台湾とロタ島に共通すること
台湾とロタ島。東日本大震災に際し、思いもしなかったこの二つの地域からの多大なるオファー。でも、何でこんな「人のいいこと」をやってくれるんだろうか?実は、これにはちゃんとした”いわれ”がある。
二つの地域には日本に対する共通の思いがある。それはロタ市長が「今こそ恩を返すとき」とコメントしたように、日本には借りがあると考えていることだ。しかも、それは六十年以上も前に遡る。
戦前、日本がまだ大日本帝国であった時代。日本は大東亜共栄圏を掲げて、東南アジア各地へと進出していった。歴史的にわかりやすいのは中国への進出で、これはやがて満州国という国家を建設するにまで至る。だがこれは戦後、1億総懺悔の一環として「悪しきこと」として取り扱われ、「進出ではなく侵略」といったような国家の歴史を巡る政治的論争が繰り広げられるようになる。そして満州国は「傀儡国」と定義づけられた。
この時、台湾は日本に併合され、日本は宗主国となった。またロタも同様で大日本帝国の支配下に置かれた。当然、戦後、こちらも1億総懺悔の脈絡で「日本が植民地支配という罪深き行為を犯した場所」として位置づけられたのだ。
ところが、この二つの国は、戦前における大日本帝国の支配に対して「恩」を感じているのだ。(加えて台湾の場合、発生した地震、水害の際に日本が経済的、そして人的な援助を積極的に行っていることへの恩も感じている)。
では、戦前、大日本帝国は何をしたのかといえば、それは未整備だったこれら地域の近代化だった。南洋庁を設置。その指導の下、これら地域の都市を計画的に建設し、法制度を整え、医療環境、教育環境を作り上げ、社会に必要とされるインフラを次々と構築した(そして南洋庁の理念には、これら地域の人々を日本人と全く同様に扱う、つまり植民地とはしないと謳っていた)。その結果、この地域は未曾有の繁栄を遂げた。このことをよく思っているわけで、実際、70歳過ぎの住民の多くが日本語を喋れたり、あるいは子供に日本語名を命名したりしている。そしてロタ、そして台湾はこういった日本の「善意」に対し「今こそ恩を返すべき」と、こういった法外な支援に乗り出したのだ。
中国東北地方=満州も恩恵を受けている
ちなみに、同様なことが、大日本帝国を「悪の国家」と評価する際、しばしばその行為の象徴とされた満州国の建設にも該当する。ここでも、満州国で働いた日本人の多くは「大東亜共栄圏」、つまり欧米に虐げられ続ける東南アジアが自立し、欧米に対抗することが可能なアジア文化圏、経済圏を作ろうという希望に燃えていた。だが、戦後、やはり1億総懺悔の文脈の中、満州国を統治する日本軍や派遣された政府の役人は、ひたすら満州を傀儡とみなし、漢民族を奴隷のように扱っていたという文脈で語られることになる(もちろん、ベタに、漢民族を蔑んで扱っていた日本人がいたことも確かだが、それらをもって当時の人間を一元的に捉えることは明らかに間違っている)。当然、中国東北地方に行って七十過ぎの人間たちに直接当時の話を聞けば、ロタや台湾の人たちと同じようなコメントが帰ってくることは予想に難くはないだろう。
しかし、こういった「事実」は、ここまで何回も書いてきた「1億総懺悔」というイデオロギーの下、全て隠蔽されてしまった。だから、僕たちは台湾やロタ島が法外な義援金のオファーを申し出てきたことが「不可思議な事態」に映るのだ。でも、実はそうではない。これは戦前、日本人、そして悪の権化とされた「大日本帝国」とそのイデオロギー「大東亜共栄圏」が行った、いわば“善行の貯金”。これが満期になって還付されただけなのだ。
だから、不可思議なのは法外な義援金をオファーしてきた彼らではなく、実は不可思議に思っている僕たちの方なのでは無かろうか。そして、ここにメディアの功罪が横たわっているのだが……。(続く)