出現した中国留学生大聖火応援団

オリンピックが本来政治それ自体であり、また聖火リレーもまたナチスドイツ、突き詰めればヒトラーたちによって作り上げられた政治的プロパガンダであること。そして今回、中国政府もまた、人権団体と同様、自らの政治手段としてオリンピックを利用していること。要するにオリンピック、いやそれだけでなくメディア・イベントとしてのスポーツがすべからく「政治それ自体」であることは数回前の本ブログで示しておいた。そしてこの政治性を象徴的に示すのが、今回の聖火リレーを巡る一連のゴタゴタ、つまり聖火リレーへの妨害(あるいは、リレー中継を使ってのチベット迫害抗議)だった。

さて、こういった「政治性」に疑義を挟む中国人、とりわけ海外に滞在している中国人、とくに留学生を中心とした人々たちが「オリンピックと政治は別」ということを示そうと、聖火リレーが行われる場所へ大挙して向かい、中国の旗を振り「中国万歳、オリンピックを成功させよう」と街頭で大々的な応援を繰り広げた。つまり、彼らは聖火リレーが「政治の道具」に利用されないよう、聖火リレーの現地で大勢で旗を振り盛り上げることでこれをかき消そうとしたのである。

留学生応援団こそ究極の政治集団

しかし、これこそ究極の政治行動と僕は考える。ただし、沿道に陣取って旗を振っていた留学生があからさまに政治的意図を持っていたというわけではない(もちろん、一部その手の人間もいたであろうが)。むしろ、彼らは純粋に北京オリンピックを成功させようと聖火を応援しに来ただけだろう。ただし、だからこそ、これは究極の政治行動と考えることが出来ると僕には思えるのだ。

中国人留学生たちが育った情報環境を考えてみよう。もちろん彼らは中国に生まれ中国に育った。ということは中国共産党の政治方針の中で自らの人格を培ってきた人間たちだ。そして中国政府は中国人民の思想統制をこれまで続け来たし、現在でもずっと続けている。しかもその思想統制のやり方は情報化社会の進展とともに巧妙になっているとも言える。それは現代思想の言葉を用いれば「規律訓練型」の権力行使から、「環境管理型」権力への移行ともいうべきものだ。今回はこの違いを示しながら、聖火での中国留学生たちの政治行動を考えてみたい。結論を先取りすれば中国の環境管理型権力の見事な作動の結晶が、この留学生たちの聖火への旗振りなのだ。(続く)