オマケ:ロマンスシーンの演出テクニック

最後に、映画の構成の仕方として超ベタでありながら、ほぼ完璧と思われるシーンのテクニックをこの映画の1シーンから紹介しておこう。それはトトがエレナを口説き落とす一連の過程だ。ここでは三つのコントラストが用いられ、見ているわれわれの涙腺を緩ませる。

エレナが好きでたまらないトト。しかし、彼女の前に出ると緊張してしまい、雷が鳴りそうな状態で「今日はいい天気だね」と言ってしまったり(直後雷鳴がとどろく)、思い詰まって電話で告白すると、なんと相手がエレナの母親だったりと、失態を繰り返す。

そこで、トトはこの悩みをアルフレードに告白する。するとアルフレードは兵士と王女の「おとぎ話をはじめる」。あまりに強い恋心で耐えられなかった兵士が王女に告白する。それに感動した王女は「百日の間、私の部屋のバルコニーの前で待って。そうすれば私はあなたの元へ」と約束する。

この物語を聞いたトトは、自分を兵士、エレナを王女と見立てこれを実行する。ただし、バルコニーの下で待つと宣言したのはトトの方。演出の妙はここからだ。

徹底的に落胆を演出する手法~落胆と歓喜のコントラスト

エレナに荒行を宣言した夏の日以降、トトはシネマパラダイス終了後エレナの家の前で毎日のように待ち続ける。だが、秋、冬と時は過ぎていく。このガンバリにエレナは徐々に心を開いていく。エレナ、実は部屋のブラインド越しにトトを見ていたのである。

1955年の大晦日の夜が訪れた。トトはいつものようにエレナの家の前で。あたりは新年を迎えようとする人々が家の中で、その瞬間を今か今かと待ち受けている。そして、彼らはみんなで、そして大声でニューイヤーのカウントダウンをはじめるのだ。すると……エレナ部屋のブラインドが動いた。トトの期待は高まる。もちろん映画を見ているこちらも同じ期待を抱く。カウントダウン終了、新年の開始と同時にエレナはことブラインドを開け、トトに彼を迎えるあいさつをするのでは。つまり、新年の始まりこそが兵士と王女の物語の百日目にあたるのでは、と。

ところが、期待に反してブラインドは閉じてしまう。その動きは開けるのではなく、完全に閉めるためのものだった。トトは強く落胆する。そしてここで哀愁を帯びたマイナーコードのBGMが。だが、トトを除くジャンカルドの人々は別だ。新年が明け、大喜びで雄叫びを上げる。その叫びが響き渡る中、トトはコートに襟を立て、寂しそうに道を歩き始める。通りの窓からは酔っぱらった住民がワインのボトルを次々と道ばたに放り投げ賑やかさを助長する。そして、トルナトーレはこの歓喜と落胆のコントラストを一層強調するために、道の先に花火まで揚げてしまう。人々の新年の歓喜が高まれば高まるほど、トトの無念さが強く、見ているこちら側に伝わってくるのだ。寂しいのはトトだけ。そう、トトは、そしてわれわれは深い絶望に陥れられる。(続く)