(lalaのサイトを開くと閉鎖されたことが掲載された画面が現れる)
Appleがlalaを買収
2009年12月、アップルが米ストリーミング音楽サービス会社のlalaを8500万ドルで買収した報道がコンピューターの情報サイトなどで小さく報じられた。そしてこの五月にはアップルはLalaの活動を停止させている。この報道は、なんのことやらわからない人間にとってはどうでもいいことのことのように思えるが、音楽のネット配信とアップルの戦略についてある程度知識のある人間には、実は聞き捨てならぬ事態なのだ。というのもアップルによるLalaの買収とこれに基づいて予想される今後の展開は、われわれの音楽の購入パターンや聴き方を根底から変えてしまう可能性があるからだ。MacがiPodが、そしてiPhoneがそうであったように。そしてiPadが、おそらくそうであるように。
サブスクリプションとは
Lalaは楽曲のサブスクリプション・サービスを行っていた企業。日本ではサービスが展開されなかったが、同様のサービスはナップスター・ジャパンが今月いっぱいまでおこなっている(米ナップスター社との契約更新がなされなかったため、日本サービスは五月をもって終了する)。具体的に何をしているのかというと、要するにネットを利用したジューク・ボックスと考えればいい。lalaは800万曲の楽曲を用意し、ユーザーはコンピューターとネットを介してその中から自由に曲を聴くことができる。曲単位でストリーミングさせたり、ダウンロードすることができるのだ。またナップスターの場合は定額聴き放題というサービスもある。月極で使用料を払えばライブラリーの曲を何曲聴いても価格は同じ。ちなみに日本では月々1000円程度でこのサービスを展開していた(ストリーミングのみ。これをミュージック・プレイヤーに落として楽しむ場合には倍程度の契約だった。ただしiPodはダメで、専用の東芝製デジタルプレイヤーが必要だった)。800万曲と言えば聞きたい楽曲数のほとんどをカバーしているわけで、言い換えればこのサブスクリプションサービスに加入していれば巨大なレコード屋を持ち歩いていると言うことになる。実際、最新盤のアルバムも提供されていたわけで(たとえば2009年12月、ナップスターではスーザンボイルのアルバム『夢やぶれて』が発売直後にアップされていた)、これは便利なサービスだった。
ITMSにlalaのサービスが持ち込まれる
世界で最もシェアを持つデジタル・オーディオ・プレイヤーのiPod。その成功の秘訣は操作の簡易性やデザインの良さもあるが、最大の要因はiPodに楽曲をダウンロードするソフトウェアiTunesの出来の良さにあることは、もはや言うまでもない。ディスクを入れれば即座にiTunesが立ち上がり,ボタン一つでプレイリストにコピーされ、これをiPodにダウンロードすれば完了。全ての行程をこなすのに十分とかからなかったのだから。実はiPod登場の前にもデジタル・オーディオ・プレイヤーは存在した。にもかかわらず普及しなかったのは,ひとえにこの操作性の優秀性にあった(iPodはiTunesがWindows版をダウンロードで無償提供した瞬間ブレイクしたことはこれを傍証する)。
(ご存じ、iTunes)
iTunesにはその中にミュージック・ストアである(ビデオやソフトウェアなども販売している)iTunes Music Storeがある(以下ITMS)。ここでもlalaと同様、楽曲のダウンロード購入は出来る。ただしお試しで三十秒聞けるという程度だ。サブスクリプション、つまり聴き放題+ダウンロードし放題のサービスはない。一方、lalaにはその機能がある(ただしNapstarのように聴き放題というスタイルではなかったが)。そしてアップルがこれを買い取った。アップルが企業を買い取るという場合は一定のパターンがある。その多くが買い取った後にそのアーキテクチャーをアップル風に改変し市場に出すという作業を行っているのだ。たとえばiLifeのシーケンスソフト・Garage Band(シンセサイザーのソフトウエア)などはその典型だ。いやいやそれどころかアップルの最も中心的なアーキテクチャーであるMacOSXも元はといえばネクスト社のOSだし、iPodも買収した他の企業の技術がベースになっている。ということはlalaの買収とは、将来的にはITMSにサブスクリプション・サービスが展開される可能性が十分にありうることを意味するのだ。8500万ドルという買収額はタダことではないのだから。
では,これを買収してアップルは何をしようとしているのか?(続く)