『上毛かるた』に忍び込まされた浦野の世界観

ここまで展開してきた浦野のアナーキズム的な世界観(平等、友愛)に基づく大東亜共栄圏観は『上毛かるた』にはどのように反映されているのか。群馬県民にとって、かるたの読み札は何気なく覚えているもの。しかし、この文言の中には、しっかりと浦野の世界観が込められている。これからはそれをちょっと見てみよう。題して「上毛かるたの秘密」

「伊香保温泉、日本の名湯」~日本の名湯は草津じゃないの?

ちょっと考えてみて欲しい。この読み札、群馬県民ならおかしいと思わないだろうか。というのも群馬でいちばん有名な温泉、日本中に知れ渡っている温泉といったら……言うまでもなく草津温泉のはず。伊香保はそれに比べると知名度でかなり落ちる。だから、正しくは「草津温泉、日本の名湯」とならなければ行けない。ところが、草津温泉は「草津よいとこ、薬の出湯」という別の読み札になっている。県民はかるたをやりすぎていて、このことに気がついていないかもしれないが。

なぜ日本の名湯が伊香保になったのか。それは、伊香保温泉が「い」から始まる名前だからだ。『上毛かるた』はあいうお順ではなく、いろは順。ということは「い」の字がかるたの一番最初に来る。つまり、必然的に「い」の札がいちばん目立つと言うことになる。このことを浦野は狙っていたのだ。

で、浦野がこの札でいちばん訴えたかったのは「伊香保温泉」ではなく、下の句の「日本の名湯」、いやもっと明確に言えば「日本」という二文字だ。つまり崩壊してしまった日本国をあらためて建設しよう、我々は日本に暮らす、誇り高い日本人であるということを再認識しよう。そう言ったスローガンを広く県民に知らしめよう。そのためには日本という言葉が一番最初、いちばん目立つところになければならない。そこで、選ばれたのがいろはの「い」が頭についている伊香保温泉だったというわけだ。(続く)