絶体絶命の中での、代打逆転満塁ホームラン

映画「ニューシネマパラダイス」の主人公トトと恋人エレナが結ばれるシーンの映像構成の分析をおおくりしている。三つのコントラストの内の、今回は二つめと三つ目にメスを入れる。

やるせなく、ニューシネマパラダイスの映写室に戻ってきたトト。腹いせに映写機に貼り付けていた去年のカレンダーを剥がし、ビリビリに破いてしまう。そして頭を映写機にぶつける。カメラは場面転換することなく、ゆっくりとトトに向かっていく。この悲しみ、苦しみは実に切なく映る。ところが、その時「サルバドーレ(トトの正式名)」という声が……。なんとエレナが自らニューシネマパラダイスの映写室にまでやってきたのだ。エレナは兵士=トトの思いを感じ取った王女としてやってきたというわけだ。そして、この時、われわれはハッとさせられる。われわれがつい今し方まで見ていた映写機の前で悲嘆に暮れるトトの映像の視点がエレナの目線からの映像であったということに気付くのだ。そして、徐々にトトに向かって近づいていることも。これはエレナがトトに話しかけた瞬間、このカメラは第三者の客観的な視点になることでわれわれにフィードバックされる仕掛けになっている。だから、ハッとするのだ。

二人は近づき抱擁し合うのだが、この時、積極的にアプローチをかけるのはトトよりもむしろエレナである。エレナはトトのガンバリに報いようとしているという演出。そして、エレナが近づいていく映像が今度はトトの視点に変更される。トトは遂に満額の回答を獲得したのだ。手をさしのべていくのも、キスを働きかけるのもエレナの側。まさにエレナはトトにメロメロになっていた。

観客であるわれわれとしては、見事な手品を見せられた気分に浸ることができる。あれだけ落としておいて、場面が変わってもさらにガッカリした状況で、突然思いが叶う、つまりエレナが登場するのだから。花火のコントラストと同様、このどん底まで突き落としてからの突然の持ち上げは、こちらをまるでジェットコースターに乗せたような心理状態に陥れるのだ。観客の多くは、ここで思わず涙してしまう。

そこまでやるか~?の演出。トルナトーレは執拗だ!

だが、このコントラストを極端にすることで、観客を感動の坩堝に巻き込むトルナトーレの手法はさらにダメを押す。

激しく抱き合い、キスをするトトとエレナ。すると、上映されている映画の前半が終わり、フィルムのリールが空回りしはじめる。後半のフィルムを装填して続きをはじめないトトに業を煮やした客席の観客たちが、トトに罵声を浴びせる。ところが、二人は愛し合うことに夢中で、そのことに全く気がつかない。一方、この時、観客たちは客席の中で傘を差している。雨が降ろうが映画を見たいという観客たちの映画に対する情熱もスゴイ。しかし、二人はそんな情熱よりもさらに上を行くというわけだ。今度は共同体の人々の映画に対する情熱とトトのエレナへの情熱のコントラストを用いることで、トトの気持ちを強さをデフォルメしているのだ。

そしてこのシーンのラスト。二人が抱き合う画面の左には空回りするフィルムが映し出されるのである。(続く)