二つのカルチャー

ボルドーのフルボディワインと安スペインワイン、ヴィーナ・カロッサはどう勝負できるか。ここでは文化についての二つの考え方についてあてはめるかたちで考えてみよう。

カルチャーの一つめはハイ・カルチャーとよばれるもの。つまりお上品な、貴族的な、ブルジョア的な意味合いを含んだカルチャーのことだ。これは日本人やアメリカ人にとってはフレンチやメルセデス、グッチ、ローレックスみたいなジャンルを意味する。とりあえず豪華だが高い。

もう一つはポピュラーカルチャー。こちらは大衆的で、やや下品なカルチャーだ。焼き鳥、焼酎、丼ものみたいな庶民的で価格も安い文化だ。

この二つ、どちらかが優れているという比較は、ハッキリ言って無意味だ。実はそれぞれ別カテゴリー。比較すること自体がサメとライオンはどちらが強いかみたいな馬鹿馬鹿しさを伴っている。もし比較している人間がいるとすれば、それは価格の高さが絶対視されている場合で、こういうのは世に言う「俗物」にほかならない。

ボルドーワインとデイリーワイン

で、言うまでもなくボルドーはハイカルチャー(まあ安いものもあるんだけれど)、ヴィーニャ・カロッサはポピュラーカルチャーに属する。当然ジャンルが違うのだから、これに合う料理も違ってくるのは言うまでもない。まあ、ボルドーならやっぱりたまには豪華にと言うことで大枚をはたく。一方、今日も家庭料理屋大衆料理で楽しもうというのならその名の通りのデイリーワインが向いている。
そしてそれぞれのカテゴリーでは、その内部で当然のことながら優劣が存在する。ボルドーもピンからキリまである。ちなみに国産のデイリーワインなんてのはほとんど壊滅的な味がするわけで(特に大手のもの。国内産のデイリーワインでもSADOYAとかTSUNOなんて結構面白いものある)、あんまりオススメできない。やたら甘かったり、ただただ薄かったりする。また日本人のワイン・リテラシーの低さをなめきっているというか、あるいはこいつらのおかげでリテラシーが低いままなのかはわからないが、とにかく白ならひたすら甘いというのが、まだまだ多い。赤はひたすら薄っぺらい、いやいや甘みを添加しているものも多い。

そんな中、今回紹介したヴィーニャ・カロッサは抜きん出ているのだ。

これはどこで楽しめるワイン?なんのことはない、本当のスペインの安レストラン、いや安食堂で楽しめるワイン。言いかえると、この手のワインをスペイン人たちは日常的に、そうデイリーに楽しんでいるというわけだ。

ポピュラーカルチャーを伝えて欲しい!

しかし、なぜかこういった「良質」の安物スカスカワインは日本に入ってこない。ワインというとなんかお高くとまっているという感じがまだまだ強く、必ず講釈をタレながら飲むというのが基本になっているからだろう。いいかえれば、だからワインはなかなか定着しないとも言えるわけで。

こういったことを憂いているのか、ソムリエ世界チャンピオンの田崎真也は漬け物に合うワインとかヘンな特集をよくメディアでやっている(最近缶コーヒーのCMに出演しているのは、ちょっとあきれてしまうのだが)。安物の漬け物に合うワインみたいなものを積極的に推進しようとするその姿勢はよくわかる。これは、要するにワイン・リテラシーを上げようとするプロパガンダだ。

そろそろワインに講釈は入らないのではないか。日本の食生活にも似合い、値段も手頃で、デイリーに楽しめるワインが出現しもよい頃なのでは。そんな一端をヴィーニャ・カロッサは感じさせてくれた逸品だった。

スペインの大衆食堂でイワシでも食べながら、この安ワインで酔っぱらいたいなあ!