みーんな知ってる、これからの、もっと怖い話し
かくして、ディズニー・アニメーション部門の将来は明るいこととなった。よーく考えれば、やっぱりピクサー以外が制作するコンピューター・アニメは、どこか出来が悪い。技術的な面はもちろん、脚本もイマイチ。(技術面はピクサーがレンダーマンというアニメーションのレンダリングソフトを製作する会社であり、これはほとんどの会社のアニメ・特撮部門(たとえばジョージルーカスのILM)でも使われている、この業界のデファクト・スタンダードだ)。カッツェンバーグとて、そんなにバッチリの作品を作っているわけではない(シュレックを除けば、まあスマッシュ・ヒット程度)。ソニー・コロンビア・ピクチャーズがアニメ部門に進出すると言っているが、これも全然蓄積がないので、最初はまったく期待できないだろう。ディズニーは、乗っ取られてもメデタシ、メデタシというところか。が、しかしである。ピクサーをよく知っている人間なら、話がこれで終わるわけはないことは、み~んな知っている。なんで?答えはカンタン。それはピクサーのCEO、そして実質のオーナーが誰か考えさえすればいいからだ。そう、それは世界で初めてパソコンを作り(ということになっている)、次に一般人がマトモに使えるパソコン・マッキントッシュを作り、瀕死のパソコン会社アップルをiMacで劇的に復活させ、そしてiPodでソニーのウォークマンを葬り去り、世界の音楽業界を根底から覆そうとしている、あの男。パイレーツ・オブ・シリコンバレーであり、現実歪曲フィールドという黒魔術を弄する、元ヒッピーの、究極自己中の、あの現代のイコン、スティーブ・ジョブズなのだから。
ジョブズがやったこと。70年代前半はインドでラリっていた。マックを売って成功したら、一緒にアップルをはじめた相方のメカニック、スティーブ・ウォズニアックをクビにした。社長に抜擢したジョン・スカリーに自分がクビにされると、すぐにNEXTというコンピュータ会社を作りアップルに対抗した。そのネクストをアップルに次期OS(現在のMacOSX)として売りつけるとともに、自らアップルに戻ると、あっという間にCEOの首をはね、自らアップルのCEOに返り咲き、前CEOの業績をすべて自分の功績にみせた(たとえばiMac)。またスカリーが立ち上げたアップルのPDA部門を、単なる個人的な怨念で潰した(アップルから捨てられたPDA部門のスタッフはPalmを立ち上げた)。要するにメチャメチャアタマがいいが、凶暴、かつ「あなたのものは私のもの、私のものは私のもの」というとんでもない人物だ。(そこが圧倒的なカリスマ的魅力であるのだが……)
さて、今回、ピクサーが買収に際して、ジョブズはディズニーの取締役に就任することになった。言い換えれば、ジョブズ菌が遂にディズニーの中枢に入り込んだと言うことでもある。ちなみにジョブズはピクサーの株の50%強を所有している。これがすべてディズニーの株に化けると、ディズニーにおけるジョブズの株式比率は7%となり、個人としてはディズニーの筆頭株主に躍り出る。
現実歪曲フィールのはじまり、はじまり
もう、これは現実歪曲フィールドの始まりとしか考えられないんだが……。つまり、例の調子で、どんどんディズニーの中で動ける範囲を拡大し、権力を拡大する。ある程度まで行けば、今度はアイガー崩しでもはじめるだろう。それでもって、お約束として待っているのは……ディズニーCEOへのジョブズの就任だ。この武器になっているのが例の「現実歪曲」用の究極マシーン、白いモノも黒く思わせてしまうようなジョブズのチョー天才的なプレゼンテーション技術であることは、周知の事実だろう。ということは、ある意味、ジョブズのディズニーCEO就任はまさに嫡流=嫡子相続であるといえないこともない。アメリカ・エンターテインメントでプレゼンが抜群にうまく、どんな話しも都合の好いように話して、周囲をその気にさせ、ありえないことを実現した歴史上の人物とは…………ウォルト・ディズニーその人に他ならないからだ。彼こそ「元祖、現実歪曲フィールドを持つ男」だったのだから。
この道は、いつか来た道?
200×年のある日のマック・ワールドエキスポ。いつものようにキーノートを展開するスティーブ・ジョブズ。新しいiPodのこと、MACのこと、新しいアプリのことなどなど、例によって歯切れ良く、聴衆を引きつけながらプレゼンテーションは続く。そして、すべてが終わって、去ろうとしたとき、突然立ち止まり、ジョブズは語りはじめた。「ひとつ、言い忘れていたことがあるんだ(One more thing.)。実は今日、僕は養子を一人迎えたんだ。ちょっと変わっ子なんだけど、みんなに紹介しようね。」
すると、袖から現れたのは……全身が黒、赤いオーバーオール、両手とも四本の指しかない、しかも白い手袋をしたクリーチャーだった。だが、それを観た途端、オーディエンスは、なぜか一斉に立ち上がり、延々とスタンディング・オーベーションをはじめた。中には、感動のあまり、涙を流す者まで……
そして拍手は、いつまでも、いつまでも、続くのだった。