看護士すら、もはや人気がない

やさしくて、つらそうな顔をして、やがて辞めていく介護福祉士さんたち。いったい彼らに何が起きているのか?実は、背後でとんでもない状況があるということらしい。

それはなんのことはない。この仕事が、全く割に合わないということだ。とにかく、仕事が大変。こういっては何だが、介護という作業は肉体労働だ。しかも訳のわからなくなってしまった人間を相手にしなければならないし、下の世話もしなければならない。ちょっと昔の言葉を使えば3K(キツイ、暗い、キタナイ)な仕事である。

いやちょっと待て、これと同じ仕事なら看護士があるじゃないか。ところが違うのである。何が違うのか。それは二つ。一つは労働量。身動きもままならない人たちの世話が介護福祉士の人の仕事。必要とされる体力はハンパではない。もう一つは、そしてこちらの方が大きな問題なのだが、賃金があまりに低いと言うことだ。彼らは介護福祉士としての訓練を受けてきたはず。そう、介護福祉士の専門学校とか大学を出てきたエキスパート。ところが、あまりに経済的な見返りが低いのである。

実は、看護士ですら人気がないことをご存じだろうか。賃金が比較的高く、仕事も簡単に辞めたり戻ったり出来るにもかかわらずだ。海外の長期旅行をするバックパッカーの中に看護士が非常に多い(これは僕が毎年、タイ・バンコク・カオサンというバックパッカー向け安宿街で300人ほどの旅行者から得た統計データに基づいている)。彼らは看護士を勤め、小銭が貯まると仕事を辞め、半年から一年くらい旅行に出る。そして、お金が無くなると再び日本に戻り看護士の職に就く。そして、その時、海外旅行を楽しんだにもかかわらず、給料が下がると言うことなどあまりないのだ。つまり、彼らは「旅の貴族」。手っ取り早く高収入を得られること、旅をしたいこと、この双方を両立させる方法として看護士という職をチョイスしているのだ。

ところが、看護士は常に人手不足。なぜか?それは、やっぱり3Kという認識があるからだ。現代の若者は、やはり3Kはいやなのだ(となると需給関係で看護士は買い手市場になる。だから辞めても、すぐに職に戻れる。でもって、こういった状況をしたたかに利用する若者の一部がバックパッカーだったというわけだ)。

看護士より、はるかに劣悪な労働環境

そして介護福祉士である。彼らは看護士以上に仕事が3K。にもかかわらず、給料がとんでもなくヒドいのだ。こうなってしまっているのは介護という業種の構造的問題に由来している。

介護福祉士の労働に関しては、その仕事の種類に応じて請求額が決まっている。規定額以外に、たとえば散歩や病院に連れて行ったりすると、その分の請求がオプションで可能になる。問題は規定額。これが低い。だから、結局、介護を受けている人間に様々なオプションを取らせることによって副収入を得るというようなことが必要となってくる。そこで、コムスンのような民間の介護事業はこのオプションから粗利を稼ごうと考えたのだ。ちなみに、こういった行為は民間企業・営利企業なのだから全く持って正当な行為である。ただし、この事業が「介護」という福祉の意味合いを含んでいるが故に、金儲けしてはいけないというイメージがまとわりつく。だがこれは間違いだ。金儲けをしてはいけないという理屈は、これが公的な業務である場合以外は適用されないのだから。介護事業も飲み屋や旅行代理店、一般メーカーと同じように利益を追求することに何ら問題はない。

しかしながら、そんなに阿漕にオプションを取らせるわけにも行かないというのが、この業界に勤める人たちの一般的な心性でもあるだろう。というのも、この業界に入った人たちは「まじめ」な人。高齢化社会の問題について真剣に考えるような善良な人たちが大半を占めるからだ。そこで、結局、概ねケアマネージャーの設定の範囲で仕事をすることに。しかし、実際はその設定内で仕事などこなせるものではない。だから、結局、時間外の労働はサービス残業となる。それではいくらなんでもひどい。そこで、何とか帳尻を合わせるべく、それが結局補助に対する保険の不正請求と言うことになる。で、これがバレてバッシングを受けているのがコムスンにおける現状のなのではなかろうか。僕には、父親の介護施設の現状を見ているとそのように思えて仕方がないのだが。

もちろん不正は不正である。それ自体は法律違反であり許されるものではない。しかしながら、この場合は不正請求でもしないと生活がままならない、施設の維持がままならないという現実がある。と、考えれば、こういう不正請求が生じるのはいわば「構造的問題」、ようするに起こるべくして起きただけのことと考えた方が納得がいく。(続く)