(以下、ネタバレは含まれていません。)
2007年05月
ホテルがホテルであるために(5)
意外にも、すぐ側にスゴイ、サービスのシステムがあった
さて最後にメルリンビーチホテル周辺のちょっと面白いお店を紹介しよう。その名はパトン・ガーデン・レストラン。メルリンビーチリゾートのプライベートビーチ横の丘の中腹にある。大型ホテルがあると、その周辺にミニマートやら、おみやげややら、レストランやらが出来るのだが、そういった「ハイエナ商売」で儲けているのがここ。つくりはいわばバックパッカー向けビーチバンガローの併設レストラン風。つまりよく言えばワイルド、悪く言えば掘っ立て小屋。にもかかわらず、料金は結構高め。シンハービール大瓶一本150バーツも取る(これはスーパーで一本45バーツ)。それでもメルリンビーチリゾートよりは安いが。料理も一番安い野菜チャーハンで80バーツくらい(これもバンコクの大衆食堂だと30バーツくらい。メルリンでは180バーツ+税金+サービス料)。なかなかセコイ商売をすると思ったが。ビールはキンキンに冷やしてある、料理は意外なほどに外連味が無くウマイ。そしてスタッフは常に客に注意し、ヒマがあればお愛想してくる。ビールはピーナツつきだし、雨の日にやってきたときには「わざわざきてくれてありがとう」とミネラルウォーターをプレゼントしてくれた。このスタッフたち、全く手を休めず、客に関心を払い続ける。時間をもてあましているお客には必ず話しかけているのだ(こりゃ、温泉女将の心づくしのおもてなしバージョンだね)。お陰で、この店だけ、いつ行っても満杯。多分この連中、いずれデッカイレストランでも作ってしまうんだろうなあという印象を受けた。ここには小さいながらもホスピタリティの精神がスタッフ全員に浸透している。だからサービスを受けているこちらも、とても気持ちがよい。二回目に店を訪れたときには、もちろんこちらの顔をすっかり記憶していた。脱帽である。
大衆化の中でのホテル=リゾートのこれから
ホテルはこれからどうあるべきだろう。かつてとは異なりホテルは限りなく大衆化を遂げている。ならば、その大衆化にともなってホテルもかつてのようにお高くとまっているわけにはいかない状況にあることは言うまでもない。ホテルがホテルであるために(4)
スゴイホテルを紹介しよう
ホテルの話をしてきたので、ここタイのとっておきのホテルを紹介したい。ホアヒンにあるソフィ・セントラル・ホアヒンだ。もともとはタイ国鉄が経営していたセントラル・レイルウエイ・ホテルをマネージメントで定評があるソフィテルが買い取ったもの。建物は築90年(最も古いもので)の総二階建て、コロニアル建築。ただし駅舎風であり、レストランもレセプションも駅の待合室やプラットホームをイメージさせる作りになっている。ここのサービスは本当に痒いところまで手か届くレベルだ。ゴロゴロとスーツケースを押して玄関にやってきたわれわれ(そんな客はわれわれしかいないだろう。普通はタクシーでレセプション前まで乗り付ける。われわれはバスでバンコクからやってきて、バスターミナルからスーツケースを転がし、歩いてやってきたのだ。バックパッカーのケチケチさ加減がなかなか抜けません。所詮、ビンボー人?)。それに気付くと、なんと守衛が荷物を運び出したではないか。「あの、それ、オタクの仕事じゃないんですけど」といってもかまわず荷物をどんどん運んでくれた。ホテルがホテルであるために(3)
接客サービスこそ、すべて
プーケット・パトンビーチ南のメルリン・ビーチリゾートを例にホテルはどうあるべきかについて考えてきた。前回までその必要条件としてマネージメントがきちんとしていることを指摘しておいた。それでは十分条件とは何か?スターウッド(ウエスティン、シェラトン、セントレジス、Wなどのホテルを抱える企業)という世界最大のホテルチェーンに勤め、ニューヨークのエセックスハウスやウエスティンのフロントのマネージメントを任された僕の友人は、こういう時には1.同等の部屋を用意する、2.アップグレードする、のどちらかで対応するというのが常識という。ホテルは生き物であり、顧客はその生き物にとっての重要な食料源。だから、こういうミスがあったときには印象の悪さをぬぐうどころか、ここぞこてこてのサービス、つまり普段の倍のサービスでもてなし「対応がいい」と評判を取ってしまうこと。つまりマイナスをむしろプラスに転じさせるような発想こそが大事だという。それがホテルというものを成長させ、生きながらえさせるためのビジョンなのだと。
もちろん、今回対応してくれたスタッフ(日本人だった)がふざけていたというのではない。彼女は一生懸命やってくれていた。しかし、それは「ガキの使い」レベルなのだ。そう、このホテルがもうワンランクレベルを上げるためには、ホテルのビジョンを掲げ、それをスタッフたちに浸透させる必要があるのである。
ホテルは何をするのか、誰を相手にするのか、どう対応するのかということについて試行錯誤を重ね、それを施設とスタッフに換言していく。それが蓄積されることでホテルは文化と歴史と伝統を備えることが出来るようになる。メルリンビーチリゾート、道はまだまだ遠そうである。