのだ。

「この男も抹殺せねば」

マンツは再び悪魔と化して、カールを殺しにかかる。なんのことはない、最初部下の犬たちがカールを襲ってきたのも、成功争いの敵という想定だったからなのだ。社会から隔絶された環境で一人で生活し続けたあげくマンツは完全に社会性を失っていた。


人生を通じての、そしてエリーとの出会いのきっかけとなり、二人が共有し続けたヒーロー・マンツの豹変。だがこれこそがカールのパラダイス・フォールへの旅を、そして冒険の意味を、根本から変更させることになる。(続く)