キー局の一斉記者会見報道
ジャニーズ記者会見。キー局6局の内、テレ東を除く5局が中継をした。これって、恐ろしいことだと思う。なんのことはない、テレビ側の黙契というか、沈黙の螺旋というか、暗黙知というか(笑)が作動していると感じるからだ。ようするに「太いものには巻かれろ」的な心性が、選択的非注意的(無意識裡に自らにとって都合の悪い対象を感知し、それを、やはり無意識に注意=意識から除外=抑圧する行為(H.S.サリヴァン)に、ここでも選択されている。言い換えると、自らが行おうとする行動について、クリーシェ的な「思考停止」が作動している。
戦中、戦後の思考停止
第二次大戦中、人々は「鬼畜米英」のスローガンを掲げ、思考停止的に神風特攻隊や竹槍訓練に臨んだ。後者などは誰でも「意味なし」と判断できる行為だけれど(自分の母親(当時12歳)は子供心にそう思っていたと述懐している)、これは沈黙の螺旋的に選択的非注意された。ところが、こうした態度をとった人間が、戦後となると突然、"Give me chocolate!"「一億総懺悔」という態度に転向する(子ども向けに作られた「平和かるた」の読み札の中には「るうずべるとは平和神」「強くて優しいまつかあさあ」という文言がある。鬼畜が神や善人に取って代わった)。要は、そのベクトルが逆になっただけで、思考停止的な心性は全く変更されていなかったのだ。
自分はマスメディアとの付き合いが長いが、彼らの多くが報道に対しては、この思考停止的な心性を抱え続けていることをずっと感じてきた。彼らにとっての規律訓練的権力は①スポンサーの意向への無意識の忖度、②政治権力への形式的な批判と実質的な反動性、③視聴率=目前の収益へのフェティシズム、④責任回避指向、そして最近では④低メディアリテラシーに基づく、SNSへの恐怖だ。つまり思考停止的=選択的非注意的に「これは賛成(あるいは反対)しなければならない」「これを言ってはならない」という態度が作動することだ(いわゆる「放送禁止用語」(正しくは「放送自粛用語」)に対するフェティッシュな反応はその典型)。
テレビの思考停止
今回のキー局5局による記者会見一斉放送も全く同様だ。ジャニー喜多川存命時には、「太いものには巻かれろ」に基づいてジャニーズ事務所の権力に無意識に追従していた(1989年フォーリーブスの北公次は『光genjiたちへ』によってジャニーの加害を暴露したが、マスメディアは一斉に無視し、これを暴露本・トンデモ本扱いすることで、北を芸能界から葬り去っている)。ところが没後、ジャニーの性加害が明らかになると、掌を返したように、攻撃にする側にまわった(ただし、発覚当初はすぐに飛びつきはしなかった。規律訓練型権力が、無意識に権力バランスの推移を様子見したからだ)。要するに、マスメディアの対応は”Give me chocolate!"「一億総懺悔」の心性と同じ転向スタイルで、心性において変わるところは全くない。
テレビが当初性加害を渋った理由と突然ジャニーズバッシングをはじめたのは同じメカニズム
おもしろいのは、ジャニー喜多川が性加害のターゲットとしたのは、専らジャニーズアイドルとして成功することのなかった人間たちであることだ。逆に、功成り名を遂げたアイドルたちは被害に遭っていないのだ。……そんなこと、あるわけないだろう。現在、芸能界の重鎮となっているジャニーズ事務所出身のタレントもまた被害に遭っている可能性は極めて高い。おそらく東山とかキムタクとかは性被害を被っている可能性が高いのでは?。それは、今回の問題に対する彼らの曖昧な態度から垣間見える(逆にイノッチは被害を受けていないのだろう。だから、ハキハキと答えられたのではないだろうか。マスメディアはウソをつくが、メディアはウソをつかない)。しかしながら、この手のことについてマスメディアはほとんど触れることがない。なぜか?言うまでもなく、ここでも「規律訓練型権力による思考停止」が作動しているからだ。つまり、彼らはマスメディアにとっては重要な資源=商品。だから温存する必要がある。こういった心性がやはり無意識裡に作動している。そして、それは視聴者であるわれわれも例外ではない。東山やキムタクに対するわれわれの既存のイメージを破壊されたくない。そこで選択的非注意的に「彼らは被害を受けていない」と無意識裡に判断する。これまた規律訓練型権力が作動している。
ところが、今回の記者会見においては一部の記者が執拗に「あなたは性被害を受けていないのか」といった質問を繰り返すようになった。これは限りなくアウティングなのだが、これまた「太いものには巻かれろ」的な選択的非注意が作動した結果だろう。ジャニーズ事務所とテレビ側の形成逆転を”機を見るに敏”的に察知し、今度は打って変わってジャニーズバッシングを開始したのだ。このシンドロームは民間にも波及し、企業がCM等でジャニーズ事務所のタレントとの契約を打ち切る、今後採用しないと言い始めた。ちょっと考えれば、ジャニーズのタレントはむしろ被害者のはずなのだが……。にもかかわらず、被害者がさらに被害者にさせられてしまっている。これまた同じメカニズムが作動したお陰で、ねじれた状況が発生しているわけだ。
ということは、表層反省、深層無反省の構造は変わるところがないわけで、ということは、マスメディアがまたこうした「思考停止」「太いものには巻かれろ」を繰り返すことは、まあ、間違いないのではないか。