関東に戻って気付いたこと

私事で恐縮だが、十年ぶりに関東圏に戻ってきた。未だに環境を見る目線は三月末まで暮らした宮崎のそれだ。で、その視線で見ると十年前とは明らかに違っている東京=関東に気づくことが出来る。それは、まあいろいろとあるのだが、ちょくちょく東京には来ていながら(宮崎在住時にも月一回くらいの割合で東京に通っていたので)気づかなかったことの一つをここでは取り上げてみたい。それは「東京がニューヨーク化、いやユニクロ化している」ということだ。

どいつも、コイツも真っ黒だ

現在僕は川崎のマンションに住んでいる。かなりの大規模マンションで、朝、駅に向かう通りには多くのサラリーマンたちが急ぎばやに職場に向かう姿を見ることが出来る。彼らは三十代なのだが、なんとスーツが男女を問わず、ほとんどがインディゴ系の黒の出で立ちなのだ。グレーを見ることなどほとんどない。それゆえ駅のプラットホームは黒一色に染まる。さながら「カラスの集団」。これは十年前には見かけることのない風景だった。なんだか学生服のようにすら見えるが、まあ、ちょっと藍色がかったところは異なる。もちろんダサいということはなく、それなりに決まっているのだが……制服みたいに誰もが誰も同じ色、格好というのはどうなっているんだろう。

シンプル・イズ・ベスト

そして、もう一つ特徴的なのがコテコテのデザイン・スーツもまた一切見あたらないこと。よく言えばスタイリッシュ、悪く言えば地味である。だからやっぱりそれなりに決まっているのだが……これと同じ風景を僕が初めて経験したのはもう七~八年前のニューヨークだった。その時、感じたのは、なぜエリートのニューヨーカーは地味な黒の、シンプルなスーツに身を固めているのだろうか、というものだった。もっと派手でも良さそうなものをとその時は思ったし、松井秀喜がヤンキースに入団したとき、いきなりこの格好をしたのにも驚いた記憶がある。「ニューヨーカーってのはあまりファッションにこだわらないで、この「黒」ファッションになるんだろうなあ」僕はその時、そんな風に考えていた。

日常もまたシンプル、そして黒

さて、この黒が気になってくると、今度は日常の格好もまた気になり始めた。で、よく見ると、シンプル、そして黒基調がやはり多く、その他オレンジやグレーなんて言うのもあるが、ちょっとくすんでいて、そして落ち着いたファッションに仕上がっている。黒はもちろんだが、ほとんどが無地なのだ。

そして、この黒ずくめの原因はなんなのか?しばし僕は考えた。その結論が今回のタイトル「日本はユニクロ化しているのではないか」というものだった。

このシンプルで少しくすんだデザイン。よ~く見るととってもユニクロに見えるのだ。言いかえると公私を含めて、生活を彩る衣服のすべてがユニクロづくし(おそらく、必ずしもユニクロで購入しているのではないのだろうが、デザイン的には「ユニクロ基調」に見える)。実際、ユニクロに行くとどこも盛況だし、ユニクロで衣類を購入に着た客は、判で押したようにユニクロを身に纏ってユニクロ製品を購入に着ている。だから店舗それ自体が客も含めて妙な統一感に溢れているのだ。

ファッションからおりたなら、ユニクロという時代

こう考えると、関東の人間の多くがニューヨーカー化したと言えるのかもしれない。もっともアメリカ人はファッションセンスが基本的に最低。何も考えていない。でもニューヨークではそこそこの格好をしなければならない。だったらあつらえのニューヨークファッションセットを着ておけば安心とニューヨーカーは考えているのでは。

で、これと同じ考え方を東京人がはじめたのだ。いちいちファッションにこだわるのはカネがかかるし、うざったい。もっと他のことに関心を集中したい。でも、みっともない格好はできない。だったらユニクロが提供するトータルコーディネートをそのまま身につけておけば、さしあたり安心だし、費用もかからない。

つまり、かつてのようにファッションにこだわるのはやめたとしても、ユニクロにすがっている限りは問題ない。80年代の消費による差異化、個性化の果てにたどり着いた新しいシステムとしての、な~にも考えなくていいファッションに全面依存し、ファッションからおりること。これをやり始めた結果が「黒ずくめ」というスタイルを生んだのではないか。アメリカといえば肥満の国。しかしニューヨークだけは肥満が非常に少ない。ニューヨーカー、実は他のアメリカ人以上に周囲を気にする存在。でもファッションセンスはダメ。だから黒というシステムが用意された。一方、日本人も周囲の目を気にする。その二つのニーズが共通に選んだテキスタイル。それが黒を基調としたファッションシステムだったのだ。

この「ファッションから降りたらユニクロ」という図式。いずれ全国を取り巻くのではなかろうか。ファッションにこだわるマイノリティは徹底してファッションにこだわり、そんなの面倒くさいという人間にはユニクロという無難なコーディネートシステムが用意される。こういったファッションの二極化が今、全国的に展開されようとしている。僕にはそんなふうに思えてならない。