ゴールデン・ドリームズ
完璧なまでのストーリー展開
カリフォルニアの歴史と精神性を紹介した映画。というと東京ディズニーランドにあった日本の歴史を紹介したアトラクション、ミート・ザ・ワールドをイメージしたくなるが、これは全く持って似て非なるものだ。まず、こちらにはオーディオ・アニマトロニクスはないし、カルーセル型の会場もない単なるシアター。しかしながら、その作品の質はとんでもなく高い。話自体はカリフォルニアにやってきた様々な文化・国の人々の夢やこの土地にかける思いが現在をカリフォルニアを作り上げたというごくごくシンプルなものなのだが、構成がうまく感動させられる。三万年前の西海岸で暮らす原住民の暮らしから始まり、スペイン人の移住、ゴールドラッシュ、大陸横断鉄道敷設のために一万五千人もの中国人が働き多くが死んでいったこと、コロラドからの水路を造り大量の水の供給が可能になったこと、東側からよりよい生活を求めて人々が車に家財を乗せて西をめざしたこと、日本人のピクチャーブライド、戦時中、夫が戦役に出たため妻が造船ブームでわくロサンゼルスで溶接工として家計をたてていた話、戦後の郊外型生活の反映、メキシコ移民の農民たちの苦労、六十年代のヒッピー文化、七十年代のパーソナル・コンピュータの開発と話は続く。
圧巻のウーピー・ゴールドバーグ
このアトラクションの魅力は、なんといってもウーピー・ゴールドバーグの役所と彼女を中心にした展開だ。とにかくウーピーの存在は圧倒的。ウーピーはストーリーの進行役。彼女はカリフォルニアの神=天の声としてナレーションをつとめるが、エピソードのそこかしこに登場し、登場人物に奇跡を起こしたりアドバイスしたりする。ゴールドラッシュでなかなか金を見つけられず腐っている男の後ろに現れ「ほら、そこに輝くものがあるわよ(Something shining)」とつぶやくと、男は川の中に金塊を発見する。ピクチャーブライド(写真お見合いだけで結婚を決意し日本からアメリカへ嫁いでいく。かつて工藤夕貴が同名のアメリカ映画に主演したことがある)でロサンゼルス港に到着し、実際と写真とはかけ離れた老齢の男に連れられて港を出ると、日本人を敵視している男たちにトマトを投げつけられ泣き出す。するとここでもまたウーピーが登場「強く生きるのよ(Be Strong)」と励ます。船の溶接作業のつらさ、夫のいない悲しさに、作業中思わず泣き出す妻に「そんなに長く続くことはないわ?(It would not be long)とねぎらう。またハリウッドの始まりではMGMの会長、メイヤーがオズの魔法使いの企画を撮影所で話していると衣装担当がやってきてドロシーの服と靴のデザインをみせる。その時、靴はシルバーにしたとメイヤーはプレスに説明する。するとウーピーが後ろに現れて「銀もいいけど、ピンクがもっといい(Silver is good,but pink is better)と後ろからささやき靴はピンクになる(これは明らかにカラー映画の到来を象徴させるシーンだ)などなど。
おもしろいのはパソコンが開発された瞬間(これはコンピュータテクノロジーで長けていることを示すメッセージ)。大学のキャンパスの庭で二人の男が学生を集めてパーソナルコンピュータをお披露目する。集まった学生を前に二人の内の一人が「これでわれわれはいろんなことができるんだ」とひげ面の男が大手を広げる派手なアクションで説明している。すると後ろにウーピーがまた現れる。だが、この時彼女は一言もセリフをいわない。そのかわり、右手に握ったリンゴを一口かじるのだ。この瞬間、会場にはちょっと笑いがこぼれた。このリンゴはアップル・コンピュータ、そして二人がスティーブ・ジョブズとスティーブ・ウォズニアックであることをベタに示していたからだ。
そして最後に「カリフォルニアにはこれまでさまざまなところから様々な人々がよりよい生活や夢を求めてやってきて、その夢を現実にして今日のカリフォルニアを作り上げてきたの。そして今度は、あなた、あなたがこの夢を現実にする番なのよ。(And you, you keep those dreams alive)」と客席に向かって指を指しながらささやきかける。
この一連の台詞と演技でウーピーは完全にカリフォルニアの神を演じきってしまっている。自分はアメリカ人でも、ましてやカリフォルニア人でもないが、なんかすごくその気にさせられてしまった。ただ、話はここで終わらない。このメッセージの後テーマソングが流れ、カリフォルニアを築いた人間が次から次へと登場する。マリリンモンロー、ジョン・ウエイン、ニクソン、ロバート・ケネディ、レーガン、カーペンターズ、ブルース・リー、ジェームス・ディーンジャッキー・ロビンソン、スティーブ・ジョブス、キング婦人……次から次へと有名人が登場、最後にミシェル・クワン、タイガー・ウッズで締められる。
カリフォルニアは有名人だらけ
興味深いのはメキシコ・オリンピックの男子陸上競技200メートル競技で二人の黒人アメリカ選手、トミー・;スミスとジョン・カルロスが金と銅をそれぞれ獲得したにもかかわらず、表彰台では星条旗を見上げず下を向きながら腕を高く突き上げ人種差別に抗議したときの映像も含まれていたこと。彼らはその後、アメリカ陸上界から追放されたのだが、これもまたこの作品の中では肯定的なもの、カリフォルニア的なものとして取り上げられているのだ。というわけで感動的なウーピーのセリフの後で感動的な影像が次々と出てくるわけで、結構泣かせます。