メディアの時代
これまでお話ししてきたこと
これまで情報の伝わり方についての研究と、はじめに僕の研究について説明していただいていましたが、最終回の本日は「では、メディア論って何?それのいったいどこが役に立つの」という視点からメディア論の説明をさせていただきたいと思います。メディアとは何か
メディアというのミディアムという英語複数形(いわゆる不規則変化というやつ)というと、これでメディアの基本的なとらえ方がわかります。これは我々の日常でもよく使われている言葉だからです。たとえばあなたのTシャツの首のところにあるマ-クの一つがこれ。つまりS、M、LのMがミディアムのM。それからステ-キの焼き方。レア、ミディアム、ウエルダムのミディアムですよね。つまりメディアというのは「真ん中」という意味。「真ん中」ということは二つの間の中間という意味も。そして、さらにそこから派生してメディアとは情報を取り持つものと言うことになります。情報を伝達可能なもの、情報を取り持つことの出来るものならすべてメディアなのです。たとえば、今僕は皆さんにお話しさせていただいてますが、このとき、音声、日本語、そしてラジオ放送が僕の情報を皆さんに伝達するメディアと言うことになります。もちろん文字、絵、テレビ、ラジオ、雑誌、電子メディアも情報を取り持つものですからメディア。ちなみにテレビ、ラジオのような大量の情報を伝達するようなメディアをマスメディアといいます。
で、こういった情報伝達手段としてのメディアは、得てしてあんまり大事じゃないと思われがち。どっちかと言えばメディアよりメディアによって伝えられる情報の方が肝心というのが一般的な考え方。だから情報が伝わるのであるのならばメディアは何でもかまわないというふうに、しばしば私たちは考えます。
メディアが大切なわけ
でも、考えてみてください。情報を伝えるときにメディアが違えば伝わり方が全然違っていると言うことはごくごくあたりまえです。そしてわれわれは無意識のうちに、これを使い分けています。たとえば、ラジオでお話をする際、その第一声が「こんばんわ」であるとします。これ、ト-ンをかえれば全く情報は別のものになってしまいます。この場合は、ト-ンが情報を伝えるメディアと謂うことになります。また、公式のお願いは絶対に文書ですが、親密な人間同士で文書なんか交わしません。彼女とコミュニケ-ションするならメ-ルだけでなく、口頭で直接告げるなんてやり方もします。それから愛の言葉をささやくならば電話がイイ。なぜかって?電話は耳元でささやいているのと同じ効果があるからです。メディアの時代
ただし、これまでこういったメディアを使いわけた情報の伝え方はまがい物っぽい言い方がよくされていました。本当に大切なのは情報であって、メディアはそれを伝えるための手段に過ぎない、というわけですね。ところが情報化時代は、こういったものの謂いが必ずしも通用しない時代となっているのです。それはなぜなのでしょう。それは情報が必ずしも正確に伝わらないという感覚が、私たちの認識の中で一般化しているからです。わかりやすいように、今から四十年くらい前の高度経済成長時代を振り返ってみましょう。この時代は、今と違って、国民全体が共通の認識を持っていた時代でした。具体的には高度経済成長神話といわれる「みんながんばって働こう。そうすれば人も国家もみんな豊かになって、幸せになれる」という考え方です。だから当時の人たちは一生懸命働くことに動機があった。ようするに価値観がかなり一元化されていたわけですね。
ところが情報化が進むとそういうわけにはいかなくなります。人々は自分の欲望に合わせて、あちこちから情報を入手するようになる。ということは一つの情報がみんなに共有されなくなってしまう。つまり、ある人にとっては真実で絶対に見える情報でも、他の人にはそうでないというのが一般化してしまうんですね。
また個人の中でもそういう認識は一般化していきます。自分の持っている情報が、あまり信じられないということが起きているわけです。