あまりに酷いチキン・リトル

ディズニーアニメ「チキン・リトル」を、ディズニーのお膝元、浦安舞浜・イクスピアリのシネコンで観た。成城石井にワインを買いに行ったおり、たまたまここで3Dをやっているというのでフラっと入ってしまったのだが……ウーム、観てはいけないモノを見てしまったというのが正直偽らざる感想だ。

かなり、酷い作品と断言してもいいかもしれない。まずスクリプトがダメ。父親とチキンリトルのコミュニケーションの描かれ方が一本調子。で、話の落とし方はハッピーエンドであることは別に良いのだが、展開が相当くだらない。正直な話、途中で眠くなってしまった。Yahooの映画評で、「子ども向け」との指摘が連発されていたが、まさにその通り。大人が見るモノではない。子どもがいなければ決してみることはなかった「お子ちゃま」向けの安っぽいストーリーだった。少しはアイロニーを入れるとか、ストーリー展開に緩急をつけるとか、少々難しい心理描写をするとかやってくれないと困るよねえ。

次にキャラクターが、ダメ。チキンリトルはキャラクターが乏しいにもかかわらず、あわただしいので、単にうるさいだけ。おかげで吹き替えのTARAKOの声も慌てているちびまるこちゃんが延々続く感じで、耳にキンキンと響く。また、彼女役になるアヒルのキャラクターが、マジで醜い。これだけ醜いキャラクターにしているのだから、逆に内面がうまく描けていて、映画の最後には魅力的なキャラクターに見えるように作られているんだろうなあと期待していたのだが、そんな作りはいっさいなく、おかげで彼女がチキン・リトルにキスするシーンはグロテスクなものでしかなかった。

さらに絵もダメ。これまでディズニーブランドで配給してきたピクサー作品の数々を見慣れた側からすると、技術がダメと言うだけでなく、絵のデザインや設定、トリックも全然ダメ。とにかく、ダメ、ダメ、ダメなのだ。それでもお客は入っていた。勝手に推測するが、その理由はお客がこれをピクサー作品と勘違いしたためじゃないのか?

ディズニーアニメは、この十年間没落し続けている

ディズニーはこの十年間、ロクなアニメを作ってきていないことは、ディズニーにちょっと詳しければ誰もが知っていることだ。ディズニーアニメの凋落は95年、ディズニーの社長、フランク・ウエルズがヘリコプター事故で死亡。その後任をアニメーション部門の統括者ジェフリー・カッツェンバーグが要求し、これをCEOのマイケル・アイズナーが拒絶したことから始まる。怒ったカッツェンバーグばディズニーを辞めてしまう。これが大問題だったのだ。なぜなら、彼は80年代末のリトル・マーメイドから始まるディズニーアニメの第二の隆盛の立て役者、つまり美女と野獣、アラジン、そして未曾有の成功を遂げたライオン・キング(ただし手塚治虫『ジャングル大帝』のパクリ)の生みの親だったからだ。

辞めただけならまだいい。残念ながらそれだけでは住まないのがこの業界のおもしろいところ。カッツェンバーグば辞めたその足でS.スピルバーグ、D.ゲフィン(J.レノンのアルバム・ダブルファンダジーなどを擁するゲフィン・レコードのオーナー)とSKG、つまりドリームワークスを設立する。その後このチームがアンツを始まりにシュレック、シャークテール、マダガスカルといったヒットアニメをとばしていく。

一方、カッツェンバーグが抜けた後のディズニーアニメは悲惨を極めていく。ポカホンタスまでは、まだ惰性で好成績を挙げていたが、その後ノートルダムの鐘、ヘラクレスと失敗。ムーランも鳴かず飛ばず。ターザン、リロ・アンド・スティッチでしのいだものの、この後のトレジャー・プラネット、ブラザー・ベアともなると、一般には作品名すらも覚えられていないほどの不発となる。おや?トイ・ストーリー1・2、バグズライフ、モンスターズ・インク、ファインディング・ニモ、ミスター・インクレディブルといったコンピュータ・アニメの傑作群があるじゃないの?と言いたくもなるかも知れないが、これはピクサーの作品であって、ディズニーは配給しているだけだ。で、チキン・リトルである。ディズニー・アニメは完全にクリエイティビティを失っている。

そして、今やピクサーはディズニーに変わる、アニメーションの帝王に君臨した。そのことをよく認識しているピクサーのCEO、スティーブ・ジョブズは、ここ数年ディズニーに対して、配給条件の変更を何度となく突きつけてきた。たとえばキャラクター・グッズにピクサーのロゴを入れさせるとか、興行収入の分け前率を増やせだとか。また、ディズニーの方もピクサーアニメの主任であり監督やプロデューサーを勤めているジョン・ラセターを引き抜こうと画策したりする。(詳細はジョブズの非公認人物伝『iCON』に詳しい)当然、こんなことが繰り返されアイズナーがジョブズと激突。次作「CARS」を最後にピクサーとディズニーの契約はうち切られた。