結局「秘島」って、何?
こう考えると「秘島」の意味がだんだん怪しくなってくる。つまり、僕たちがイメージしている「秘島」とは”人がいなくてワイルドだけど快適な小さな空間”ということになるのだが、これは二律背反的なものでしかないのだ。ワイルドだったら快適なわけはないし、快適さを求めるのなら人の手垢がついたところ。しかし、それはもはや「秘島」ではない。こう考えると「秘島」という考え方それ自体がファンタジーと考えた方が良さそうだ。じゃあコパンガンのBoon'sは、なぜ「秘島」になり得たのか。それは要するに経営者の伊達や酔狂によって、ワイルドな地、そして当時では秘島と呼ばれることすらない島に目をつけ、知性を持って快適な環境が作りあげたからに他ならない。そして、こういった「ワイルドだけれど快適な空間」は、かつてまだ島やビーチが開発されていない頃には、確かに存在したのだ。とてつもなくきれいなビーチ、しかも比較的近くに街や港があり、食材を入手するのも豊富といったところが。
ところが、ツーリズムが全世界的に展開し、そういった「秘島」的なフロンティアは消滅してしまった(強いて言えば、今アジアで残っていて「秘島」になる可能性があるのはミャンマーのアンダマン海の島々だろう。もちろんミャンマーが民主化されればという条件付きだが)。だから、よ~く考えると秘島は「なかった」ということもできるし、たまたまあったものもツーリズムによってつぶされてしまったということなのだ。そう、もはや「秘島」はない。
秘島のイメージを堪能できる場所は、ある
90年代以降、僕は秘島を追い求めるのをやめた。でも島やビーチでリゾートすることは続行した。僕は秘島ではなく「秘島のイメージを満喫できるところ」を探すことにしたのだ。こう考えると、この条件を満たす、つまり「チープでリッチなリゾートライフ」を満喫できるところは、何も遥か彼方の小島である必要はなくなる。しかも、情報を丹念に拾っていけば、意外と大都会に近いところにある。たとえば以前に紹介したタイ・パタヤのラビット・リゾート。パタヤビーチとジョムティアンビーチの間、というかジョムティアンビーチを入ってすぐの横道を入った所にあるリゾート。大きな道ジョムティアンロードをちょっと入ったところにある。ジョムティアンロードは大型ホテルがボンボン建っていて、レストランもいっぱいあり、はっきり言って喧噪という言葉がふさわしい。ところが、ここは道をちょっと外れただけで、街の中にありながら排他的な環境が実現されている。しかもプールの真ん前にビーチがあるプールから少しだが眺めることが出来る。それどころかプールでインターネットをすることすら出来るのだ。これも、この地を知り尽くした人間が、ポイントをつかんで、自分の世界を徹底的に展開し、それをお客に楽しませるという、知性溢れるスタイル。そして都会の猥雑やシーフードに舌鼓を打ちたければ10分ほど歩けばいい。いわば、パタヤの中にある秘島だ。ちなみに他にも結構こういう場所はある。タイならラノーンの○○、ホアヒンをちょっと離れたところ、サイパンの隣の島、バリ島の○○ビーチ……そう、秘島はもはやない。しかし、イメージとしての秘島はさがせば、実はある。それを見つけることが出来るかどうかがポイントということになるんじゃないだろうか。