2014年01月
個性的って、何?
個性が至上命題化された80年代以降
80年代以降、日本人の心性にデフォルトとして掲げられた命題。それは
「個性的であること」
70年代までは、60年代以降の高度経済成長イデオロギーを引きずり、人々は「人並み」であることを志向した。しかし70年代も末になると情報化・消費社会化が進み、誰もが「人並み」である時代が出現する。国民のほとんどがクルマや電化製品を買い揃え、同じような住まいに暮らし、年に数回はレジャーに出かける。いわゆる「一億層中流」という認識が生まれた。
だが、人間は贅沢なもので、欲望に限りがない。「人並み」が達成されたとき、次に目指したのが「人と違っていたい」だった。心理学者アブラハム・マズローの欲求段階仮説になぞらえれば、その最高段階である五段目の自己実現欲求の段階に達したというわけだ。そこで80年代にはいると「個性的である」と言うことが至上命題となった。とにかく「人と違っていること」が目指されたのだ。
でも「個性」ってなんだろう?
ちょっと古い曲だが、槇原敬之作詞作曲でSMAPが謳った「世界で一つだけの花」のサビの部分にこんなくだりがある(というか、誰もがご存知の歌詞だろうけれど)
世界に一つだけの花
一人一人違う種を持つ
その花を咲かせることだけに
一生懸命になればいい
小さい花や大きな花
一つとして同じものはないから
No.1にならなくてもいい
(作詞・作曲・編曲/槇原敬之JASRAC許諾第J090816598号)
これは2002年の作品だが、実は80年代と00年代の「個性」のあり方の根本的な相違を如術に示している。
80年代は「No.1」の個性が、00年代は「Only one」の個性が志向されたのだ。つまり、「人と違っていること」について、前者は「異なっていて、それでいて他人より優れている」、後者は「異なっていれば、それでいい」。
これは、情報化の進展で価値観があまりに多様化・細分化してしまった結果、互いを比較することが出来なくなった必然的結果だった(逆に言えば80年代は、まだ人並みを引きずった上での差異化が求められていた。だから分衆論とか新人類論がもてはやされたのだけれど)。そして、これは「社会に貢献する」というよりも「周囲の一部の人間に認められれば、それでよし」という心性を作り上げた。
まあ、それはそれでよかろう。しかし、この二つ、ある側面においてはまったく変わっていない。それは「個性的である」ということが至上命題化されていることだ。
「個性的でありたい」と思うって、なんて没個性的なんだ
そんなに個性的である必要が、果たしてあるんだろうか?
実は「個性的でなければならない」という命題それ自体が、ぜんぜん個性的でないのではなかろうか。もし、誰もが「個性的でありたい」と思っているのであるのならば、みんな「個性的であること」を志向するおかげで個性的ではなくなる。むしろ、いちばん個性的なのは「個性的であることを志向しない人間」だ。この人間は「自分が個性的でありたいと思うような平凡な発想を持った人間ではない」ということになるからだ。
個性についての、このような存在論=議論の立ち位置に関する問いは重要だ。そして、それは翻って「個性」とは何かという問題を根本から僕らに問いかけてくることになる
個性は人生経験の必然的結果でしかない
「個性」は、個性的であろうとして出来上がるものではない。そして、自らをさして「個性的」というものでもないだろう。個性というのはむしろ結果だ。普通に暮らしていて、その人の長所や短所、そして性格といった人格全般が出来上がる。いいかえれば本人の選択ではなく、良きにつけ悪しきにつけ運命的に背負い込んでしまうもの。それを第三者の視点から見たときに「個性」と呼ぶのだ。
個性的であるためには
ただし、そういった個性が他人からは「個性的」と呼ばれたり「平凡」と呼ばれたりする。では、その差はどうやって生じるのか?
その答えは、やはり「世界に一つだけの花」の中にある。
あなたは「もともと特別なOnly one」だから「一人一人違う種を持つ」。ただし、その特別な一つだけの花=個性を開花させるためには「一生懸命に」ならなければいけない。
そう、やっぱり個性というのは努力の賜なのだ。ただし、それは個性的になるために一生懸命になるのではなく、「もともと特別なOnly One」の花を咲かせるために一生懸命になる必要がある。ちょっと、やさぐれた表現をすれば日々「ハンパじゃね~んだよ!」といった姿勢が重要なのだ。
じゃあ、どうやったら一生懸命になれるのか?それは意外と簡単だ。「一生懸命」という文字の一つを入れ替えると、そこに答えは現れる。「生」を「所」にすること、つまり「一所懸命」。何事もハンパなく、その都度、つまり一所一所に懸命に取り組んでみる。そうすることで経験が積まれていく。その経験の量こそが、結果としてあなたの個性を必然的に作り上げていく。
大学は高校までと違い、自由な時間がたくさんある。勉強、部活、バイト、恋愛、遊び……どれでもいい。とにかくハンパなく「一所懸命」に取り組んでほしい。その先に、実は個性というものが転がっている。