
かつてネットカフェを併設していたカオサンの旅行代理店の看板。下のINTERNETという文字が消されている。
振り返ることを知らない街・カオサン
毎年八月、僕はタイ・バンコクの安宿街・カオサン地区のゲストハウスやレストランを紹介したウェブサイト「カオサンからアジアへ」の更新をするためにカオサンを訪れている。ちなみに、このサイト。当初は僕が一人で作成していたが、現在は学生たちのコンテンツ実習として運営しているもの。ただし情報内容は本格的だ。
毎年カオサンを訪れるようになって今年で16年目になるのだけれど、この街は全くといっていいほど「後ろを振り向かない街」だ。ドンドンあたらしものが登場し、そして、それもまた別の新しいものに置き換わっていく。典型的なものはゲストハウスでかつては民家改造型の地元住民が片手間でやっていたようなものが中心だったのだけれど、それが次第に企業経営的なものに変わり、さらに現在ではかなり大きな資本を持った企業が大型のゲストハウスというか、ほとんどホテルみたいなものを建てるようになっている。その設備も当初のドミトリー、シャワーとトイレ共同(シャワーはもちろん、水)というものから、今では個室でエアコン付き、プール併設なんてのもあっちこっちに見られるようになった。そして今やシャワーのデフォルトは温水だ。
変わるカオサンのインターネット事情
近年でその変化として面白いのはインターネット事情だ。これは、本ブログでも以前に紹介したので概況については簡単に触れておくが、96年くらいからネットカフェが出現し、当初ダイヤルアップ接続程度だったものが、ハイスピードに代わり、ネットカフェがジャンジャンできて、さらに料金がドンドン下がっていった。
ところが、これがここに三年で様子が変わっている。今度はネットカフェがドンドン減っていったのだ。
その理由はWi-Fi環境の充実にある。ホテルやゲストハウス、レストランがWi-Fiをサービスとして開始し、当初は有料だったのだけれど客を呼び込む手段として、次第に無料化を進めていったのだ。その結果、現在ではこれを利用する際にはWi-Fiのパスワードをもらって接続するというやり方が一般化した。だから、ネットカフェはほとんどお役ご免になったのだ。ついでに公衆電話も激減しているのだけれど。
旅行者が持ち歩くのは二年前まではネットブックと呼ばれる小型のパソコン、そして去年からはiPhoneに代表されるスマートフォン(以下、スマホ)となった。ようするにiPhoneを持ち、カフェやホテルでこれを操作するというわけだ。だから、今や“どこでもネットカフェ”という状態であり、もはや”ネットカフェは不要”というわけだ。
スマホの時代
で、スマホは旅行者にとっては、とっても便利なメディアだ。Wi-Fi環境にあればどこでもネットのブラウズ、そしてメールの出し入れが可能なのだから。いや、一般のケイータイ電話、そしてスマホのケータイ機能すら入らない。Viber、TangoといったWi-Fi電話があれば、世界中どこにどれだけかけても無料だし、これがSkypeならばテレビ電話になる。だから公衆電話もネットカフェと同様、お役ご免になりつつあるというわけだ。
そこで、カオサン通りでネットカフェを探してみた。なんと、たったの一件(これはレストランやゲストハウス併設のインターネットサービスを除いた、ネットカフェをスタンド・アローンでやっているネットカフェの数を数えたもの)。そう、もはや、カオサンではネットカフェの時代が終わろうとしていることを、これは意味していると言っていいだろう。来年あたりはパソコンも減ってスマホとiPad中心ってなことになっているんじゃないだろうか?
カオサンのネカフェは日本のネカフェとは違っている
ただし、このことについてはカオサンを訪れたことのない、バックパッキングの経験がない日本人にとっては不可思議なことに思えるかもしれない。ネットカフェと言えばドリンクバーがあり、マンガが読めて、シャワーが浴びられ、仮眠も出来るわけで「ネカフェ難民」みたいなことが可能なはずなのだから、チープなねぐらを探しているバックパッカーにとっては最適な環境のハズ。なくなるのはおかしいのではないかと考えるのではないだろうか。
カオサンのネカフェは、残念ながらそういうふうな設備にはなっていない。まずゲストハウス=収容施設があり、それにインターネットのようなサービスが付随するという位置づけが一般的。強いて言えばネットカフェを併設したゲストハウスというスタイル。一方、日本のネカフェの場合は、あくまでも宿泊も可能なインターネット接続サービスというスタイルだから、カテゴリーが違うと考えれば、納得されるのではなかろうか。
カオサンに日本式のネカフェは……いいかも?
だが、しかし、である。だったらカオサンに日本風のネカフェを作ったら、どうなるのだろう?これって、大儲けできるんじゃ、ないだろうか?で、誰かがこんなことを考えて、これが商売としての旨味があるとタイ人の起業家たちが思い始めたら、ひょっとするとこんどはカオサンに日本風ネットカフェが乱立するなんてこともあるかもしれない。
なんといっても、ここはカオサン、決して振り返ることのない街なのだから。