勝手にメディア社会論

メディア論、記号論を武器に、現代社会を社会学者の端くれが、政治経済から風俗まで分析します。テレビ・ラジオ番組、新聞記事の転載あり。(Yahoo!ブログから引っ越しました)

2007年08月

立地を考え尽くした味?

カオサン・プラアチットに若き起業家がはじめたタイ料理レストランRAKK。そのカジュアルでいて上品な味にビックリ。しかし、それだけではないプラスアルファがどうもあるようだ。

もちろん、味がよい、雰囲気が良いだけでその店が成功するとは限らない。そのレストランが置かれるインフラストラクチャーもまた踏まえなければならないからだ。だが、そのことも、このRAKKは織り込み済みに僕には見えた。前述したように、このエリアにやってくる客の大半がタイの若者、しかも大学生を中心としたエリート層だ。これにカオサンから溢れたファラン=海外ツーリストが加わる。この二つの客層にこの味は実にマッチしているように、僕には思える。

まずタイの若者たち。いまどきのタイ大学生は、もちろんタイ料理で育っているはずだが、その一方で洋風文化、とりわけファーストフード文化にも十分馴染んでいるだろう。日本人の僕らと同じくハンバーガーやピザ、パスタ、フライドチキン。そしてコーヒーこういったものを子どもの頃からして親しんできたことは間違いないだろう。とりわけ大学生なんてのはおぼっちゃん、お嬢ちゃんなわけで、こういったちょいとカネのかかりそうな食事は普通のタイ人若者以上に関わってきたはずだ。ということは、彼らの味覚は今やタイと洋風のハイブリッドということになる。そんな味覚の彼らにとっては、タイ大衆食堂のコテコテタイ料理はちょいとヘヴィ。むしろ、マイルドな洋風テイストの方が親しみを持つのではなかろうか。いわば、ここで今日されている料理はタイ料理のヌーベル・キュイジーヌなのだ。しかも、洋風のファッショナブルな空間で恋人や友達と連れだってというのが、彼らのいつものライフスタイルに合致する。となれば、ここはタイ大学生たちにとっては、うってつけのレストランということになる。

また、ファラン=ツーリストたちにとってもこのタイ料理は歓迎すべきものだろう。味はマイルド。辛すぎず、そしてパクチーが強すぎず、それでいて基本はしっかりしている。となればファランたちにとってはタイ料理入門の場として、やはりうってつけのレストランとなる。

しかも、これらの客層に合わせて価格もほとんどが一皿100バーツ以下とリーズナブルな設定。エリートの子どもたちとはいえお小遣いで食べることになるゆえ、そんなにお金は出せない。そして、バックパッカーゆえそんなにお金は出せない。そんな金欠客層には完全にスイートスポットの価格設定なのだ。

こうやって考えてみると、この若手の起業家、なかなかしたたかだと言える。二年後、三年後この店はどうなっているのだろう、僕は、この行く末を楽しみしてみたいと思う。さしあたり、近々にRAKKを訪れ、グリーンカレーを注文することにしよう。そうそう、ワインは持ち込んだ方がいいだろうなあ。

タイ料理のヌーベル・キュイジーヌ、ここに登場

前回に続き、タイ・バンコク・カオサン地区でタイ・レストランを経営する若き起業家を紹介している。今回は料理に焦点をあてたい。プラアチット通りにあるレストラン”RAKK”は料理も、ちょっと手が込んでいる。

メニュー表を見てみると、なんとリストはすべてタイ料理。これはなかなかチャレンジングだ。というのもカオサンにあるこの手のレストランだと、まずハンバーガー、サンドイッチ、ピザ、パスタといったメニューが並び、おしまいの方にオマケ的なノリでタイ料理が登場するのが普通。ところが、どこまで行ってもそういったファラン=白人向けメニューが登場せず、ひたすらタイ料理が続いている。「おっ、こりゃ強気だな!」僕は、思わずそう思った。

.で、もっと「強気だな」と思ったのはオススメメニューをたずねたときだ。その答えは、グリーンカレーとトムヤムクン。「なんで、そんなタイ料理でも一番ベタなこの二つを勧めるんだ」僕は、そう言い返すと「いや、いいから試してみろ」という。そこで、とりあえずトムヤムクンだけは注文することにしたが、グリーンカレーは遠慮し、代わりにこの店のオリジナル料理を出してくれるように頼んだ。すると出てきたのはラープ・トーッという料理。確かにこれは見たことも、聞いたこともない。この料理、イサーン(タイ東北)料理のラープ・ムウ(豚挽肉を各種ハーブで炒めた酸っぱい料理)をトーッする、つまり揚げてかき揚げにしてしまうというもの。

さて、出てきたラープ・トーッには、これに付けるタレみたいなものは一切添えられていない。そのまま食べるらしい。で、これを口にすると……味は確かにラープ・ムウの味だが、かき揚げなのでサクサク。この歯ごたえとラープの酸味が独特のハーモニーを奏でている。「こりゃ、やるな」

続いて、くだんのトムヤムクンが登場。白いシンプルな洋風の食器に供されている。ちなみに、この店の食器は全部白の「無印良品仕様」だ。トムヤムはココナツ入りのやつなので白濁している。店のオーナーが自慢した、このどこにでもあるようなメニューを口にしてみると……。実に考え抜かれたトムヤムだった。日本ではタイ料理といえばトムヤムクンが代名詞みたいになっているが、このスープ、おいしく作るのは結構難しい。酸っぱすぎず、甘すぎず、そして辛すぎずといった具合で、結構微妙なバランスが勝負になるからだ。

まず、味はマイルド。大衆食堂に出てくる強烈なやつとは正反対。酸味も甘み、そして辛みもほどほど。ところが、ダシ?の取り方が絶品だ。あくが出ないように、上手にダシをとっていてレモングラスの酸味とショウガの香りが実に上品(ちなみに大衆食堂だとトムヤムは火のついたポットで供されるのだが、さっさと食べないとあくは出るわ、酸味はくどくなるわ、エビは硬くなるわで、とてもじゃないが食べられないものになる。あの食べ方はワイワイやるにはよいが、味を楽しむというやり方ではない)。唐辛子も良いものを使っているんだろう。辛みよりも唐辛子の甘みがキレイにスープに伝わっていてレモングラスと完全に調和しているのだ。

この手の味は高級タイ料理の類の味付け。おそらくシェフはどこかの高級レストランかホテルで働いていたのだろう。食器のチョイス、盛りつけ、味ともに実に手が込んでいて、しかもそれらがキレイに調和しているのだ。

この料理の上品な酸味と甘みには、やはり上品な酸味と香りのワインがよく似合う。「ブルゴーニュの白、出来ればマコン・ヴィラージュがないものだろうか」、そんなことを僕は考えた。味的には、十分オススメに値する。ただし、味だけで店が成功するとは限らない。この味のコンセプトには、どうも、もう一枚考え抜いたものがあるのではないか?(続く)

カオサンの新天地にオープンしたプチ・レストラン、RAKK

紹介するのはカオサン西のプラアチット通りに面したプチレストラン、RAKKだ。プラアチット通りは、カオサン通りの発展とともに拡大した、カオサン的ムードを備える空間の一角だ。以降、これをカオサン地区と呼ぶことにする。2000年あたりからバーやカフェ、レストランなどが建ちはじめたエリアだ。

だが、カオサン通りからはやや遠い。そのためカオサン的、つまり欧米白人(タイ語ではファランと呼ぶ)が好みそうな店構えにしていながら、その実、訪れる客のほとんどがタイ人、しかも若者。タマサート大、チュラローンコーン大の学生などがよく訪れるため、当初はスクールストリートと呼ばれたこともあった。要するにファラン的な雰囲気を味わいながらも、本当のカオサンはちょっと足が向かいにくい、という若者たちが、カオサン通りっぽいファッショナブルさを求めて、仲間とここにやってくると行った場所なのだ。だから、2000年頃は、このエリアのバーで飲んでいる若者たちのスタイルといえば、メコンという国産ウイスキー(もどき)をボトルで注文し、炭酸かコーラで割ってワイワイやるという感じだった。


ところが、カオサンエリアの拡大によって、カオサン通り的ムードがプラアチット通りにも波及してくる。そんな中で、タイ人若者だけでなく、ファランも相手とするようなレストラン、バーが営業し始めた。ただし、基本はやはりタイ人若者。だからタイ・テイストのメニューが並ぶ。しかし、ちょっと様子を変えながら……。

RAKKは、そんな環境の中、プラアチットを彩るレストランの一つとして今年オープンしたタイ料理レストランだ。RAKKとはタイ語でLoveの意味。店を始めたのは、言わずもがな、やる気満々の若起業家二人。その気合いはさまざまな形で店の経営に現れている。

まずインテリア。間口二間、奥行き八間程度の細長い店内。玄関の間口は前面ガラス張りで、外からは中の様子が丸見え。お陰で中にいてもヨーロッパのオープンカフェのような開放感がある。また、そこで食事している客は、通り過ぎるお客にとってはアイキャッチャーとなる。とはいうものの、まあ、これはプラアチットにあるバー、レストランの「お約束」的な構成でもある。

内装は壁が剥落して煉瓦が丸見えといった「装飾」が施されている。たとえていうならばリバプールにあるビートルズが生まれた’キャバーン・クラブ’風。店内は狭いゆえ、テーブルは五つ。二人がけが二つと四人がけが三つ。にもかかわらず、一番奥には大きなソファが置かれており、ここで関待ちの客をもてなす。と同時に、ソファ自体が店内を演出するインテリアになっている。ちなみに奥には階段があり、二回にも同様に演出されたテーブルがある。雰囲気や、よしである。

ただし、やはり、この程度は他の店でも、まあやるだろうなあ、というレベル。問題はこの先のやる気、とりわけ料理へのこだわりにあった。(続く)

ビジネスに夢を託す若き起業家たちのフィールド

タイ・バンコクの安宿街カオサンは、その発展とともに様相を変容させている。今やカオサンはバンコクでも有数のファッション・スポット。バックパッカーというよりも、多くの対若者が押し寄せる空間と化している。当然、ここは一攫千金の場であり、ビジネスチャンスを捕まえようと有象無象の起業家たちが、押し寄せている。そしてその一つが、前回報告した、大規模な投資でホテルやレストランなどの巨大な商業施設を建設し、カオサン空間を変容させている隊の事業家たちだった。
しかし、ここにビジネスチャンスを見いだしているのは、なにも有り余るカネをもてあましている、こういった連中ばかりではない。そこそこの資本とやる気で、やはり、ここに夢を見ている連中もいる。今回は、こういった若き起業家たちのカオサンにかける夢をご披露しよう。

牧歌的な安宿街環境が払拭されていく

タイ・バンコクの安宿街カオサン地区の変容は着実に進んでいる。街は次第に大きな商業ビルが林立しはじめた。

こういった起業家たちによるカオサン内う施設の巨大化、システム化は、一方でカオサンがかつて持っていたものを消滅させる。一つは「不潔と猥雑さ」だ。小汚い印象、ドラッグなどのダークなイメージ、貧乏安宿街の何事もサバーイサバーイのいい加減さ、こういったものはすべて払拭されていくのだ。一面がクリーンな環境に転じていく。

それは歓楽街としては健全な方向に転じているわけで、それ自体は良い方向といえるのかもしれない。しかし、バックパッカーにとってこういった環境はどうであろうか。

バックパッキングのビギナーにとってはこれは快適な環境だろう。汚くないし、食べ物も自分たちの文化にあったものにカンタンにアクセスできる。なんならコンビニで買い食いしたっていいのだから。

しかし、バックパッキングの楽しみを「現地へ行って、パックツアーでは得られないさまざまな経験をすること」としたら?こう定義した瞬間、カオサンはそんな楽しみなどないビジネス的な空間のイメージが前面に現れてくるのではなかろうか。かつて、このエリアのゲストハウスは民家改造型、つまりフツーの家が、サイドビジネスとか国際親善みたいな気分で自分の部屋の開いているスペースを改造して、お金のないチープな旅行者たちを収容するというものだった。そこでは、ゲストハウスを運営する家族と宿泊客との、そして宿泊客同士のフレンドリーな関わりが展開され(だいたい、ビンボー旅行者から大金をせしめることなんか出来るわけないわけで、当時の経営者たちは本当にインターナショナル・フレンドシップでやっていたノリだったらしい)、そういった親密な関係が旅行者、そしてゲストハウス経営者双方にとってのヒューマンな財産となっていた(もちろんドラッグなどのダークな面でも、もう一つの「ヒューマン」な財産となってもいたのだが)。

しかし、現在起業家たちが進めるシステム化と大型化を旨とするこれら施設内ではプライベートが重視され、そこに見知らぬ者同士が関わり合うようなシチュエーションはほとんど設けられていない。つまり旅行者=バックパッカーが集う空間とは必ずしもいえないのである(もちろん、かつての面影が完全に消え去ったわけではないが)。 

そう、かつての牧歌的な安宿街という環境はここから完全に駆逐されようとしているのだ。今、安宿街といえばカオサンだと聞かされて、やってくる若者が実際のカオサンを観て、「安宿街というのはこういうものなのか」と思ったとしたら、これはもはや大間違いということになる。もうカオサン(とりわけカオサン通り)は安宿街ではないのだから。

バックパッカーのニーズに応えるかたちで拡大していったカオサン。しかし、今やカオサンはファラン=バックパッカーのものではなくタイの若者のもの、消費文化を彩る空間になろうとしている。

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