勝手にメディア社会論

メディア論、記号論を武器に、現代社会を社会学者の端くれが、政治経済から風俗まで分析します。テレビ・ラジオ番組、新聞記事の転載あり。(Yahoo!ブログから引っ越しました)

2012年08月

第一象限:情報アクセス-インストゥルメンタル志向の旅行者

バックパッカーの聖地、タイ・バンコク・カオサン地区でバックパッカーのメディア行動(スマホ、Facebook)についてのインタビューを特集している。さて、いよいよ今回から、実際のインタビューをお送りしよう。本特集で示しておいたように、インタビューイー(インタビューを受けたバックパッカー)を情報アクセス志向ーコンサマトリー志向、インストゥルメンタルーコンサマトリーによるマトリックスによって四分類しているが、今回は第一象限:情報アクセス志向-インストゥルメンタル志向のバックパッカーについてお伝えする。


スマホ,Facebookは旅の情報を引き出す道具だけれど……

Mikiさん(東京在住)は現在29歳。海外旅行10回、その内バックパッキングは4回め。今回は職を辞め 11ヶ月の旅を敢行。その最終章として二週間の予定でタイにやってきた。これまで三回のバックパッキング経験があるが、長期にわたるバックパッキングは今回が初めてだ。ドミトリーを渡り歩きながら情報入手をし、旅するのが、彼女の旅のスタイルそんな。彼女にとってFacebookは自らの旅行を活性化するツール。というか、もっぱらFacebookは旅の重要な道具として機能している。 




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Facebook、国内では「旅のスタンバイ」ツール

先ず日本国内にいるときには、海外を旅行している友達たちの動向をチェックする。そうすることで、日本にいても、海外旅行にいる気分に浸る。さながら安宿街にあるゲストハウスのドミトリーでバックパッカーたちが語り合う場面にヴァーチャルな形で居合わせたような気分に毎日浸れるのがFacebookなのだ。だが、その反面、日本にいるときには自らが「近況アップデート」をすることはほとんどない。その頻度は,なんと一ヶ月に一回あるかないか。要するに、徹底したROM専なのだ。国内でのFacebookは、いわば「旅のスタンバイ」「日本にいても旅」のためのツール。つまり日本でFacebookは第二象限:情報アクセス志向ーコンサマトリー志向のメディアとみなされている。

海外では、情報入手のクローラー

だが、海外に出た瞬間、その利用方法は一変する。Facebookは情報を入手するツールとして機能し始めるのだ。まずはFacebookの閲覧頻度。日本では一週間に2~3回程度だったのが、旅行先では1日2回程度と増加する。これは、自分が向かう旅の情報を獲得しようとするのが目的。具体的にはFacebookをチェックして自分が向かう先の情報を持っている友達にアクセスする。そのために「近況アップデート」や「いいね!」ボタンを押す回数もやや増える。Facebookの友達申請と承認については二週間で、それぞれ3人、6人だった!(ただし、すべて実際に面識があった人間だけ。また情報公開はメルアドと生年月日のみ)。コミュニケーションを活性化することで情報を得やすくするのが目的なのだ(ちなみに「いいね!」ボタンを押す最も顕著な理由は「あいさつ程度」)。要するに、旅に関してのFacebookの利用は徹底した第一象限:情報アクセスーインストゥルメンタル指向なのだ。「Facebookを利用するのは旅の情報が得られるから」彼女はきっぱりと言う。

データベースとしてのFacebookの写真機能利用

ただし、Facebookの機能の使い方については、ちょっと変わった側面もある。彼女は写真撮影や自分の近況をあまりFacebookにはアップしない。これには理由がある。Facebookとバッティングする機能を備えるメディアがあり、こちらの方が前からやっていて馴染んでいるのでFacebookに移行しないのだ。

先ず写真。ネット上にアップする場合には、カメラ撮影→SDカード→パソコン→アップという面倒くさい作業をやっている。しかし、彼女はこのスタイルを好んでいる。 これは一眼レフに凝っていてスマホのカメラに不満なため。だから、あまりカメラ機能は使わない。 とはいうものの全くFacebookに写真をアップしないわけでもない。この面倒くさい手続きがやれない場合にはFacebookにとりあえずアップするという位置づけで、スマホのカメラ機能を利用してFacebookの写真アップが行われる。要するにデータベースとしてFacebookの写真機能を利用していると言うことで、これも第一象限になる。

ブログで第四象限:コミュニケーションーインストゥルメンタル志向的な連絡機能を利用

また、写真をフェイスブックにアップしない理由は他にもある。ブログを開設していて、そちらの方に写真をアップするからだ。で、ブログについてはFacebookでの「近況アップデート」の頻度の問題とも深く関係している。国内にいるときよりはやや増えこそするが、やはりあまり多くない。これは、近況の報告についてはブログを利用しているから。言い換えれば彼女のブログ作成の理由は一時代古い感覚のものだ(この詳細については本ブログ「ブログはどう使われているか1~4」を参照。http://blogs.yahoo.co.jp/mediakatsuya/archive/2012/8/14)。広く一般に向けて情報を発信するのではなく、身内に、自らの存在をお知らせするのがその目的だからだ。つまり、はじめから多くの不特定多数の人間を読者対象にしているわけではない。これは、現在Facebookユーザーの多くがやっていることだが、彼女にとっては未だにブログで行われていることを意味している。言い換えればブログの使い方は第四象限:コミュニケーション-インストゥルメンタル志向なのだ。

彼女の第一象限、とりわけインストゥルメンタル志向的の強いメディアの使い方から、どんなことが考えられるんだろうか?次回は、彼女のメディアの使い方について分析してみよう。(続く)

旅の情報マトリックス。各象限のバックパッカーは、だいたいこんな感じ?

バックパッカーの聖地、タイ・バンコク・カオサン地区でのインタビューについてお送りしている。で、現在はインタビューにあたっての社会学的な概念装置の提示を行っている。バックパッカーの情報行動、とりわけスマホとFacebookの使い方について、情報アクセス志向ーコンサマトリー志向、インストゥルメンタルーコンサマトリー二つの軸からなるマトリックスを設定し、バックパッカーがどの象限に該当するのかを検討するというのが、その課題。

そこで四つの象限についての旅行者の情報行動傾向(スマホ、Facebookの使い方)として考えられる状況を仮説的に提示しておこう。



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第一象限:インストゥルメンタルー情報アクセス志向→旅行動のためのツール

旅を円滑に進めるためスマホやFacebookにアクセスし、必要な情報を入手する。ネットやFacebookを利用しつつ、これからの旅に必要な情報を収集していくのがこのタイプだ。旅の情報エリート的なバックパッカーがこれに該当するだろう。とにかく自分の旅のためにガッツリとメディアを駆使するのだ(筑波大学{とりわけ比較文化学類}とか、バックパッカーが多い高偏差値系の学生に多いのでは?)。ちなみに、僕をもし仮にバックパッカーとしたら、調査をやっているので、当然この第一象限に該当する存在になる(もちろん僕は調査者なので、これには該当しない)。

第二象限:コンサマトリー-情報アクセス志向→旅のヒマつぶし

旅の情報入手をめざすが、それ自体が自分の旅のための具体的な手段や方法を獲得するためではなく、旅情報をヒマつぶしとして閲覧する。つまり、旅のROM専。あるいは旅先で、スマホからインターネットにアクセスし、日本の情報(報道や娯楽)に関するサイトをブラウズする。日本の情報環境を海外に持ち込むタイプがこれだ(詳細後述)。

第三象限:コンサマトリーーコミュニケーション志向→旅のムード盛り上げ

スマホやFacebookを他者との親密性を高めたりするための道具として利用する。言い換えれば旅情報それ自体はこういったコミュニケーションのための手段であり、情報内容それ自体についてはさしたる重要性を感じていない。また無料電話(SkypeやLINE)やFacebookも日本にいるときと同様のコミュニケーションを継続するための手段としても用いられる。

ちなみに第三象限についてはさらに二つの指向性を下位分類することが可能だ。しかし、この二つは同じ象限に属しながらも、旅のベクトルが正反対になる。

一つはメディアを他のバックパッカーとのコミュニケーションツールとして利用する場合。こちらはリアルな旅とヴァーチャルな旅の二つで旅コミュニケーションの楽しみの相乗効果を図ろうとする。つまり、旅先で出会った人間と盛り上がり、その人間や紹介された人間とFacebook上で盛り上がる。そして、今度はこういったヴァーチャルな盛り上がりが、リアルなコミュニケーションを盛り上げる。つまりリアルとヴァーチャルで「旅の醍醐味が大いに増す」という欲張りな利用法だ。

もう一つは、メディアを国内にいる友達とのコミュニケーションとして利用する場合。こちらは、旅という非日常に、日本の人間関係という日常を持ち込むコミュニケーションツールとなる。言い換えれば、これらで「どこにいても、日本」という環境を作り上げる。Twitter風に表現すれば、日本にいるFacebook上の友達に「カオサンなう」とやるわけだ。こうなるとメディアに接続している限り、どこにいても盛り上がることができる。ただし、その盛り上がりは別に海外に、そして旅に出ていなくてもいいのだけれど。

第四象限:インストゥルメンタルーコミュニケーション志向→連絡ツール

旅における連絡のためのツールとしてメディアを利用する。日本との連絡やチケットの予約などの道具としてスマホやFacebookを用いるのがこれで、きわめて事務的な使い方になる。仕事などを日本に置いてきて、いつでも連絡を取れる状況を作らない場合に、こういった利用法が用いられる。旅は楽しんでいるけれど、心性的には仕事=日常から完全に切り離されることがない(これも僕は該当する?)。良くも悪くも「大人の使い方」といったところ。

インタビューでは見つけるのが難しい第二象限

さて、今回50名ほどにインタビューした中で、この四つの象限の内、一つの象限を埋めることができなかった。第二象限:情報アクセス志向ーコンサマトリー志向だ。ということは、スマホ、Facebookの利用法については、第二象限に該当するバックパッカーはいないと考えたいところだが……僕はその逆で、実は第二象限が最もバックパッカーの中で趨勢を占める利用方法だと予想している。というのも、前回にもお断りしておいた通り、今回、インタビューを受けてくれた旅行者の人たちは、僕らのインタビューのお願いにも快諾してくれる「旅の積極派」。ところが第二象限の利用法は、こういった属性のバックパッカーの対極に位置するような利用方法だからだ。第二象限から浮かび上がるバックパッカーのイメージは、旅先でももっぱらWi-Fi環境に身を置いて、ネットをブラウズし続ける、言い換えれば日本でネットを開いたりテレビを見たりするのと同じ行動パターンを踏襲する「日本における日常的な情報環境を旅先に持ち込む」旅行者たちだ。言い換えれば、彼/彼女たちは「旅の消極派」。こういった旅行者は、僕らのインタビューのオファーを断るタイプと考えていい(僕のやっている調査があやしいキャッチセールスにしか思われていないのでは。ま、50過ぎのオッサンが、場違いなところで若者に声かけているんだがら、無理もないと言えば無理もないのだけれど)。一方、前回述べておいたように、今回インタビューを受けてくれたバックパッカーは、第二象限的心性の対極に位置している。だから、インタビューイーとしてつかまえるのは現実的にはきわめて困難なのだ。いいかえればインタビューイーを捕まえる方法自体が第二象限に該当する旅行者をオミットしてしまっていることになる。

昨年のアンケート結果ではバックパッカーの趨勢は第二象限だった

実は、昨年、同時期にカオサンで実施したアンケート調査では、こういった「どこにいても日本」みたいなツールとしてスマホやFacebookを利用する層が中心だった(たとえば、SNS(Facebook、Twitter、mixi)の使い方は日本にいるときと旅先では異なるかという質問に対して六割以上のバックパッカーが「同じ」と回答している)。ということは、今回行ったアンケート調査でも、おそらく同様の結果が出てくるのではなかろうか。アンケートに出る結果とインタビューから得られる結果の齟齬が、ここには、ある(ま、このへんが社会学のフィールドワークの醍醐味の一つともいえるのだけれど)。

というわけで、以降、インタビューの様子を第一象限に該当する人間から順番に始めていきたいと思う。ただし、前述の事情によって第二象限をスキップしながら。(続く)

分析にあたっての理論的な視点

バックパッカーの聖地、タイ・バンコク・カオサンで2012年8月中に行っているバックパッカーへのインタビューについてお伝えしている。カオサンに滞在しているバックパッカーをナンパ方式=飛び込み=アポなしでつかまえ、旅の情報行動、とりわけスマホとFacebookの使い方について聞き出すというのが、今回のねらいだ。

さて、今回のバックパッカーへのインタビューであるけれど、これは必ずしもジャーナリズム的なそれではない。あくまでも社会科学、そして社会学の一方法論としてのインタビューという手法を採用している。だから、闇雲に、かつフリーで話をしてもらうというのではなく(ちなみに、このやり方は過去20年間さんざんやりました(>_<)。ひたすらナンパし続けたというわけです)、何を聞き出すのかについての方法論を用意している。具体的にはマトリックス分析を用いている。そこで、ちょっとマトリックス分析について確認しておこう。

マトリックス分析とは

マトリックス分析とは縦軸、横軸二つの座標軸を用意し、それによって出来上がった四つの類型にタイプを分類することで調査対象のパラダイム=全体像を鳥瞰する、マーケティングなどでしばしば用いられる手法だ。わかりやすいようにマーケティングで用いられた典型的な手法をちょっと紹介しておこう。それはビールのマーケティングで、縦軸に辛口ー甘口、横軸にキレーコクという座標軸を展開したものだ。これによって四つのセグメント=象限が出来上がる。右上から反時計回りに第一象限:キレの辛口、第二象限:コクの辛口、第三象限:コクの甘口、第四象限:キレの甘口となる。80年代まで、日本のビールの多くが第三象限、つまりコクの甘口に味が偏っていた。そこで当時、大手ビール業界で第三位で、後続のサントリーにも抜かれそうな状況だったアサヒビールが、その対極としての第一象限:キレの辛口ビール・スーパードライを発売し、これが当時ガリバー的存在だったキリンラガーの市場を奪い、日本を代表するビールとなったのだった。まあ、マーケティングではこんなかたちで使われる。



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情報アクセス志向ーコミュニケーション志向、インストゥルメンタルーコンサマトリー

本調査(アンケート、インタビュー双方)ではバックパッカーの情報行動、とりわけスマホとFacebook(Twitter含む)の利用状況について、どのような目的=志向を持ってこれらを使いこなしているかについてのマトリックスを設定した。縦軸に情報アクセス志向ーコミュニケーション志向、横軸にインストゥルメンタル志向ーコミュニケーション志向というマトリックスがそれだ。それぞれの軸について説明しよう。


縦軸①「情報アクセス志向」:情報収集に関心が向かう傾向。目的は情報の獲得にある。

縦軸②「コミュニケーション志向」:情報それ自体よりも情報を取り交わすことによって、情報発信者とあいだに何らかの関わりを持とうとする傾向(親密性や連絡等)。目的は情報の授受を媒介としながら情報の相手と関わり合うこと。

横軸①「インストゥルメンタル志向」:情報を何らかの目的のために利用しようとする傾向。それゆえ情報は何かの目的を達成するための手段となる。

横軸②「コンサマトリー志向」:情報に関わることそれ自体が目的となる傾向。情報のヒマつぶし的利用。


これらのマトリックスに基づき、バックパッカーのスマホ、SNSの利用方法について四つのタイポロジー=類型仮説を設けた。この仮説のどこにバックパッカーたちがあてはまるのかが、今回の計測の目標となる。

じゃ、このマトリックスに基づけば、だいたいどんな感じのバックパッカー情報行動が考えられるだろうか?(続く)

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スマホとFacebookがバックパッカーの必須アイテムに

僕は8月になると、バックパッカーの聖地、タイ・バンコク・カオサンへ向かい、フィールドワーク・調査、そして学生の海外研修(調査実習)を行うのが年中行事になっている。で、今年もカオサンへやって来たのだけれど、ちょっと今年は例年より調査の趣向を変えている。これは、昨年夏の調査時に疑問に思ったことを確かめようというのが狙いになっているからだ。その疑問とは「バックパッカーって、スマホやSNS、とりわけFacebookをすごく使っているんじゃないんだろうか?」というものだ。

昨年、とにかく驚いたのはカオサンでスマホ(当時はほとんどiPhone)を所有しているバックパッカーが多かったこと。現在、カオサン地区はゲストハウスやレストラン、カフェなどのあっちこっちでWi-Fiが飛んでいるので、スマホからインターネットに接続するのはきわめて簡単。これらの店に入り、飲み物食べ物注文ついでにWi-Fiのパスワードをもらえば、あとはずーっと使い放題(店はパスワードをほとんど変更しないので、一度登録してしまうと、その近くに行ったときに自動的にWi-Fiに接続してしまう。僕のスマホは、去年登録したカフェのパスワードで今年もあっちこっちの店でWi-Fi接続ができた。そう、カオサンはWi-Fi天国なのだ)。この環境を利用してバックパッカーたちはスマホを接続していたのだ。で、その多くが「青い画面」、つまりFacebookを開いていた。

実際に調べて驚いたことは、去年の8月時点でその所有率が六割を超えていたこと。当時、日本ではスマホの購入率が携帯全体の新規購入者数の四割程度だったことを踏まえれば、この普及率は驚異的だった(但し、残念ながらFacebookの普及状況利用状況については、その時には調べることを思いついていなかった)。ということは、今年同じような調査をやればかなりおもしろい結果が得られるんじゃないか?そこで、バックパッカーのスマホとFacebookの関係について調べてみることにしたのだ。

で、やったのはアンケートとインタビュー。アンケートの方はまだ集計していないので詳しい結果報告は後ほどということになるけれど、調査票をざっと見ただけでわかったのはスマホの普及率が九割程度に達していること(AndroidよりiPhoneの方が圧倒的に多い)、そしてSNSの中で最も使われているものがFacebookということだった。

さて、今回の特集では、バックパッカーたちが具体的にスマホ、そしてFacebookを旅行との関連でどう利用しているかについて個別例を紹介する。カオサンでは50名ほどにインタビューを試みたが、その中で特徴的なものについて、しばらくご紹介してみたいと考えている。

インタビュー報告の前に注意してもらいたいこと

ただし、これからお伝えするインタビューは、かならずしも「一般的なバックパッカーの一般的なスマホ、Facebookの使い方」とはなっていないことをお断りしておきたい。いいかえれば、取り上げたインタビューイー(インタビューを受ける人のこと)の情報行動については、この後発表予定(9月中を予定)のアンケートに基づく統計的なデータとはかなりのズレがあることを踏まえていただきたいのだ。というのも、このインタビューでは、インタビューイーの選択にあたって二重の恣意的な操作を行い、バイアスがかかっているからだ(まあ、今回は意図的にそうしたのだけれど)。その一つは、このインタビューを引き受けてくれた人というバイアス。インタビューイーの対象となったのはカオサンを歩いているバックパッカーのうち、飛び込みで、つまりナンパ形式で声をかけてお願いし、それを引き受けてくれた人たち。ということは、こういったインタビューイーを見つけるまでには、相当数の「お断り」をされているわけで(まさにナンパ、キャッチセールスのそれで、やってるこっちも結構、ツライ(>_<))、こちら側のインタビューの意図を話し、これに積極的に参加してくれるバックパッカーは、結果として人のいい人、時間が暇な人、そして旅のことを真剣に考えている人というかたちでスクリーミングされてしまうのだ。いいかえれば、こうやってインタビューを受けてくれた人たちは、原則「旅の積極派、コミュニケーション積極派」ということになる(おそらく、同時進行で行ったアンケート調査では、かたっぱしからあんけーとをとっているので、こういったインタビューイーたちの発言とは正反対の結果がでているのではなかろうか。ただし、そちらこそバックパッカーの真の姿ということになるのだろうけれど)。

バックパッカーとは?その定義

ちなみに、バックパッカーを、僕は「航空チケットだけを購入し、現地で宿泊施設を探し、自由に旅する旅行者」と定義づけている。ということは、たとえばパックツアーやスケルトンツアー(航空券とホテルがセットになったパッケージ)を利用し、観光地の一つとしてカオサンを訪れた旅行者は、インタビュー、アンケートともに対象外としている。カオサンにゲストハウスが初めて建設されたのが78年。90年代からバックパッカー向け安宿街として繁栄し始めるのだけれど、その後21世紀に入りカオサンはバンコクでも有名なファッションスポット、観光地と位置づけられるようになった。それゆえ、現在ではカオサンを訪れる人間の九割はタイ人(とりわけ若者)であり、日本人観光客も多い(実際、こういったパックツアーのフリータイムを利用した日本人に遭遇したけれど、彼/彼女たちがカオサンを訪れる理由をたずねたところ「やっぱバンコクといったらカオサンでしょう。見とかないと」と答えられたことがある。もはや時代は変わったのだ)。

ただし、こういった定義(この定義は僕が90年代終わりに設定した。で、当時はこれで十分通用した定義だった)も、ちょっと最近では現在のバックパッカーにはふさわしくなりつつあることも確か。旅すると言うよりも、カオサンに寄ってくることを目的とした旅行者(旅行作家の下川裕治が指摘した「外こもり」する層)、ビジネスのポイントとしている旅行者(アジア雑貨商などを日本で運営していて、その買い付けにやってくる層)という具合に、目的が必ずしも「周遊する旅」というものに限定されていないからだ。旅行者たちのスタイル、目的も多様化していることは事実。だから、こういった部分も含めて今回は調査を行っていることをお断りしておく。(続く)

世界に向けたNHKのBS放送

「NHKワールド」という存在をご存知だろうか。これはBSを利用してNHKが世界中に配信しているプログラムで、NHKが制作するコンテンツの一部(主にニュースと日本の紹介)を世界各国で視聴することができるというもの(テレビドラマなどのコンテンツが含まれるとNHKワールドプレミアムになる。料金別途で、これは主として海外在住の日本人を対象にしている)。90年代、海外旅行に行ってホテルのチャンネルをいじると、よくこのチャンネルを見つけることができた。

NHKワールドは次第に普及しはじめる。タイを例にとってみよう。当初こそ高級ホテルのTVで見られる程度だったのだけれど、その内、中級ホテルでも視聴可能となった。ちなみに有料なので、これはホテル側がサービスとして導入しているということになる。

ところが、ここ数年、ホテルのチャンネルをいじってもNHKワールドが見当たらないというのがフツーになりつつある。BBCとかHBOとかStarTVとかは相変わらず入っているにもかかわらず。また、以前は見ることができたホテルでも見られなくなっているというところが増えている。まあ、おそらくホテルの側が費用対効果的な側面からNHKワールドの受信を打ち切ったのだろう。でも、なぜ?

貧相なコンテンツとWi-Fi環境の普及

で、よーくよく考えてみると、何となく納得がいかないこともない。そういえばNHKワールド、知らないうちに全然見なくなっていたのだ。旅行者の間でもNHKワールドの話を、最近はとんと聞かない。

その理由は二つあるだろう。一つはコンテンツの問題。ニュースばっかり流し続けているのだ。しかも同じやつを何度も。その他のコンテンツはベタな日本文化の紹介で、これはいずれも英語放送。あくまで「文化紹介番組」なので全然おもしろくないのだ(やたらと京都の話が出てくる。ムダに海外に向けて日本の怪しげなステレオタイプをバラまいているとしか思えない。つまり「ゲイシャ、フジヤマ、アキハバラ、サムライ」。見ていると、時々赤面してしまうことも(^_^;))。コンテンツが貧相なのが見る気を喪失させる原因というわけだ。

しかし、大きいのはもう一つの理由の方だろう。それはほとんどのホテルにWi-Fi環境が整ったこと。旅行者はパソコンやタブレットPC、あるいはスマホを持ち込むようになった。これでWi-Fiに接続すれば、日本の情報や日本語でのヒマつぶしはあらかた用が済んでしまう。なので、テレビなど見ているヒマなどない。

また、ネットならば見たいときに見たい情報をすぐにチェックできる。ところがテレビだとそうはいかない。テレビ番組表をチェックし、それにあわせて自分がテレビの前にやってこなければならない。これじゃあ、勝手気ままに過ごすという、旅の醍醐味は台無しになる。一方ネットはそうじゃない。見たいときに開けば、それでいいのだから。ということでNHKワールドはWi-Fiを整えたインターネット環境に完全に食われてしまったのではないかと、僕は考えている。実際、僕もホテルの部屋ではネットを繋ぎっぱなしだ。もちろんテレビを全く見ないというのではない。時々は見るけれど、それはBBC、そしてHBOなどの映画チャンネルだ。

そう、要するに旅行者にとってNHKワールドというTVプログラムはもはやお役御免、オールド・メディアと位置づけられてしまったのではないだろうか。インターネットの時代ではメディアの機能の移り変わり、栄枯盛衰はものすごい勢いで進んでいく。

2004年の夏、タイのホテルで、イチローの年間最多安打到達がいつかいつかと毎日NHKワールドをチェックしていた頃が懐かしい。

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