自販機の数が決めるドリンクの販売量。だからこそゲリラ戦術だーっ!
で、このサイダーのデザインデザインも豊島園の「史上最低の遊園地」戦術と全く同じ立ち位置といえる。だいたい、ドリンクの売り上げというのは、ある要因によって決まってしまうもの。それは自販機の数。だから、たとえ、どんなにまずかろうが日本でいちばん売れる缶コーヒーはコカコーラボトリングのジョージアになる。自販機の数が圧倒的だから、当たり前なのだ。そんな中で、KAGOMEもまた自販機をあちこちに置くことにした。しかし、当時はいろんなメーカーのドリンクが入っているという自販機はほとんど無く、全部一つのメーカーによって商品は占められていた。で、KAGOMEも同じ戦略を採らなければならないことになるわけで、とりあえずトマトジュース、野菜ジュースの他にもラインナップを並べなければならない。ジャンク系の清涼飲料水も必要だ。もっともコカコーラボトリングなんかに比べたら「多勢に無勢」。自販機の数のなさは逆の意味で圧倒的。ならば、どうせ売れるわけがないのだから、ネーミングだけでも気を引こうと考えた。その思案の挙げ句の結果が、このダサさ戦術だったのではないだろうか。とにかく一回でも買ってもらうためには、あるいは「笑かせネタ」として使ってもらうだけでもいい、そんな魂胆があったように思えて僕にはならない(実際、ここで、僕は「笑かせネタ」で書いているわけだし)。
で、結果はどうだったろうか。いうまでもない、この商品はほどなく消え去っていった。まあ、想定内のことではあったのだが……。だから、この商品戦略は何ら功を奏すことはなかったのだ。でも僕は思う、このばかばかしさのおもしろさを。そして、企画スタッフたちが考えに考えていたと言うことを。で、失敗しているから、いっそう哀れで面白いのだが。とにかく、このスタッフはすご~く当時の販売戦略を勉強してた。そのことだけは、ほんと~に、よくわかる。
最後に。まだ一つ、オチは、ある
これで分析が終わりかと、思うと、まだまだこのドリンクにはオチがある。しかも、ギョーカイ向けのマニアックなオチが。前述したように80年代は記号論的な装置を使った商品戦略が花開いた時代だった。そんな状況を作り上げてしまった張本人はいうまでもなく糸井重里だったが。で、このドリンクは、アカデミズムの香りも十分漂わせている。そして、それが最後のオチと言うことになるのだが。記号論的なマーケティングで、常にポイントとなったのは消費者にとって「ダサい奴らに差をつける」ということだった。これを「差異化」と呼ぶのだが……。この辺まで来ると、さすがにもうピンときた御仁もおられるだろうが。そう、このドリンクにつけられていた絵は「サイ」だった。つまり、サイダーのカンに動物の「サイ」をつけることで、この缶ジュースは「記号的な差異」を図ろうとしていたわけだ。つまり、この動物のサイは「記号的サイ」だ~っ!。あるいは「記号的CIDER」というダジャレなのである。
このドリンクのデザインを企画したチームは、ほとほとアホとしか思えない。このアホさ加減を僕は、サイコーに評価したいと思う。笑っちゃうけど。