稚拙な戦略も織り込み済み?
くまモンは「ご当地ゆるキャラ」というかたちで地域活性化に一役買うことを目指して作られたキャラクター。そして前回まではゆるキャラのように見えて実はコンセプトを徹底的に煮詰めた「なーんちゃってゆるキャラ」であることを指摘しておいた。おしまいに、じゃあ実際、くまモンは熊本の活性化にどのように貢献するのかを考えてみよう。
現在のくまモンの売り方についてみてみよう。キャラクターデザインとしてはコンセプトを煮詰めた究極キャラであるわりには、その戦略については綻びが見えないこともない。これはオフィシャルサイトでのくまモンの売り方を見るとよくわかる。ものすごくフツーなのだ。つまり二流どころのやる「ゆる~いコンセプト」。「ああ、観光課あたりがやっている素人のやり方だな」ってのがよくわかる。もはや一流プロデューサーの手腕からはほど遠いものになっているのである。
でも、これでいいのだ。こうやって地元がゆるい戦略を組み続けている限り、くまモンは、その本当の姿を隠しつつ「ゆるキャラ」というカテゴリーに収まり続けることが出来るのだから(ひょっとしたら小山薫堂や水野学はこのことまで織り込み済みかも?)
記号だけが浮遊する
ただし、くまモンはやっぱり「記号のみ」の存在。だから、名前こそ熊本にちなんでいるけれど、これを所持する若者たちとって、くまモンは「ただのくまモン」という記号でしかない。だから、これを持ち歩くからといって熊本に愛着を持つことはおそらくないだろう。そもそも「主張しない、読み込み自由」がそのウリなので、もしここでくまモンが豪快に熊本を主張するようになって「目線がはっきりする」ようなことがあったら、かえってファンはくまモンから去ってしまう可能性が高い。だからくまモンが全国的に人気を博することと、熊本についての認知度が高まることはあまり関連性がないと思っていいし、これが熊本に急激な集客力を持つとも考えられない。あくまでくまモンは「スタンドアローンなくまモン」として売れ続けているだけの存在。くまモンが売れているのは物語がないから、つまり熊本とは関係のない「萌えキャラ」の人気者なのだ。でも、これじゃあくまモンは熊本の観光推進に何ら貢献しないのではないか?
記号が地元意識に環流する
しかし、これもまた、これでいいのである。というのもくまモンは観光というよりも、他の側面から地域活性化に貢献するからだ。くまモンは、熊本県民にメディアを使って地域アデンティティ、つまり「おらが熊本」の感覚を別の側面から与えることを可能にする。
その図式は次のようになる。
まずくまモンが爆発的に売れる。そして全国区になり、あっちこっちのメディアで報道されるようになる。で、こうなったときに熊本の人間が東京都か大阪に出かけたりする。すると、そこで驚くべきことを発見する。それは街中にくまモンがあふれていることだ。
メディアに露出し、全国にあふれるくまモンを見たら熊本県民はどう思うだろうか。
当然、「おらがくまモンがすごいことになっている!」と感じるだろう。そして、そうやって全国に名を馳せているくまモンと自分を重ね合わせるようになる。接点は言うまでもなく、互いが熊本出身、つまり「くまもん=熊本の者」であること。で、くまモン人気をわがことのように喜び、それが熊本に対するアイデンティティーを刺激する。
ちなみに、これは東国原英夫が宮崎県知事時代にやった手法だ。「みやざきをどげんかせんといかん」と言い続け「地鶏、マンゴー、焼酎」を連呼し続けることで、これらを全国区にし、イケてない県としてのコンプレックスを持っていた宮崎県民を元気にしたのだけれど、ようするにどちらも全国でその名を売って、売れたことを地元県民に認知させ、自らのアイデンティティー、県民であることの自信を感じさせるという点では全く同じなのだ。だからくまモンも熊本を元気にするという点で地域活性化に十分貢献しているということになる。
そして結局、くまモンは本当にご当地ゆるキャラになる
おそらく、くまモン人気もそう長くは続かないだろう。あと五年もしないうちに忘れ去られているのではなかろうか。しかし、これもまたそれでいいということにならないだろうか。そうやって忘れ去られる反面、熊本ではイケない手法でくまモンは地域活性化のために貢献し続ける。そうすることで、今度は本当にご当地ゆるキャラとして安住の場所を見いだすことになるのだから。
地域活性化の手法としてのこういったくまモン、「あり」ですよ!